当たり前のことだが、労働基準法で一日の労働時間は8時間、週に40時間と定められている。それを越えれば違法だ。しかしその労働時間内だけで社員を働かせている会社は稀だろう。もしかしたら日本には存在しないかもしれない。残業で働く方が当たり前になっているのは、所謂36協定が存在するからだ。そのため殆どの人は残業をして働くのが当たり前と思っている。
これだけのことでもわかるように、労働基準法はザルで抜け穴だらけだ。ブラック企業と呼ばれる会社は、この抜け穴を駆使して、あるいはザルな法律だから守る必要も無いと、高を括り平然と無視している。
ある会社で、就業規則を整備しろと、社長自らの命令を受けて作成に取り組んだことがある。社長の指示は、給料は固定の年俸制、残業代は払わない、労働時間の上限無く働けるように工夫しろ、と言うものだった。労働基準法に違反しそうなものだが、変形時間労働制、裁量労働制、管理監督者制、みなし残業制、そういったものを駆使すればほぼ作成できてしまうものだった。今までそんなものを作ったことは無かった素人が、短期間で得た知識でもどうにかなってしまうぐらい簡単だった。勿論最終的には、専門家の先生に校正してもらう手はずだったが。
他にも理由はあるが、自分自身も同じ会社で働く人も苦しめるだろう規則を作ることに嫌気が差し、退職した。その会社は能力主義、成果主義を謳っていたが、実際には社長の好き嫌いで給料は増減した。
長時間労働、残業代無し、年俸制、成果主義。これらはブラック企業には付き物の言葉だ。経営者側からしてみれば、個人の事情は二の次だ。会社の運営ばかりに目がいけば、働いている人間のことなんて考えることはない。
酷い話だと思う人がいれば、それぐらい当然だと思う人もいるかもしれない。なぜなら日本では珍しい話ではなく、ごく当たり前にある会社の姿だからだ。その証拠に、日本政府が主導の元、産業競争力会議という場で同じような内容を議論している。労使合意があれば、役職も職務内容も関係なく一般社員も政府や経営者が言う「自由な働き方」をさせられる。労使なんて、合意を得る前から合意しているような状況だから、障壁はどんどん無くなってきている。
すべての企業がそれを実施し、政府が後押しをするならば、ブラック企業という言葉はなくなるだろう。赤信号みんなで渡れば怖くない、ということだ。
(戸次義継)