◆なぜ、広島の政治は全国でも群をぬいて保守的なのか? 長年の疑問

わたくし、さとうしゅういちは1975年に広島県福山市に生まれましたが、その後は東京で育ちました。2000年に広島県庁に入庁。11年近く、主に県内の山間部の介護や・医療などの行政を担当してきました。2011年にあの河井案里さんと県議選で対決するため退職。その後は広島市内を中心に民間での介護の仕事についています。一方で、わたしは、ジェンダー解消を求める「全国フェミニスト議員連盟」に所属し、全国で女性議員の応援に入らせていただいた経験もあります。この21年間、疑問に思っていたことがあります。

端的にいえば、「なぜ、広島の政治・行政は全国でも群をぬいて保守的なのか?」ということです。

全国でも群を抜いて政策不在の選挙や政治のあり方。政策もろくにかたらない与党勢力の候補が県議選では8割以上も得票する。

全国でも群をぬいて中央官僚のいいなりでの市町村合併・権限丸投げを進めるなど、中央に従属的な行政。

河井案里さんの有罪が確定したいま、案里さんからお金をもらった議員はいわば犯罪事実が確定したのにもかかわらず、だれひとり腹を切らない。

野党第一党も、全国と比べても非正規労働者やケア労働者が直面する問題に対して消極的。中央の市民連合や野党が合意している「原発なき脱炭素」にも後ろ向き。

これらは、いったいどうしてなのか? このままでは、広島は時代の流れから取り残されてしまうのではないか?

長年の疑問であり、わたしの危機感、苛立ちの原因でもありました。

重厚長大産業が立ち並ぶ呉市沿岸部

◆強烈すぎた? 1975年ころの「広島の成功体験」

しかし、とくに2011年以降、政治活動を本格化する中で、有権者のみなさまのお話しや過去の統計などを総合的に分析すると以下の仮説にたどり着きました。

「政治家や企業経営者もふくむ多くの広島県民が1975年ころ、広島がなしとげた成功体験にいまでもとらわれているのではないか? そしてその成功体験とはあまりにも強烈すぎたのではないか?」ということです。

具体的にお話しすると、1975年度、広島県のひとりあたり県民所得は東京、大阪についで第3位でした。わたしも、神奈川県や愛知県などの方が広島より上だったと思っていましたが、そうではなかったのです。

東京が156.7万円、大阪が135.6万円、そして広島は120.4万円でした。ちなみに神奈川県は114.3万円、愛知県が119.6万円。全国平均は111.8万円でした。 

また、この年、山本浩二・衣笠祥雄らを主力に古葉監督率いる広島東洋カープが初優勝。さらにこの年には新幹線が広島駅を通るようになりました。このころ、広島市の郊外には次々と新しく団地が開発され、まさに、広島は栄華を誇っていたのです。

その原動力のひとつは、「原発製造をふくむ重厚長大の大手企業」であることは間違いありません。一方で、戦前の「軍都広島」「軍港呉」の延長で広島が「中枢都市」だったことのメリットがあったのも見逃せません。こうしたことを背景に

・「中央の方針」に従っていれば間違いない。

・「原発製造ふくむ重厚長大産業中心に」突き進めば間違いない。

・山を削って土地をどんどんつくって開発すれば、どんどん工場や人が広島にやってくる。

・大手企業さえよければ、正社員たる男性世帯主を通じて子どもの教育や住宅も大丈夫だ。

という「成功モデル」が無意識のレベルまで染み付いているのではないか?

従って、自民党ですら河野太郎さんあたりは積極的な「原発なき脱炭素」に、広島では野党第一党の一部国会議員も後ろ向きの発信をSNSでする状況があるのも、支持はできませんが、事実認識としてはうなずけます。

◆1980年代には賞味期限切れ、1990年代末には破綻していた「成功モデル」

高校廃校で揺れる呉市焼山地区。デパートもあるのに閑散としていた

しかし、広島の政治も行政も経済界もとらわれていた「成功モデル」はとうの昔に賞味期限切れです。ひとりあたり県民所得の全国比較で見てみましょう。

1976年度には、ひとりあたり県民所得は、東京都171.5、大阪府159.1、愛知県136.5、神奈川県134.8、広島県133.1、全国124.6(単位、万円)と神奈川県、愛知県に抜かれてしまいます。

そして、1982年度からは、東京都272.7、大阪府224.2、愛知県217.3、神奈川県209.8、広島県189.0、全国189.8(単位、万円)と広島県は全国平均を下回っています。

円高不況がはじまった1985年度には、東京都320.3、大阪府242.3、愛知県258.8、神奈川県238.4、広島県212.1、全国220.5(単位、万円)と全国平均に引き離されていきます。鉄鋼や造船などが打撃を受けたことが背景にあったとみられます。

広島アジア大会が開催された1994年度には、東京都421.1、大阪府341.6、愛知県356.3、神奈川県336.0、広島県301.9、全国308.6(単位、万円)。

金融恐慌があった翌年の1998年度には、東京都417.5、大阪府337.1、愛知県359.4、神奈川県332.5、広島県301.3、全国309.3(単位、万円)でした。

このように、1990年代には、全国に遅れをとりつつあった広島ですが、工業団地をはじめとする土地開発が、河井案里さんの師匠で「天皇」と恐れられた県議会議長の檜山俊宏さんらが主導して進められます。開発をしても経済が伸びていないので、必然的に余ります。広島県の財政も悪化します。

◆中央の方針いいなりで新自由主義強行も事態好転せず

このため、1999年度以降は県職員の給料カットや総務省の指導にストレートに従った形での「市町村合併・権限移譲」という名前の「丸投げ・サービスカット」が強行されます。

基準が代わりますので一概に以下は比較できませんが参考までにひとりあたり県民所得の数字を挙げます。

わたしが県庁マンになった2000年には、東京都461.9、大阪府318.0、神奈川県343.1、愛知県343.3、広島県313.0、全国312.2(単位、万円)とやや盛り返すものの、小泉純一郎さんによる新自由主義が頂点に達した2005年度には、東京都454.6、大阪府300.1、神奈川県324.6、愛知県349.8、広島県301.3、全国309.3(単位、万円)と引き離されてしまいます。このころ、大阪が全国平均を下回り、閉塞感が橋下徹さん登場を準備したことも推測されます。

東日本大震災があった2011年度には、東京都526.6、神奈川県301.2、愛知県324.2、大阪府295.3、広島県279.9、全国298.5(単位、万円)と広島は取り残されてしまいます。

そして、西日本大水害があった2018年度には、東京都541.5、神奈川県326.8、愛知県372.8、大阪府319.0、広島県310.9、全国331.7(単位、万円)で、東京の「一人勝ち」構造が鮮明になります。他方で新自由主義が広島や大阪を余計に沈没させていることも見てとれます。

西日本大水害2018では、高度成長期に開発された住宅地が多数被害を受け、多くの方が犠牲になられました。さらに、2021年9月末で呉の日本製鉄が60年の歴史に幕を閉じました。

広島市東区や呉市の高台の住宅地では高度成長期に新設された高校の廃校なども問題になっています。いわゆる過疎地ではなく、都市部で広島が一番栄えた時代に郊外の高台の団地にできた高校の廃校が地域をゆさぶっています。呉駅前ではそごうの跡地が長年、利用方法が決まっていません。コロナ災害に輪をかけて暗いニュースが相次いでいます。

◆衆院選・広島県知事選・県議補選・呉市長選挙を前に 広島はどうすべきか?

10月31日、衆院選が執行されます。11月14日には、広島県知事選・県議補選・呉市長選挙が行われます。コロナと気候変動で多発する水害。二つの大きな災害にどう対応するか? これは大きな論点です。だが、 それは、広島がずっと依拠してきた成功モデルからの卒業を行政にも企業にも県民にも迫るものです。

一方で、広島は日本の都市では東京につぐ知名度があります。製造業の技術も健在です。新幹線駅のほぼ前に野球場がある、東京ほど密ではないが、北海道や東北などのように分散しすぎて不便というほどでもない、ほどほどの生活の便利さがあります。

上記のことを踏まえ、以下のことを県選出の国会議員や県知事、市長(の候補者)、経済界や市民運動・労働運動幹部に提言します。

中国電力本店。ここで原発ゼロを訴えて街宣をした候補者はさとうしゅういちだけだった参院選広島再選挙

「原発なき脱炭素」への転換と暮らしの保障を

たしかに、CO2をたくさん出す鉄鋼業や原発製造をふくむいわゆる重厚長大産業中心に、1970年代くらいまでの広島は栄えました。

しかし、気候変動によるとみられる水害に広島は2014年、2018年、2021年と何度もおそわれています。また、広島から90kmの伊方原発は、一般住宅より耐震性がおとり、地震の巣の上にあります。

鉄鋼についていえば、欧州の大手メーカーが炭素を使わない製鉄法に5兆円を投資しています。エネルギーは効率を考えても「大型の電源でつくって配る」従来の方法を改めてクリーンな方法での「分散型電源」にしていくことに広島のものづくりの技術をいかすべきです。

そして、構造転換に際しては新しいエネルギーや技術開発への投資ともに、従来の方法での現場、例えば原発関連で働いている人たちに思い切った補償・生活の保障をセットでするのです。大幅な財政出動が必要ですが、安倍晋三さんが総理時代に「お友達」やアメリカにばらまいたのとくらべたら、よほど前向きです。

大手企業出先より中小企業の本社誘致

今の時代、大手企業の出先を誘致することの費用対効果は、意外と悪いのではないでしょうか? それよりは、面白い中小企業の本社に移転してもらったほうが、税収の面でもプラスです。東京への密集を防ぐ上でも効果があります。呉駅前のそごう跡地のようなケースでは若い人に無料に近い低額で貸し出し、企業や様々な社会活動をしてもらう、などの手があるのではないでしょうか?

思い切った住まいや教育の保障でチャレンジャー誘致を

住宅や教育を「大手企業正社員たるお父さん」を通じて保障してきたのがこれまでのモデルでした。しかし、そこから外れる人には厳しいモデルでもあります。これからは、思い切った住まいの保障や、また教育の無償化などこそ、チャレンジャーを支援することになるのではないでしょうか? 広島県内では尾道市や佐伯区湯来町あたりなどに新しいことをはじめるために東京などから移住する人も少なくありません。そうした流れを後押しする施策や立法を、県知事にも県選出の国会議員にも望みます。

災害多発と人口減少時代に対応し、新自由主義と新規開発にストップ

人口減少時代にこれ以上の新規開発は無駄です。さらに空き家や空きビルを増やすだけです。また開発された場所によっては水害や地震によるリスクが高まるだけです。2021年7月、熱海では「やりくさし(広島弁でやりかけのまま放棄の意)」の開発が災害の原因となりました。広島でも西日本大水害2018では、南区でやりくさしの開発箇所が崩れ、犠牲者が出ました。国の責任で開発規制を全国で行うべきです。

広島をはじめ瀬戸内は昔から「台風はそれてくれる」というのが常識で災害が少ないと県民の多くも思い込んでいました。しかし、いまや、梅雨や夏期は熱くて湿った空気が瀬戸内地方を直撃し、記録的な豪雨が日常茶飯事になっています。「災害が少ない」という従来の常識をベースに進めてきた広島県の新自由主義はゆきづまっています。

これまで広島県が中央いいなりで強行してきた現場公務員の削減はストップし、ふやすべきです。災害救助隊(日本版サンダーバード)の創設とそれによる国際貢献。また、地方の医療や福祉、教育や防災などをになう公務員の補充および、非正規公務員の正規化をすべきです。前知事は大阪に先んじて新自由主義を進めましたが、新自由主義は東京以外にとっては自分の首を締める行為なのです。広島県民は新自由主義を脱却する議員を国会に送るべきです。

政策議論中心の選挙や政治を

広島の選挙や政治は全国と比べても群をぬいて政策不在です。そのことが、河井事件の背景にもありました。

河井夫妻だけでなく、アンチ河井の政治家も責任は重大です。金権の河井か?組織依存のアンチ河井か?それくらいの違いで、政策不在という点では違いはありません。

対抗するべき野党も現時点では、河井批判で手一杯になりがちでジレンマを抱えています。

ガチンコの政策議論を広島でも活性化する努力を政党や政治家はもちろん、マスコミもすべきです。

社会運動・労働運動もバージョンアップを

広島は世界最初の戦争被爆地であり、反核平和運動は強い。しかし、一方で、労働運動はどうでしょうか?

たとえば、他の地域と比べても非正規の問題、ケア労働者の問題などについての取り組みは遅れているのではないか?わたくし、さとうしゅういちは、この点は責任をもって、活動を担っていきたいとおもいます。

中央・東京への過剰な信仰をやめよ

戦前の広島は軍都であり、その延長で戦後は中枢都市としてのアドバンテージをもってきました。他方で、東京から降りてきたものを真面目にやっていれば大丈夫、という思い込みにもつながっているように思えます。必死で独自のものを考えずに済んだのは恵まれていた証拠です。しかし、変化が大きな時代にはそれが災いします。中央・東京への過剰な信仰はやめましょう。

いままでの「常識」を疑おう

いままでの常識は、たとえば、「山を削って海を埋め立てたり田んぼをつぶしたりして工場や宅地にする」のが進歩です。しかし、災害多発で人口減少時代、食料の入手が困難な時代には、逆に工場が潰れて食料生産工場や農地になるということもあり得ます。いままでと正反対が常識になることも考えて政策立案を!

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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写真1枚目は「重厚長大産業が立ち並ぶ呉市沿岸部」

写真2枚目は「高校廃校で揺れる呉市焼山地区。デパートもあるのに閑散としていた。」

写真3枚目は「中国電力本店。ここで原発ゼロを訴えて街宣をした候補者はさとうしゅういちだけだった参院選広島再選挙」