人の噂も七十五日。酒席の話題は、佐村河内守から小保方晴子に移った。オボちゃんこと小保方博士の場合は擁護する人も多くて盛り上がる。それはそれでけっこうなことだが……。
だが、ねつ造なら、もっと話題にすべきことがあるのではないか。
3月27日、静岡地裁は、袴田巌元死刑囚の再審を認め釈放を決めた。次のように理由を示している。
「5点の衣類は袴田元被告のものでも、犯行時に犯人が着ていたものでもなく、後日ねつい造された疑いがある」
また、3月31日には、飯塚事件の再審請求を福岡地裁は却下している。
久間三千年元死刑囚が犯人とされたのは、DNA鑑定によってだ。それは「MCT118型」と呼ばれる手法。足利事件の再審で証拠能力が否定された鑑定と同じだ。
久間元死刑囚は、08年に死刑執行された。再審封じなのでは、ともささやかれている。
酒席で、「耳が聞こえないはずなのに、車が来ましたよ、はないだろう」とか、「下書き段階のものが製本されたって、どういう言い訳だよ」と突っ込むのなら、「本人が穿けないズボンが、犯人だという証拠になるって、どういうことだよ」とも言えるはずだ。
袴田さんを犯人に仕立て上げた、刑事や検事、裁判官の実名を、『週刊現代』は公表した。
意義深い報道だ。だが、彼らが公の場で追求されることはない。
なぜなのか?
佐村河内守が会見を行ったのは、新垣隆氏を訴えると息巻いていたことからも分かるように、少しでも自分を有利な立場に置くためだろう。
小保方博士の会見は、沈黙を続けていれば、研究者生命が危ういと感じたからだろう。
それに対して、刑事や検事、裁判官は、冤罪を作り出し、人生を奪ったとしても、立場が危うくなることも失職することもない。
当時、警部として袴田さんを取り調べた、松本久次郎は02年に勲五等瑞宝章を受勲している。
検事として袴田さんから自白を取った、吉村英三はやはり02年に勲二等瑞宝章を受章している。
袴田さんが無実であることは明白だが、釈放に対して、静岡地検は即時抗告した。
この恥知らずを叩くマスメディアはない。
彼らは、権力の壁に守られた、圧倒的な強者だ。
それに比べれば、必死に弁明に努めなければならない、佐村河内守や小保方晴子は弱者に過ぎない。
強者を追求することは決して行わず、弱者ばかりを叩くマスメディアのあり方は浅ましい限り。だが、酒席の話題がそれに釣られるのでは、大本営発表に踊らされた戦中の日本人から、たいして進歩していないのではと、考え込んでしまう。
(深笛義也)