英国の生物学者達が6年の歳月をかけて、画期的な研究の成果を発表した。それは蚊の遺伝子を組み換え操作することで、95%の確率で雄が生まれるようにするというものだ。当然雄ばかりが生まれることになり、蚊を絶滅に導くことができる。
言うまでもなく蚊は人間にとって害虫でしかない。特にアフリカでは、蚊が媒介するマラリアが人間に多大な被害を及ぼす。マラリアに感染した人間は死に至るケースも多く、年間60万人もの被害者が出ている。
日本ではマラリアの被害はごくわずかではあるが、そうでなくても蚊は害虫でしかない。殆どの人が嫌いな虫として挙げるだろう。蚊が一匹でも部屋にいると、叩き潰すまでは落ち着かないものだ。
しかし人間にとって害悪だという理由で絶滅させていいのだろうか。それは一方的な人間の我儘に過ぎない。勿論、これを書く私も人間であるから、蚊が居なければ日本の夏は大分快適なものになりそうだと思う。
蚊を絶滅させることで一番懸念されるのは生態系の破壊だ。例えば、蚊よりも嫌われている、ゴキブリが絶滅したらどうなるだろう。ゴキブリは太古の昔から生き続けていて、繁殖力、生命力の強さから人間が絶滅しても生き残るとまで言われている。そのゴキブリが絶滅すれば、人間にとってはこの上ない喜びかもしれない。
一方で、ゴキブリを捕食する大型のクモ類は、主食が無くなることでこれも絶滅してしまうか、極端に数を減らすことになるだろう。すると、クモが捕食していた他の虫、その中には蚊やハエ、ダニといった人間の害虫達、これらは天敵がいなくなることで大繁殖する恐れがある。天敵がいないがために、都心にカラスが増えたように。他にもカマキリやカマドウマはゴキブリを捕食すると言われている。これらの虫も数を減らすか、仮に絶滅してしまったらさらに生態系は混乱するだろう。
ゴキブリのような、直接人間には被害しか及ぼさない虫でも、居なくなると問題がでてくる。マラリアの脅威に対抗するためとはいえ、人間の都合だけで蚊を絶滅させると、どこかでしっぺ返しを喰らうことになるのは容易に想像できる。
梅雨が明ければ蚊の季節だ。時々部屋に忍び込んでくる蚊を潰しながら、絶滅させるべきか、面倒ながら共存するべきか、考える夏になりそうだ。
(戸次義継)