1990年代から叫ばれた「地方分権」。絶対善のように多くの人は思っていました。
「市町村を合併し『分権の受け皿』にすれば、オリジナリティのある地域ができる」という意見。

しかし、あれから30年。現実にはどうだったのでしょうか?

「地方分権」についての総務省の描いた絵をもっとも忠実に実行したのは、ほかでもない我が広島県の前知事・藤田雄山(在任1993-2009年、2015年死去)でした。当時、わたくし・さとうしゅういちは、主に山間部の介護・福祉・医療などの行政を担当する県庁マンでしたので藤田は上司でした。まさに、「渦中」で起きたことを目撃していました。

以下の広島県のホームページは「地方分権のトップランナーとして、市町の体制整備を推進してきました。」と自慢しています。
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/36/26gappeikennsyou.html

2003年2月から2006年3月の間に、広島県内の市町村数が86から23に減少し、市町村の減少率は73.3%と全国第2位となりました。そして、県から市町への「権限移譲」(現実には、「丸投げ」)を進めてきました。

筆者のかつての職場だった広島県庁

◆合併で人口急減・魅力喪失に拍車

わたしが、県庁マン時代に担当していた自治体のひとつは三次市です。この三次市は、もともとは旧三次市と君田、布野、作木村、三和(みわ)、三良坂、甲奴町が合併してできました。合併して発足した直後の2004年には61823人いた人口は2021年9月には50,603人へ1万人以上激減しました。

「これからは人口が減るからそれに備えて合併してスケールメリットを確保しておく必要がある」などの意見も20年前は根強くありました。しかし、現実には、合併前から懸念されたとおり、吸収合併された地域の行政サービスが手薄になり、不便になりました。その結果、地域の人々が三次市の中心部を通り越して、広島市や首都圏などの大都市に流出する。自分で自分の首を絞める結果になっています。これは、別に県北部の三次市だけではありません。

県南部の沿岸部の呉市なども合併を進めた結果、同様の現象が起きています。呉市の場合は「各市町村に分かれていた時代のほうが、地域のオリジナリティが発揮されてよかった。いまは離島も呉市中心部もいっしょくたくになり、魅力が減った」(県内自治体に詳しい企業経営者)という指摘もあります。

県は市町村に「仕事を丸投げ」した一方で、職員を新規採用抑制という形で大きく減らしました。団塊世代退職が相次いだ時代に、わたしの後輩にあたる新人職員はほとんど入ってきませんでした。

一方、合併した市町村も合併直後は「合併特例債」でハコモノ整備では優遇措置を受けました。しかし、地方交付税交付金については「合併してスケールメリットがある」という想定の計算式にもとづいて合併前の市町村の交付税合計より、大きく減らされました。その結果、各市町村とも公務員の総数を減らすことになります。各市町とも、「合併で専門的な公務員を確保できる」という想定された結果にはなっていないとわたしは、県の立場からみて、感じました。新規採用を減らしたために、公務員という形で若者が地域に定着してくれることも減りました。街も人口減少以上にさびれた感じになったのを記憶しています。

◆相次ぐ災害・大水害とコロナで行政現場はパンク状態

こうした中、2018年、西日本大水害2018が発生。ご承知のとおり、本県は最大の被災地となりました。「被災者支援や復旧が遅れている」という住民の皆様の悲鳴はとくに、吸収合併された旧市町村地域から多く上がりました。吸収合併された地域では、役所が支所に格下げされて人材がいない。また、人々の意見を当局に伝える役割もある議員も合併による定数減少でいないことが、状況の悪化に拍車をかけました。そして、広島県庁でも「復興予算は国が出してくれてもそれを執行するだけの公務員がいない」(野党系地方議員)のです。

さらに、2020年にはコロナが追い打ちをかけています。広島県庁では2020年1年間でほぼ二年分の労働時間を働かされた、という職員がコロナ担当部局におられました。月80時間の過労死ラインどころの話ではありません。こんなことになる余裕のない執行体制にした前知事・藤田の罪は誠に重い。また、その藤田がやったことに積極的に軌道修正をかけなかった現知事や県議会の怠慢も問われます。

生前の藤田はあの河井案里元被告とは不倶戴天の政敵です。県議だった彼女に「男らしくおやめなさい」と叱責されたことでも有名です。しかし、中央政府の「いいなり」での合併や「分権」を「トップランナー」で進めてきたこと、言い換えればサービスの切り捨てを「大阪維新」など真っ青になるレベルで先んじて進めてきたことは広島県民にも意外と知られていません。河井案里さんが広島県史上最悪の金権腐敗政治家だったことは明らかです。しかし、彼女と犬猿の仲だったからといって、前知事の藤田や藤田を毎回の選挙で推していた与党の主流派や大手労働組合を持ち上げるのも考えものです。

一方、吉村知事率いる維新のもと、公務員削減路線を突き進む大阪府民の方に申し上げたいのは、以下のことです。広島県が中央官僚のいいなりで進めて失敗したおなじようなこと(自治体を弱体化させる)を、大阪では繰り返さないでいただきたいのです。

◆衰退につけ込んだ河井夫妻

また、河井克行被告人は、上記のような市町の窮状につけこみ、横柄な態度を首長や地方議員に日頃からとってきました。そしてご承知のとおり、参院選2019では、強引にお金を渡して案里さんの選挙を応援させようとしました。実際に、「案里・克行の機嫌を損ねたらわが町に補助金がこなくなる」とびびってお金をもらってしまった方もおられました。

もちろん、なにがあっても買収に応じてはダメですし、応じてしまった方は即刻、腹を切っていただきたい。本当は克行被告が市町の事業を妨害してきたら「国地方係争処理委員会」に堂々と訴えればいいことです。

しかし、官製「地方分権」の結果、地方の衰退が加速したことが、「腐った国会議員」が「焦る地方自治体相手にいばり散らす」結果をもたらしたといえるでしょう。

◆国・都道府県が責任をもつべきはもて

官製「地方分権」により地方衰退に拍車がかかってしまいました。その結果、県内の鉄道で維持が難しくなった路線もあります。正直、手遅れの部分もあります。しかし、広島県内でも、全国の他の都道府県でも、これ以上傷口を広げない努力は必要です。以下の点を提言したい。

〈1〉医療・福祉や危機管理などにあたる現場公務員をふやすこと。そのために予算をつけること

もはや、公務員を減らしすぎた弊害は災害やコロナであきらかです。菅政権は2021年度、41年ぶりに公務員定数の増加を実施しました。菅政権でさえ、ともいえます。野党のなかにも、公務員をバッシングして票を取る手法を取ってこられた議員もおられます。しかし、今回の衆院選で政権を狙うなら、路線転換していただかなければなりません。

〈2〉国や都道府県がバックアップすべきはバックアップすること

鳥取県の日野郡では、郡内の3つの自治体と鳥取県が「条約」にあたる「連携協約」を結んで福祉や教育、鳥獣害から観光振興に至るまで、話し合って柔軟に仕事を分担するようにしています。鳥取県では前知事・片山善博さんの時代に日野郡内の町村の仕事を県が一部請け負うための地方機関を設置しており、2014年の地方自治法改正をうけて、全国はじめての連携協約を2015年6月に締結したのです。
鳥取県日野郡連携会議

なんでもかんでも市町に丸投げした広島県のやり方ではない道があるのです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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