秋の深まる平壌から、届くメール。前回の平壌からの手紙では、よど号メンバー・魚本公博さんから届いた「2つの『8・15』」というタイトルで敗戦とタリバンのカブール制圧とを比較した論考と、それに関する筆者からの解説とを投稿した。彼らとの「往復メール書簡」第4回目は、第2回目で取り上げた「デジタル庁発足の背後に潜む巨大な問題」の続編を取り上げる。
◆「地域住民主体の自らのためのスーパーシティ建設を」 魚本公博
今、デジタル化が叫ばれる中、地方では「スーパーシティ構想」が進められています。
このスーパーシティの最大の問題点は、データ主権を放棄し、GAFAなど米国のプラットフォーマーに全面的に依存するところにあります。こうなれば、地域の様々なデータ、住民のデータは米国に握られ、地域、住民はその隷属物になってしまいます。
「すべては救えない」として地方の中核都市にカネ・ヒトを集中し、それを米系外資に委ね、基礎自治体が運営する水道などの運営権を譲渡するコンセッション方式の導入など地方を米国に売り渡すかのような地方政策。そこには、市町村など地域自治体の切り捨て、自治体の企業的運営による自治、住民主権の剥奪を伴い、全国市長会などが「我々を見捨てるのか」と反発していたもの。こうした声を押しつぶす。とりわけ米中新冷戦の中で何としても日本を米国の一部として組み込むことを一挙に進める。それが政府の「スーパーシティ構想」ではないでしょうか。
肝要なことは「データ主権」。しかし、今のような自民党の対米従属政権ではそれを望むべくもない。では、どうするか。
私は、見捨てられる市町村など地域からスーパーシティを作りながらGAFAに依存しないシステム(プラットフォーム)を作り、その輪を横にも上にも広げ、地方全体の標準「都市OS」に育てる。そうしたことができないものかと思っています。建設機材のコマツやスマート農業などでは独自のプラットフォームを使っているようですし、可能だと思うのですが、どうでしょうか。
ここで大事なことは、地域住民主体です。そのためにネット議会やネット政策会議、ネット提言室みたいなものを作る。そして自治体と地域住民が一体となり自らのスーパーシティを自らの力で自らのために建設していく。
小林さんが以前、紹介されていた地方の区長さんがおっしゃる「顔が見える関係」やボランティアの労力を地域の産物で交換する地域通貨などのアイディアも、自らのスーパーシティ建設の中で高度に実現できるのではないでしょうか。さらに言えば、「スーパーシティ構想」では移動、輸送、行政手続きなど10項目での「サービス向上」をうたっていますが、もっと根本的な「地域振興」を目指すべきであり、地産地消、地域循環型経済、水やエネルギーの自給自足なども高度に実現すべきではないでしょうか。
地方の取り組みは、どうなっていますか。現場の声、とくにデジタル技術に明るい、若い人たちの声を是非聞きたいものです。
◆クラウドサービスの提供元、「サイバー局」、そして「デジタル田園都市国家構想」
「スーパーシティ構想」などに関しては、第2回目で触れているので、ご参照いただきたい。
デジタル庁は2021年10月26日、政府と自治体が利用する情報システム基盤「ガバメントクラウド」に、アメリカのAmazonとGoogleのサービスを利用すると発表。契約期間は22年3月までで、来年度の事業者は改めて募集するという。
いっぽう、警察庁は6月、サイバー犯罪やセキュリティ対策を担当する「サイバー局」を設置する計画を公表した。200人規模で、行政機関や防衛関連企業などへのサイバー攻撃の捜査をおこなう。ところが、三菱電機やNECなどに対し、他国からハッキングが相次ぐ。日本のサイバー事業は世界的な評価が低く、人材も法整備も遅れているとされる。
時事通信(8月25日付)の記事によれば、戦前の国家警察による権力乱用などを背景に、1954年に制定された警察法では犯罪警察は都道府県警察が担い、警察庁は指揮監督にとどまるものとされてきたそうだ。そして、サイバー分野を担当する捜査機関もなかったが、ここにきて問題視され、計画がまとまった。
牧島かれん大臣は『AbemaTV』に出演し、ある意味、国内の企業がクラウドサービスを担当するレベルにないが、今後には期待している旨を語っていた。
おそらく国内では、法的な遅れ以上にアメリカや中国のような予算や判断がなかったり、部品の製造現場も海外だったり、また、いわゆる人材を有効に配する土台がなかったりするのだろう。法的な遅れもまた、他の件をみても一概に否定はできない。法整備によって警察や担当部署の権力乱用を許すようになってしまえば、市民がその被害を被る。人権や自由を侵害されかねない。また、人を配することができないことも、他をながめればいつもの偏った人の配置について思わざるを得ない。他の分野をかんがみても、セキュリティを考慮しても、本来は国内で手がけられる形を整えるべきだが、地方からというのはなかなか難しいだろう。ならば政治主導ということが考えられるが、専門家軽視やお友だち優遇で、これもまた希望を持ちにくい。国内にも人材は存在するので、そのような人にリーダーを任せられるような土台が必要だ。
いっぽうで、個人や国家の情報をつかまれることのリスクについて、少なくとも筆者は十分に理解していない。だが、命を受け渡していることになるのかもしれない。このあたりは引き続き関連情報などもあたりつつ、学んでいきたいと思う。
そして、魚本さんが危惧する「データ主権」に思いをはせれば、それをアメリカに渡すために、また権力を拡大するために、法整備や人の育成が不十分であると主張している可能性も否定はできないだろう。
また、牧島氏は「デジタル田園都市国家構想」なども掲げており、「デジタライゼーションで人間中心のデジタル社会を実現することで、経済/生活/幸福のポジティブサイクルを回す一連の政策を「デジタル田園都市国家」構想とし、2030年頃までの主要な国家戦略とすべきである」と主張している。デジタルでヒト・モノ・カネを回す。それが幸福でポジティブだというのだ。
ただし、魚本さんは「地域住民主体」というが、先に触れたように、デジタル化に関しては難しい。また、デジタルをスムーズに活用するには、国内などで一定のルールのもとに運用されなければ、必ずどこかで二度手間三度手間が発生し、そもそもデジタル化が無意味になる。だが、効率化を手放すことが、これまた難しい側面はいろいろあるだろう。
個人的には、プライバシーや人権、自由を優先してもらいながら、現在の複雑で不自由でリスキーな状況は改善すべきだと考えている。このバランスをどのように取るかが問題だ。
だが、デジタル庁では、平井卓也氏がNTTから高額の接待を受けていた問題、民間からの登用の内、非常勤が98%を占めていたことと兼業先の企業との癒着対策の甘さ、マイナンバーカードとマイナポータルのそもそもの問題など、さまざまな事柄が不安視されている。
また、実際に、「機密情報丸見え」「個人情報明け渡し」などの状況について、危機を伝える記事も増えてきた。たとえば11月5日、『COURRIER JAPON』では、「日本人の個人情報が筒抜けになる可能性も 日本の機密情報が『アマゾンから丸見え状態』をデジタル庁はどう考えているのか」というような記事に「日本の技術力の低いセキュリティで怪しい国のアタックで破られる可能性の高いクラウドか、世界有数の技術者のいるセキュリティのクラウドだが米国政府に見られる蓋然性、のどちらが良いか。」というようなコメントがついたり、アメリカ独占・依存状態から脱却しようとするヨーロッパ企業の記事などもある。危機意識を忘れず、1人ひとりが学ばねばならないだろう。
ところで個人的には、平壌・日本人村のみなさんが、日本の報道や支援者からの情報を得て、朝鮮の実情を目の当たりにすることもあるなかで、フラットに、より広く深く考察することには限界があると感じています。ただし、それが新たな気づきを含むことがあると考えています。たとえば今回のような「テーマでも、俯瞰的な視点や、デジタル全般への理解しにくさなどでしょう。また、地方は地方でその日々の現実の中、1人ひとりの取り組みや生活があることは、国内の都会からすら理解しにくいのではないかと最近、感じています。魚本さんにとって、国内や他国に関する何が特にわかりづらいか、また朝鮮の場合にはデジタルの取り入れ方についてどうかを可能な範囲でお伝えいただけますでしょうか(訪朝の際、中国に留学した若い方がデジタル図書館の館長をしていらっしゃいましたが、つながっているのはイントラネットでインターネットにはつながっていなかったかと存じます。また、みなさんもメールのやりとり以外にネットにつながっていません。でも、市民の多くは携帯電話、スマートフォンを活用していたと記憶しています)。
▼小林 蓮実(こばやし・はすみ)
1972年生まれ。フリーライター、編集者。労働・女性・オルタナティブ・環境 アクティビスト。月刊誌『紙の爆弾』12月号巻頭に、「沖縄高江への県外機動隊派遣愛知で全国初の『逆転勝訴』」、本文に「高江・県外からの機動隊派遣は『違法』 沖縄とヤマトの連帯が勝利をもたらす」寄稿