会社の飲み会にはあまり顔を出さない。帰ってからやりたいことは沢山あるし、仕事が終わった後も職場の面々と顔を合わせて、仕事の話をしたくないというのもある。そうは言ってもたまには行かざるを得ないのだが、顔を出したら出したで、景気回復の噂もどこ吹く風、給料が増えないだの仕事が回らないだの、会社や個人の将来的な不安ばかりが話題になると、楽しく酔うどころではない。

そんな中ふと気になった話題がある。同僚がある漫画家の名前を挙げて「こんな奴でも年収何千万だぜ」とのたまっていたのだ。帰宅後、同僚が口にしていた「松山せいじ」という名前で検索をしてみた。人よりは多く漫画を読んでいると自負していた私だが、この方の名前は知らなかった。どうやらお色気漫画を得意とするようで、大ヒット作品と呼べるものは無い。しかし、松山氏は自らTwitterで確定申告書の写真をUPしており、そこには4200万と記載されていたのだ。

松山氏は「言わば最大瞬間風速的な数字」と言っており、毎年こんなに稼いでるわけではないという。それどころか経費がかかり過ぎて収支がマイナスな年もあるとつぶやいている。彼は、自慢で収入を明かしたのではなく「最近漫画家さんの貧乏自慢が多く夢が無いみたいな風潮」なので、漫画家を目指す人に夢を持ってくださいと、あえて公開している。UPされた確定申告書は平成20年のものなので、毎年稼げているわけではないというのは本当だろう。

確かに、漫画家に限らず芸能人にせよスポーツ選手にせよ、花形であるはずの職に就く人の「稼げていない自慢」が、近年やたらと目に付く。長い不況で、稼げていることを口にすれば目の敵にされるという風潮もあるだろう。しかし「俺は頑張ってこんなに稼いだ」という声は、あった方がいい。メディアに名前が出る人達が口をそろえて稼げない、儲からないでは夢も希望も無い。何やっても稼げないんだ、と誰もが思ってしまったら、市場に活気が出なくなり本当に稼げなくなってしまう。芸能人の貧乏自慢など聞きたくもない。

ということで逆転の発想で、世の人の収入をすべて公開してしまってはどうだろう。会社の同僚や上司、部下の収入もすべて公開。「あいつこんな貰ってるのかよ」「あんな無能の上司にこんな給料出しているなんて」と職場の人間関係は崩壊に向かうかもしれない。「お前の営業利益が全然上がってないぞ」「私とあなたの収入格差を考慮した結果です」なんて。

職業別のリストを作っても面白いかもしれない。高額納税者番付というのが以前あったが、あれはあくまで納税額からの推定収入だった。純粋に収入だけから割り出されたらどうだろう。上位を殆どが政治家、官僚で締められてしまったらどうしよう。どれだけ税金逃れをしているか、よくわかるかもしれない。政治家の先生方も開き直って「税金を低く抑える節税テクニック」なんて本が売れるかもしれない。政治家が節税を指導してどうするという話だが。

人の収入は知りたいところだが、やはり知らない方がいい。しかしあえて公開した松山せいじ氏には、エールを送りたい。彼の漫画を買ってみようかと思ったが、作品一覧を見ると「ぶっ☆かけ」「おねがい?アンナ先生P」「先生彼女」と並んでいる。彼のファンになるには、ちょっと勇気が要りそうだ。

(戸次義継)