一都三県が無観客となり、盛り上がりに欠けることはなはだしいオリンピックは、菅政権の延命策になりそうもない。いやそれよりも、第5波にいたったコロナ禍を、オリンピック強硬開催が加速しそうな趨勢なのである。

来日外国人報道陣やアスリートの「バブル方式」(行動における外部接触の遮断)は、当初から準備がなされていなかった。組織委員会が行なってきたのは、プレイブック The Playbook – Athletes and Officialsによる「協力のお願い」だけで、警備員による行動阻止や行動の自由を阻止する措置は、なんら講じられていないのだ。

◆官僚と宏池会秘書団に感染者が続出

ワクチンも来ない。自粛をもとめられる一方で、愕くべき事態も起きている。官僚と自民党の宴会やパーティーによる、国のリーダーたちの感染者続出である。

すなわち、国民に宴会の自粛を呼びかけていながら、官僚が内輪の宴会でクラスターを発生させる(国税庁の男女7人が感染。7月13日に判明)。自民党宏池会の議員秘書に感染者が続出し、じつは1200人もの政治資金パーティー(7月8日)を開いていたことが判明した。

そして自分たちは酒宴やパーティーを開いておきながら、酒販業者には金融機関を使って商売を禁止するという。法に基づかないトンデモ行政指導である。経済再生相が消費を壊滅させようとする、愕くべき事態に立ちいたっているのだ。これらも菅自民党政権批判に直結するだろう。

もう自民党ではダメだ、菅には任せられない、という声が澎湃(ほうはい)と巻き起こっている。もはや、菅政権に祝うべき秋は来ない、と断言しておこう。

◆ポスト菅に「小池新党」との連立?

そこで、ポスト菅の政局である。コロナ禍の悪化やオリンピックの結果で、戦後三度目の政権交代の可能性も開けているが、自民党は総選挙前の総裁選で「選挙の顔」のすげ替をせざるをえない。衆参補選3連敗、知事選2連敗、都議選でもまさかの失地回復ならずと、菅では勝てないことが明白になったからだ。

自民党の派閥構成の概要である。

派閥名       国会議員数    総理・総裁候補者
細田派(清話会)  96人       下村博文、安倍晋三(安倍派)
麻生派(志公会)  55人       甘利明、河野洋平
竹下派(平成研)  52人       加藤勝信、茂木敏充
岸田派(宏池会)  47人       岸田文雄
 谷垣グループ   23人(重複含む) 中谷元
二階派(志帥会)  47人       林幹雄、※党外[小池百合子]
石破派(水月会)  17人       石破茂
石原派(未来研)  10人       石原伸晃
無派閥       63人       野田聖子

二階派の総理候補者に小池百合子都知事を持ってきたのは、保守連立の可能性があるからだ。

自民党が次期衆院選で苦戦を強いられ、結果として選挙後に「小池新党」と維新の2党と保守連立政権を組むことになり、首相には小池氏がなるしかない。と予測するのは、国際戦略問題研究所長の津田慶治氏である。

連立構想については、都議選をふまえた上で、今後の政局を概説した「この秋、政権交代は起きるのか? ── 『紙の爆弾』最新号を参考に、都議選後の政局を俯瞰する」(2021年7月8日)」のとおりだ。

自民党内からも声が上がっている。中谷元元防衛相は谷垣グループの会合において「政局を安定するために、衆院選後に『小池新党』と保守合同を真剣に検討すべきではないか」と述べた。東京都議選で自民党の議席が伸び悩んだことを受けて「おごりとたるみの体質への反省が足りない。こういうことはしっかりと踏まえないと(衆院選に)勝てない」と強調。その上で、「政権安定のため」として、小池氏が今後新党を結成した場合に協力すべきだと訴えた(朝日新聞デジタル、7月7日)。

もともと宏池会系には「大宏池会構想」や「保守大連立」の傾向があり、野党との提携も視野に入る、寛容な保守による主流派意識がつよい。

◆二階の麻生抱き込みが鍵か?

政局的には、3Aライン(安倍・麻生・甘利)の党内多数派が、安倍の再登板もふくめて総理候補をしぼったとき、小池と蜜月関係にある二階俊博のウルトラ戦術として、この連立構想が持ち出されることになる。

現状は菅をまっさきに担いだがゆえに、閣僚人事と党内人事において二階派が主流派として優遇され、3Aラインは人事問題で不満を抱えている。大臣になるべき当選数のベテランが、据え置きを食らっているからだ。

そしてその一方では、二階が幹事長として候補者の選定権を独占し、キングメーカーとして君臨することへの対抗がある。二階とキングメーカーを争う筆頭こそ、安倍元総理にほかならない。

いっぽう、麻生太郎も総理をささえる立場で、財務相と副総理の地位を手放そうとしないであろう。この人物の政治的立ち回り、節操のなさは、大嫌いな菅義偉の副総理を務めていることでもわかる。理念のためではなく、自民党政治家に特有の猟官、自分のためなら悪魔とも手をむすぶ政治屋なのである。

そこで二階が、自分を排除しようとする3Aの一角を崩そうと麻生の抱き込みをはかり、小池新党および維新、公明党との大連立を呼びかけるというものだ。

二階が「国会へ戻って来られるなら大いに歓迎だ」と述べたのは、小池の自民党復帰ではなく、保守連立を展望してのものにほかならない。

◆大連立の成否は、小池新党の国会進出

だが、小池新党なるものが、本当に成立するのだろうか。すでに「希望の党」は最後の幹事長だった行田邦子が2019年の埼玉都知事選の出馬を取りやめたときに、事実上の機能停止に陥っているのだ。その後の行田は昨年の4月に、二階俊博と面会して自民党への入党を相談し、最終的に野田聖子の推薦で入党している。

18年段階での党代表だった松沢成文も、19年に日本維新の会に移籍している。ようするに、新党の軸となる人物がいないのだ。

都議選挙でもその一端が明らかになったのは、都民ファーストには国政へのパイプがない、ということだった。東京都に予算とモノ(たとえばコロナワクチン)を持って来られる国会議員が、どうしても欲しい事情がある。そして近い将来における、小池百合子知事の国政復帰である。

したがって、小池と都民ファーストに求められるのは、この夏をつうじて総選挙出馬のタマを育成・確保できるかどうかである。

◆二階が仕掛ける政局とは?

そのうえで、秋の政局を占っておこう。党内多数派(3A)の菅おろし(二階おろしでもある)が始まり、多数派が擁立する総裁候補(河野洋平・加藤勝信・茂木敏充・岸田文雄のいずれか)がまとまりかけたときこそ、二階俊博が麻生を切り崩し、宏池会(岸田)を抱き込みつつ、維新と小池新党との大連立を提起する。そしてそこにはすでに、野党共闘による自民衰退が濃厚な情勢が、絶対の条件として存在するはずだ。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

『紙の爆弾』『NO NUKES voice』今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!