本来ならば、岸田新政権の閣僚の分析を急がなければならないところだが、金権疑惑の甘利明を別として、麻生派を厚遇し安倍(細田派)にシフトした以外は、大過ないという印象である。ただし、副総理というほとんど実験のない名誉職に、麻生太郎を据えたことに疑問が残る。名誉職とはいえ、記者やメディアの格好の標的になるからだ。太郎さんの失言に期待しよう。

◆7月の都議選の結果をうけて、総選挙における自民敗北を前提に予想されていた小池新党の動向

さて、それよりも当然の人事である二階派排除によって、総選挙の政局が大きく動きそうな気配だ。7月の都議選の結果をうけて、総選挙における自民敗北を前提に予想されていた、小池新党の動向である。

6月いらいの小池都知事の動向を、本通信の記事をもとにたどってみよう。

例の入院騒動が彼女自身の体力と相談しながら、じつは都議選情勢を見ながらの「仮病」だったことを、その時期の本通信はとらえてきた。

「政局を騒がせる女帝、小池百合子は現在の日本政治には欠かせない政治家ということになるだろう。都議選挙に応援演説も何もせず、このまま様子見をするのか。都議選挙の見どころは、小池知事の動静に決まった。」(2021年6月28日付「小池都知事『入院』の真相と7月4日都議会選挙・混沌の行方」

はたして、小池百合子はうごいた。

その結果、都議選はおおかたの見方をくつがえして、都民ファーストの善戦、自民の復活ならずという事態となった。おそるべし小池百合子、と誰しもが舌を巻く一幕であった。「紙の爆弾」ですら、予定記事のタイトルをことごとく外した。

※「《速報》2021年都議会選挙 都民ファーストの善戦、自民党の復活は不十分に」(2021年7月5日)
※「この秋、政権交代は起きるのか? ── 『紙の爆弾』最新号を参考に、都議選後の政局を俯瞰する」(2021年7月8日)

そして、いよいよ菅義偉では総選挙が無理、ということが明らかになってくる。と同時に、その政局は小池新党の可能性をひらき、二階俊博による大連立構想(小池との提携)が水面下に顕われていた。

「9月の上旬までにコロナ禍がワクチンによって収束し、オリパラが成功裏に終了しないかぎり、もはや菅の続投はないだろう。それが総選挙(衆議院選)における自民党の大敗によるのか、総裁選による『菅おろし』によるものかはともかく、確実に菅政権は崩壊する。」

7月には菅の退陣は読めていた。問題なのは、小池新党が本当に準備されるのかどうか。この夏の動静にかかっていると、本通信は断言してきた。

※「五輪強行開催後に始まる「ポスト菅」政局 ── 二階俊博が仕掛ける大連立政権」(2021年7月21日)

「小池と都民ファーストに求められるのは、この夏をつうじて総選挙出馬のタマを育成・確保できるかどうかである。」

これらの予測はしかし、岸田文雄の二階おろし(菅おろしでもあった)によって、大きく主導権が代わるところとなった。

岸田は3Aの操り人形ではなく、二階のコントロールする傀儡でもなかったのだ。いっぽうで、発信力とトンデモ発言(自民党的にという意味で、反原発・女性天皇容認)の河野太郎を阻止するために、3Aラインの高市早苗擁立、岸田側面援助によってトップ当選を果たす。その結果、蚊帳の外に置かれたのが二階俊博なのである。

ところが、二階の連立構想などを頼らずとも小池新党の流れは、この夏のあいだに、ひそかな水流となっていた。

◆ふたつの「小池新党」

そのひとつは、都民ファーストを基盤とした「ファーストの会」である。10月3日に荒木千陽代表が設立を発表し、10月31日に行なわれる総選挙に、都内25の小選挙区に少なくとも複数の候補を擁立すると明らかにした。

もうひとつは、8月に始動した上田清司(前衆院議員・前埼玉知事)の「新党構想」である。国会内で開いた上田清司の会合には、笠浩史、吉良州司、井上一徳らが参加し、首長経験者を前面に出して国政に乗りこむ、というものだった。この上田市の動きが、小池都知事の国政復帰と連動しているのではないか、という観測がもっぱらだった。

ところが、小池知事は国政復帰を否定し、ふたつの動きに姿を見せていない。


◎[参考動画]都民ファが国政新党「ファーストの会」を設立(ANN 2021年10月3日)

◆第三の極になれるか

都民ファーストがめざすのは、大阪における維新の会の地域政党としての定着が、国政進出によって果たされていること。これであろう。わかりやすい。

都議選挙では自民党から「区議と都議しかいない政党に、政策は実現できない。われわれ自民党は、永田町で戦い、都議会で調整し、区議がはたらいて政策を実現する」という、田舎選挙とはいえ国会議員を持たない弱点を突かれたものだ。

もういっぽうの上田新党は、鳩山友紀夫元総理や河村たかし名古屋市長にもはたらきかけ、文字どおり首長クラスを前面に立てた、地方からの国政参加を旗印にしている。これはちょっと複雑怪奇だ。

両者はいわば、小池なき小池新党である。これに国民民主との提携なり共同会派が実現すれば、自民党/公明党×立憲民主/共産党/社民/れいわ新選組という与野党対決の第三の極となる可能性がないわけではない。

都議選では都民ファーストの健闘が自民党の議席回復を阻止し、いっぽうで立憲民主と共産党は微増だった。その意味では自民に代わる保守層(女性票)が都民ファーストに流れ、反自民野党の票はそれほど食わなかったことになる。

そうすると、小池新党の登場は自民党に分が悪く作用するのかもしれない。

だが断言しておこう。小池百合子のパフォーマンスの余地が、あまりにも少ないことを。いかに政治判断にすぐれようとも、決断をする与件がなければ政治は成立しない。

そして、もしもその与件が、ふたたび麻生太郎副総理の失言になるのだとしたら、岸田の派閥バランス人事の陥穽というべきであろうか。


◎[参考動画]麻生財務大臣、西村経済再生担当大臣が最後の会見(ANN 2021年10月4日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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