1992年に福岡県飯塚市で小1の女児2人が殺害され、その犯人とされた久間三千年さん(享年70)が2008年に処刑されたが、冤罪の疑いが根強く指摘される飯塚事件。久間さんの遺族が福岡地裁に申し立てた再審請求は3月末、同地裁に棄却されたが、遺族や弁護団は再審無罪を諦めず、現在は福岡高裁に即時抗告中だ。そして今月5日、即時抗告審では第1回目となる裁判所、検察官、弁護団の三者協議が同高裁で開かれた。
協議後に会見した弁護団によると、今回の協議では、女児2人の遺体が遺棄された現場で見つかり、これまでDNA鑑定されていなかった試料5点(血痕ようのもの4点、唾液ようのもの1点)について、現存するか否かを検察官に確認するように求めたという。試料5点は被害女児と血液型が同じだったことなどから、DNA鑑定が行われていなかったが、現存するなら、真犯人のDNAが含まれないか否か、ごく微量の試料でも可能な現在のDNA鑑定で調べることを考えているという。
また、弁護団によると、今後は即時抗告申立書の補充書も提出する予定。補充書では、遺留品発見現場で久間さんの車と特徴が同じ不審車を見たという内容の目撃証言など「DNA鑑定以外の争点」について、さらなる主張をしていくという。
今回の会見で、そんな弁護団の話を聞きながら改めて実感したのは、日本の刑事裁判で無罪を勝ちとることの理不尽なほどの難しさだ。
というのも、裁判で久間さんが有罪とされた決め手は、信頼性が疑問視される捜査導入初期のDNA鑑定だったが、その試料は科警研が大量消費したために現在は残っておらず、再鑑定が不可能。そんな困難な状況の中、足利事件や袴田事件でも弁護側鑑定人を務めた筑波大学・本田克也教授(法医学)が弁護団の依頼をうけ、科警研の鑑定写真などを分析する手法で鑑定を行い、久間さんと真犯人のDNA型が異なると結論。弁護団はこの本田鑑定を新証拠に再審請求したが、福岡地裁には「現場試料の再鑑定や実験結果などに基づくことなく、抽象的に推論するに過ぎない」という理屈で退けられた。つまり、科警研が試料を大量消費したために再鑑定が行えないのに、そのことによる不利益が久間さんや弁護団に押しつけられたわけだ。そしてこの即時抗告審では、その理不尽な状況を打破するため、弁護団はまた別の突破口を見つけて真犯人探しをすることまで強いられているのである。
困難な戦いが続いているが、以前、当欄の5月4日付けの記事「流布し続ける飯塚事件に関する『デマ』と『その元凶』」でもお伝えしたように、この事件は紛れもない冤罪だ。雪冤に向けた戦いの「第2ラウンド」はまだ始まったばかりだが、今後も機会あるごとに当欄で経過をお伝えするつもりなので、読者諸氏もこの事件のことは気に留めていて欲しい。
(片岡健)
★写真は、三者協議後に福岡市内で会見する岩田務主任弁護士(中)、徳田靖之弁護団長(右)ら弁護団