「すぐに各局のプロデューサーに電話して、水野美紀はどんなことがあっても使うなと通達しろ! どんな企画でも、番組でも、紙面でもだ。そむいたらバーニンググループのタレント全部引き上げると言え、潰してしまえ! 街宣車、右翼を送り込むと言え!」
録音に残されていた、バーニングプロダクション・周防郁雄社長の怒声である。
バーニングから独立しようとする水野美紀を、周防社長は潰そうとしていた。
民族団体の大日本新政會の会長が仲介に入り、円満退社を認めさせたのだが、信用できなかった会長が、直後の周防社長の会話を録音していたのだ。
星野陽平著『芸能人はなぜ干されるのか?』(鹿砦社)では、水野美紀の他、北野誠、鈴木あみ、セイン・カミュ、川村ゆきえ、眞鍋かをり、小林幸子、野久保直樹、水嶋ヒロ、沢尻エリカ、松本恵、吉松育美など、干された芸能人の裏事情を徹底的に暴露している。
芸能界は実力の世界。人気がなくなれば、去って行かざるを得ないのは当然だ。
だが、ここで取り上げられている芸能人は、そういったことと無関係に干されている。
『いとしのエリー』『勝手にシンドバッド』など40曲の権利をバーニングパブリッシャーズが所有していることをラジオ番組でしゃべった北野誠は、バーニングの怒りを買って干された。
同書では、バーニングだけではなく、ジャニーズ事務所における、ジャニー喜多川の少年所有欲求などにも、存分に切り込んでいる。
スケジュールが過密でギャラが安い吉本興業では、1981年に島田紳助を委員長として、労働組合が結成されたという、興味深い事実も綴られている。
要求項目は「週1回の休日をよこせ」「賃上げ、ギャラ査定の明確化」「健保制度確立」「うめだ花月の下水道を直せ」「今いくよ・くるよに生理休暇を」というもので、ギャグも混じっていたが、真剣なものだった。
だが、「週1回の休みやて? ほな、ずっと休みいな」という吉本側の冷ややかな反応で、要求実現はかなわなかった。
当時の漫才ブームのトップランナーであった島田紳助でさえ、吉本興業を離れては生きていけないという、芸能界の構造に縛られてのことだった。
同書の分析は、ハリウッド、韓国にもおよび、歴史を遡り、河原乞食と呼ばれていた芸能者への差別が今に至るも続いている事実を、鋭く抉っている。
(深笛義也)