これって、音楽だけのライブでも楽しめる。舞台の端の洞窟のようなブースにうっすら見える、シンガーや弦楽奏者の姿を凝視しながら、そう思った。
シルク・ドゥ・ソレイユの公演「オーヴォ」が、お台場に建てられた巨大テントで行われている。
カナダのベサンポールで、大道芸から育った総合芸術が、どんなものだか見てみた。
「オーヴォ(OVO)」は、ポルトガル語で「卵」のこと。虫たちの世界を描いている。
体をひねらせて宙を舞うパフォーマーたち。その妙技の質は高い。
メンバーには、シドニー・オリンピックにイギリス代表として出場した、リー・ブレアリーもいる。
ジャンプで壁面を上ってコオロギを表現する。他のメンバーの動きも、彼に引けを取らない。
演技には、アクロバットやダンスの要素も加わっている。
ジャグリングや火吹きなど、大道芸的パフォーマンスも健在だ。
登場する虫は、蛍、コオロギ、トンボ、蝶、蟻、ノミ、ゴキブリ、蜘蛛など。
パフォーマーたちの衣装は、昆虫の姿を再現したものではなく、見ただけでは、どの虫だか分からない。
身体の動きによって、グラフィックに虫の姿が浮かび上がってくる。
そのデザインは、サグラダ・ファミリア教会、グエル公演、カサ・パトリョなど、スペインの建築家、アントニ・ガウディの作品からインスパイアされたものという。
森、洞窟、蟻の丘からイメージされた舞台。自然に存在する形や曲線を強調して形作られている。天上からは、巨大な花が降り咲く。
これはブラジルの建築家、オスカー・ニーマイヤーからインスパイアされている。
様々な文化が融合しているのだ。
舞台の上でパフォーマーたちが躍動する姿は、一つの巨大なアートとなる。
そして、全体が一つの物語になっている。
主役の一人、フォーリナーを、谷口博教が演じている。
クラウンを日本人がつとめるのは、シルク・ドゥ・ソレイユで初めてだ。
世界をつなぐシルク・ドゥ・ソレイユは、大道芸から始まった。
虫たちの世界を描いた「オーヴォ」は、足元にも目を向けてみようという、メッセージにも受け取れた。
(深笛義也)