今年5月、筆者は『芸能人はなぜ干されるのか? 芸能界独占禁止法違反』という書籍を鹿砦社から上梓した。

本書は次々と版を重ね、現在、6刷。パブリシティのため、ニュースサイト筆者のインタビュー記事を3本、配信してもらったところ、それぞれYahoo!ニュースの雑誌総合ランキングで1位を獲得。アマゾンの販売ページに掲載された8本のレビューは、すべて星5つというという高評価をいただいた。

◆きっかけの「北野誠謹慎事件」

そもそも、筆者が本書の着想を得たのは、2009年に起きた北野誠謹慎事件だった。

北野誠は毒舌が売りのお笑いタレントだったが、関西のABCラジオで放送されていた『誠のサイキック青年団』での発言が問題となり、突如として番組が終了。北野自身も無期限謹慎状態に追い込まれ、北野が所属する松竹芸能と番組を放送していたABCラジオを運営する朝日放送が責任を取るかたちで有力芸能プロダクションのほとんどが加盟する業界団体,日本音楽事業者協会(音事協)を退会した。

業界では「芸能界のドン」と言われ、音事協も牛耳っているとされる、バーニングプロダクションの周防郁雄社長の悪口を北野が言ったのが原因ではないかと囁かれていた。

当時、筆者はある雑誌の編集部からの依頼でこの事件の取材をしていたが、ある週刊誌記者から「音事協では加盟する芸能プロダクション間でのタレントの引き抜きを禁じている」という話を聞いた。芸能プロダクションは、人気タレントを独占的に抱え込むことで利益を得ている。ところが、商品であるタレントが勝手に移籍すると,過当競争が始まり,芸能プロダクションのビジネスモデルが崩壊してしまう。そこで、音事協ではタレントの引き抜きを禁止じ、さらに独立を阻止することで一致団結し、共存共栄を図っているという。

◆「五社協定」「音事協」というカルテル組織

この仕組みは、映画界でかつて存在した「五社協定」を原型としている。映画界では戦後しばらくの間、「俳優ブローカー」と呼ばれた業者が俳優に映画の仕事を斡旋し、出演料を高騰させていた。

また、日活が戦時下で中断していた映画製作を再開すると発表し、日活による俳優や監督などの引き抜きを恐れたメジャー映画会社5社(松竹、東宝、大映、新東宝、東映)が各社専属の俳優の引き抜きを禁じる協定を1953年に結んだ。

その後、五社協定はフリーを宣言するなど、映画会社に反旗を翻した俳優を業界から締め出す性格を強めていったが、次第に違法性が明らかとなっていった。

1957年には、新東宝に所属していた前田通子という女優が勧告の演出を拒否したことで会社をクビになり、五社協定に基づき映画界からも排除されるという事件があったが、翌年、前田が東京法務局人権擁護部に訴えたところ、人権侵害が認定された。

また、1957年には独立プロダクションの独立映画株式会社が製作した『異母兄弟』という作品に東映に所属していた南原伸二という俳優が会社に無断で出演したことが五社協定に違反するとして、松竹が一部の映画館での上映を中止する事件が起きた。

独立映画側は五社協定が独占禁止法に違反するとして公正取引委員会に申告した。1963年、公取委は映画会社各社が五社協定に基づき『異母兄弟』の配給しないようにした事実について、独占禁止法違反の疑いがあると認定した。

五社協定は、1971年の大映倒産をもって自然消滅したと見られるが、作品の質の低下を招き、映画界の凋落を早めたと指摘されている。

1963年に設立された音事協は、その五社協定をモデルとして設立されたカルテル組織だった。音事協が発行した音事協加盟プロダクション社長のインタビュー集『エンターテイメントを創る人たち 社長、出番です。』の中で第一プロダクション社長、岸部清は音事協の設立について「そもそも、タレントの独立問題が背景にあって、ちょうど映画の五社協定に似た形で、親睦団体を名目に創設したわけです」と述べている。

現在の音事協も五社協定と同じようにタレントの引き抜きを禁じ、独立などで芸能プロダクションに反旗を翻すタレントを干すという仕組みを踏襲している。「芸能界は根本的に違法なのではないか?」というのが本書の核心部分である。

◆小泉今日子発言の波紋

「何を今さら」と思う人もいるかもしれない。だが、芸能界は今、変革の時期に差し掛かっているのではないか、と筆者は考えている。特に最近、業界関係者から芸能プロダクションに対する批判が相次いでいるのだ。

本書刊行の1ヶ月ほど前にバーニングプロダクション所属の女優、小泉今日子が「私みたいな事務所に入っている人間が言うのもなんだけど、日本の芸能界ってキャスティングとかが“政治的”だから広がらないものがありますよね。でも、この芸能界の悪しき因習もそろそろ崩壊するだろうという予感がします」(『アエラ』4月21日号)と発言し、話題を集めた。

また、フジテレビ出身で、2013年にフリーに転身した長谷川豊氏も、最近、古巣のフジテレビの視聴率低迷は、フジテレビ幹部と「大手芸能事務所」との癒着で番組のキャスティングが歪められていることが原因と指摘し、ネットで注目を集めた。

そこに来て、本書の出版と前後して、女性アーティストの安室奈美恵が所属するライジングプロダクションに対して独立を主張し始め、多くのマスコミが注目する騒動となっている。[つづく]

(星野陽平)

『芸能人はなぜ干されるのか? 芸能界独占禁止法違反』