◆自民躍進と大敗、両極の予想

6月25日告示、7月4日投開票の都議選挙のゆくえが混迷を深めている。6月中旬にマスコミ向けに発表された自民党調査によると、自民党は現有議席25を51まで回復するという。都民ファースト(以下、都ファ)は46議席から13議席と大敗の予測である。

これだけをみれば、データの詳細(ソース取得・分析方法)は不明ながら、自民党の逆襲という趨勢である。知事選における小池旋風に乗っかった(民進党も解党的に乗った――苦笑)、地盤もないポッと出の素人政党に、継続的な多数派支配が困難なのは誰の目にもわかる。

ところが、東京新聞・東京MXテレビ・JX通信社が5月22、23日に行なった調査では、都議選での投票先として自民党は19.3%だった。立憲民主党14.0%、共産党12.9%、都民ファ9.6%、公明党3.4%、日本維新の会3.4%である。

127議席の19%(自民)ということは、わずか24議席強で、現有議席とほぼ変わらない。ゆえに先月末の選挙展望は、自民ふたたび大敗、菅政権のコロナ対策の遅れの煽りを受けた、という分析が大半だった。

いずれにしても、都議選挙は総選挙(同年選挙)を占うものと云われている。民主党系(当時は民進党)が54議席(35議席↑)を獲得した2009年の都議選挙では、自民党が38議席(48議席↓)と大敗し、9月の総選挙で自民大敗・戦後二度目の政権交代となった。

当時は「消えた年金」という、国民生活にとってこのままの政権(官僚組織の監督)ではとんでもないことになる、凄まじい危機感があったのは事実である。ある意味では、2007年の安倍政権時の自民党政治のツケがイッキに政権交代となって顕われたのだった。


◎[参考動画]〈首都決戦2009〉 自民、逆風の中で総力戦(TOKYO MX 2009年6月23日)


◎[参考動画]〈首都決戦2009〉 一夜明けて(TOKYO MX 2009年7月14日)

◆君臨する小池知事の政治的な位置

それにくらべて、現在は対応遅れの人災的コロナ危機にあるとはいえ、国民が火急の生活的な危機感から、政権交代の投票行動に結実する情勢ではない。その危機がウイルスという天災的なものだからだ。

ひるがえって、政局的には今回の都議選は微妙な勢力図のなかにある。上述した自民党の支持率と都民ファという、前回の選挙で地滑り的に躍進した党派の帰趨である。そしてその求心力だった小池都知事が、今回は都政の権力者として、都民の批判の矢面に立っているからだ。

かつて、自民党東京都連の「ブラックボックス」「都政の伏魔殿」から疎んじられ、したがって都民の圧倒的な同情と支持を取り付けてきた立場とは違い、その専制的な政治態度がメディアの批判に晒されてもきた。

いわく「都政の女帝小池百合子は、東京五輪強行開催に批判的な国民の動静を読んで、オリンピック中止を都議選の公約に掲げるのでは?」「五輪中止を最大利用か?」と、その独特な政治判断、時流にのる政治センスが批判的に論じられてきた。だがこれは、ほとんどハズレの論点となった。世論の動向とは無関係に、五輪開催はIOCの存立にかかわる問題(唯一の収入源)であって、どんなことがあっても開催されると、本通信で指摘してきたところだ。開催が間違いない世界的なイベントに反対してみたところで、政治家は墓穴を掘るだけであろう。

したがって、その小池知事は、自民党内ではひそかな盟友と頼む二階俊博と軌を一にしつつ、反目の仲とされてきた菅義偉と密室対談ののち、東京五輪の開催に突き進んでいる。これが都議選および秋の総選挙の情勢を混とんとさせている、ひとつの軸心であろう。


◎小池勢力が過半数 東京都議選投開票(共同通信 2017年7月3日)


◎自民惨敗、過去最低 東京都議選投開票(共同通信 2017年7月3日)

◆小池百合子「入院」の真相

そんな小池知事が「入院」した。額面どおり「執務による過労」だとしても、その政治的な意図を探られるのが政治家の宿命である。オリンピック強硬開催といっこうに収まらないコロナ禍から身をかわし、併せて都議選挙からも目をそむけていたい。これが偽らざる心境ではないだろうか。その政治的思惑はともかく、ここは都知事のご快癒を祈りたい。

ところで、目をそむけたから政治の現実が変わる、というものではない。

「都ファを全面支援するのか、それとも中立で行くのか、小池知事はこの期に及んで、都議選にどう対応するか、態度を留保しています」と言うのは、都政関係者である(日刊ゲンダイ)

この関係者によると、選挙中に都ファ候補の応援に入るのかと聞かれても「改革派にはエールを送りたい」と、はぐらかし続けているという。

みずから特別顧問を務め、この4年間を二人三脚で都政運営してきたのだから、都ファを支援するのが当然であろう。それができないのは、自民党の選挙予測データを見て焦ったからではないかという。

惨敗必至の都ファに乗っかると、返り血を浴びかねないというものだ。みずからが創設に尽力した都ファにこだわらず、自民党と公明党に周波を送りつつ、全体として安定政権を維持したいというのが、機を見るに敏な小池知事の判断というべきかもしれない。


◎小池知事“今週静養”永田町から「これで都議選……」(ANN 2021年6月23日)

◆国政復帰は本当にあるのか

そして小池知事をめぐって、公然と囁かれているのが国政復帰である。総理への野心はあいかわらず、彼女の政治家としての意欲の根源にあると言われている。

うがった方同筋は、秋の衆院選挙への出馬まで言及している。

そして小池知事の国政復帰のネックは、衆院議員時代の東京10区(豊島区と練馬区の一部など)に帰れないことにあるという。現在の10区選出で自民党の鈴木隼人議員は、セガサミーHDの創業者里見治の娘婿だという。

そこで「里見氏と菅総理は横浜のカジノ誘致を巡り、切っても切れない仲。総理は天敵の小池さんが割って入るのは絶対に阻止する」(自民党関係者)という。


◎[参考動画]サトノダイヤモンド 里見治オーナー インタビュー【前半】(競馬ラボ予想チャンネル 2016年11月19日)


◎[参考動画]「次の10年 若手政治家に問う」(2)鈴木隼人・衆議院議員(自由民主党)(jnpc 2020年2月13日)

そのいっぽうで、東京9区からの出馬があるのではないか、との報道もある。選挙区内で現金などを配ったとして略式起訴された菅原一秀前経産相の刑が確定すれば、公民権停止で五輪後に予定される衆院選には出られない。東京9区は練馬区の大部分で、小池知事の地盤である東京10区のすぐ隣だ。小池知事の国政復帰には、おあつらえ向きの選挙区が空いたというのである。

「小池さんにとっては、願ってもない展開です。自民党も急な候補者選びに頭を抱える中、彼女が無所属で出馬すれば、黙認する可能性が高い。しかも東京9区はいわゆる『1票の格差』を巡り、いずれ区割り是正で『分区』となりそうなんです。菅原氏が公民権停止後に戻ってきても、選挙区をすみ分ければいい」(関係者)というのだが、あまり現実性は感じられない。ことほどかように、政局を騒がせる女帝、小池百合子は現在の日本政治には欠かせない政治家ということになるだろう。都議選挙に応援演説も何もせず、このまま様子見をするのか。都議選挙の見どころは、小池知事の動静に決まった。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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