プーチン政権によるウクライナ侵攻に抗議の声をあげたのは、ウクライナの人々ばかりではなかった。日本で暮らすロシア人たちも渋谷駅前でマイクを握り「戦争反対」と訴えた。

「私はロシア人です。ロシア国民の1人として、戦争に反対していることを伝えに来ました。戦争を正当化できません。がんばりましょう」

ロシア人女性は泣いていた。〝加害国〟の国民が祖国の暴挙に異を唱えるのは勇気が要るだろう。ましてや、日曜日の午後で大勢の日本人が行き交う渋谷だ。それだけに女性たちの言葉は非常に重い。

10年以上前にロシアから来日した女性も「戦争反対の気持ちを伝えるためにここに来ました」と想いを語った。

「いまの戦争はいきなり起こったわけではなくて、長い歴史があります。ロシア政府だけでなくウクライナ政府、NATOなどいろいろな政府がうまくいかなかった結果だと思っています。でも、戦争は最悪の方法です。問題を解決したいのなら人間らしい努力。言語と知恵を使って交渉しながら解決するべきだと思います。ロシアにも戦争に反対している人は多いです。今日はウクライナ人の同僚と一緒にここに来ました。私たちに問題はないです。問題が起こることはあり得ないのです」

彼女の言葉はとても落ち着いていて知性的だった。なぜ日本で暮らすウクライナ人と仲良くしているのに、祖国はウクライナを武力で制圧しようとするのか。なぜ言語と知恵を総動員しないのか…。そして、戦争を終わらせるための制裁について、次のように語った。

「日本人の皆さんに覚えて欲しいです。一般の人たちになるべく影響しないような制裁にして欲しいと思います」

女性は、バルト海に面した港湾都市に生まれた。来日して数年後、東日本大震災が起きる。以来、東北でのボランティア活動を続けているという。

「両親の出身はベラルーシとウクライナの間にあった、チェルノブイリ地域です。私のルーツはそこなんですよね。ウクライナにいる親戚はまだ無事ですが心配しています」

私が「戦争も原発も反対です。犠牲になるのはどちらも、弱い市民だから」と言うと「その通りです」と答えた。

実は今月5日午後、この女性から「やっぱり名前と顔を伏せて欲しい」と連絡があった。「ロシアで暮らす母を守るためです。戦争に反対し、各国の制裁に賛成していることが知れると、最長15年の懲役、または多額の罰金を支払わなければならなくなる恐れが生じたのです」

ロシア人が日本で反戦を訴えるのも命がけなのだ。

10年以上前にロシアから来日した女性も「言語と知恵を使って交渉しながら解決するべき」と訴えた

反戦スピーチはまだまだ続いた。

ウクライナ人の母親と日本人の父親の間に生まれたエリカさんは、祖母の身を案じている。

「おばあちゃんなどがウクライナ郊外に住んでいます。ミサイルの爆音が聴こえるたびに地下の防空壕に隠れる毎日だそうです。そんな生活、私たち日本人には信じられないと思います。幼い子どもたちから未来を奪っている戦争を許してはいけません。早く平和になって欲しいと願っています。本当に戦争をやめましょう」

国旗を身にまとって抗議集会に参加したウクライナの女性たち

インド人の男性も流暢な日本語で反戦を訴えた。

「私にはウクライナ人の友達がたくさんいます。今日は、そのなかの1人と話した内容を伝えたいです。友達はこう言いました。『私たちは平和な国で生きたい』。平和な国で生きたいだけだと言っていました。ウクライナという小さな国を弟や妹のように守るべきなのに、ロシアという強大な国が市民を殺している。最悪のことです。私も皆さんと一緒にプーチン大統領の行動に反対します」

インド人の男性は「皆さんと一緒にプーチン大統領の行動に反対します」とマイクを握った

当初はロシア大使館前で抗議集会を開く予定だったが、参加者数が多くなったためハチ公前に場所を移して行われた。

そのロシア大使館周辺では、昼過ぎから右翼団体が街宣車を走らせ、大音量でロシアを罵っていた。大勢の警察官が駆り出され、ロシア大使館を警備していた。特に通行止めなどの措置は取られておらず所持品検査などもないが、カメラを手に歩くたびに警察官に声をかけられ「どこのメディアか」などと質問された。

その光景は、原発事故後の東電を護衛している警察と重なって見えた。筆者は「日本の警察は誰を守っているのか」と逆質問したが、答えるはずもなかった。

金髪の女性が日本人男性と一緒に坂道を上がって来た。「PROTECT UKRAINIAN SKY」と書かれた手づくりのプラカードを掲げていた。この日の東京の青空のように、ウクライナにも平和な春が早く訪れることを誰もが願っている。

ロシア大使館近くでも、ウクライナ出身の女性がプラカードを掲げて戦争の終結を求めた

▼鈴木博喜(すずき ひろき)
神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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