◆ナチスの再来を思わせるジェノサイド

「世界の人々は、何か行動を起こしてください」「われわれは化け物と戦っている」(マリウポリのウクライナ軍レポーター)

「国際社会は残虐行為を知りながら見ているだけだ」(ウクライナ大統領側近)

ソ連邦崩壊のトラウマに憑り付かれた独裁者による、独裁維持のための戦争は、新たな段階に入った。

30分に数度の砲撃、1時間置きのミサイル飛来で、ウクライナの東部の町は廃墟と化している。戦争犯罪(虐殺)の痕跡を残さないために、ロシア軍は火葬車を伴っているという。

キーウから撤退したロシア軍はドンバス地方(ウクライナ東部)へと転戦し、最低限の政治目標であるドネツィク州とルハーンシク州(ともにウクライナ語読み)の実効支配確立をめざしている。

この「実効支配」とは、8年間つづいたドンバス戦争(ウクライナ東部の内戦)を最終的に終了させ、ウクライナ住民をロシア各地に移住させることを意味している。ロシア軍が撒いている「極東ロシアが、あなたを待っている」というチラシの呼び掛けがそれを立証した。

そのいっぽうで、ロシア軍が支配下に置いていたブチャなどキーウ郊外の町では、後ろ手に縛られた市民が銃殺されている。侵略者に従わなければ、銃殺する戦争犯罪が行なわれたのだ。いわばロシアによる「同化政策」「民族浄化」が、今回の軍事侵攻の目的なのだと断定するほかない。

したがって、ウクライナの徹底抗戦の意志は、強いられた生存への戦いということになる。それゆえに、日本におけるわれわれの行動は、単なる反戦運動ではなくなるはずだ。

◆救国戦争とは?

地続きの国境線を持たないわれわれ日本人には、なかなか想像できない現実だが、想像力をはたらかせれば理解できる。

やや荒唐無稽な想像だが、ある国が在日邦人を保護するために、軍隊を日本に上陸させたと仮定しよう。上陸しないまでもミサイル攻撃を受けたと仮定しよう。じっさいに、日本はロシアと国境を接し、中国の領海侵犯および北朝鮮のミサイル圏内にある。

かれらは日本の都市を破壊しつくす。そして無防備なわれわれを連行し、移住先への切符といくばくかの準備資金、そして土地を提供(ロシア移住の場合は25万円と1ヘクタールの土地)するという。われわれは、その国の国民にされるのだ。

このような仮定を想像したとき、わたしは間違いなく抵抗するであろう。

ためらわずに武器をとって戦うであろう。かつてナチスの支配に抵抗したフランスやポーランドのレジスタンスのように。あるいは日本の侵略に抗して戦った八路軍のように。戦後日本の民衆も相手の暴力に相応して、コザや三里塚では武器を持って戦ってきた。

侵略者から身を守るために、戦う武器の供与を世界にもとめるはずだ。いまのウクライナのように。

ここに、帝国主義の侵略に反対する反戦の思想が、反侵略の救国戦争においては戦争の思想に変化するのだ。

このことは、80年前後のソ連のアフガン侵攻と中越紛争の時期にも議論されてきたものだ。ソ連のアフガン侵攻のように国境を侵す以上は「侵略」であり、中国のカンボジア支援の国境侵犯は「牽制」にあたるなどと、当時は華国鋒体制を支持する立場から論じられたものだった。

その後、鄧小平政権になってからも、ベトナムとの国境紛争はつづいた。そこで得られた結論は、たとえ反覇権の社会主義中国であろうと、日本を侵略した場合は日本人民の敵であると。革命中国(懐かしい言葉だ)の第五列として、日本革命に転化するという議論は起きなかった。

◆武器供与の問題

さて、現在問題になっているのは、ウクライナへの武器供与である。反戦運動の立場からは、戦争を激化させる武器供与に反対するのが原則だ。憲法9条に拠らずとも、武器供与は違法(防衛装備移転三原則違反)であると。

だがこの原則は、帝国主義の侵略に加担する自国の政府に「武器を供与させない」運動としては有効であっても、侵略された国への支援(供与)は行うべきではないか。少なくとも反対するのであれば、戦争の終わらせ方をも展望したものでなければならない。

すなわち、敗北による強制連行や民族浄化にも、反戦運動は責任を持たなければならない。いま「武器供与に反対」することは、ウクライナの敗北すなわちロシアへの隷属を意味するからだ。それはキーウにおけるロシア軍の敗退という「事実においても、戦わなければ占領・隷属させられることが実証された。

かつてべトナム反戦運動において、反対運動の抗議がアメリカと日本政府に向かったのは、ほかならぬ日米安保体制がベトナム侵略に加担したからである。ベトナムに向かう戦車が国鉄を使用していたし、沖縄米軍基地のB52がベトナムを爆撃していたからなのだ。

したがって、アメリカはウクライナへ武器を送れというスローガンを掲げるかどうかは別(あまりにも右翼的だ)として、ウクライナを見殺しにする武器供与反対も憚られる。人道的な支援として、ウクライナ大使館や民間援助団体への寄付は、積極的に行われるべきであろう。

いま、ヨーロッパ諸国の中で武器供与に消極的なドイツでは、シュルツ首相が与野党の批判を浴びている。シュルツの出身母体が、ロシアと親密な関係にあるSPD(ドイツ社民党)であることも、この批判には含まれていると思われる。

いっぽう、わが岸田政権は防護服や防護器具のほか、ドローンをウクライナに供与するという。


◎[参考動画]【政府】ウクライナに防護マスクやドローンなど提供へ(日本テレビ 2022年4月19日)

◆ドローンが戦況を支配している

いわく「ドローンは市販品であり、武器に使われるものではない」と。供与に反対する立場にはないが、敢えて指摘しておこう。ドローンの存在がロシア軍を苦戦させていることを。

ロシア黒海艦隊旗艦のミサイル巡洋艦モスクワは、対艦ミサイルネプチューンに撃沈されたとされているが、じつはドローンが攻撃に参加していたのではないかという説が、にわかに信憑性を帯びている。

というのも、それを示唆したのがロシア軍部に近いSNSのアカウント(Reverse Side of the Meda)だからだ。

同アカウントが公表したモスクワ沈没の経過によれば、ウクライナ海軍が所有するドローン(バイラクタルTB2)が、ネプチューン到達前にモスクワを攻撃したという。モスクワ搭載の防空システム(S-300F)がドローンに集中している間に、ネプチューンがモスクワに命中したというものだ。

この指摘を受けて、米誌「フォーブス」の電子版が14日に「ウクライナのバイラクタル・ドローンがロシア艦隊の旗艦「モスクワ」を沈めるのに寄与した」という記事を掲載している。いま軍事専門家のあいだでは、ドローンがネプチューンの制御(標的算出)に用いられたのか、防空システムを集中させる標的(囮)になったのか、あるいはドローンに搭載された小型ミサイル(MAM-1)による被弾なのか、さまざまに見解が分かれている。

いずれにしても、飛来した対艦ミサイルがウクライナ当局が主張する2発ならば、対艦防空システムで防げたはずだというのだ。

そもそも、第二次大戦の軍艦とはちがって、現代の艦船は防御装甲がきわめて脆弱である。大戦中の重巡洋艦と現代の巡洋艦が、大砲の射程距離内で撃ち合いをやったら、現代の巡洋艦は数発で撃沈されるという。大戦中の旧戦艦・重巡洋艦には艦測バルジ(装甲突起)があり、容易に沈まないのだ。たとえば雷撃機の攻撃で舵が効かなくなったドイツの戦艦ビスマルクが、英米海軍の砲撃では沈まず、最後はキングストン弁を開けて自沈したことが、最近の調査で明らかになっている。

いっぽう現代の艦船は、近距離で撃ち合う海戦を想定していない。装甲は軽量化(高速化)のために申し訳程度で、もっぱら防空システム(CIWS)と防空ミサイル(赤外線追尾)に依存している。このうちCIWSとは、ガトリング砲(円形に6門の砲身をもつ機関銃)がレーダーとコンピュータ制御でミサイルを撃ち落すものだ。1分間に3000発の掃射が可能だとされている。

ぎゃくに言えば、ドローンや無人機を飛ばしてCIWSをそっちに集中させれば、ミサイルがやすやすと艦体を捉えることが可能になることを、今回のモスクワ撃沈が立証したことになる。

それはともかく、キーウ防衛でドローンと軍事衛星が果たした役割は大きかった。ロシア軍の戦闘車両は的確にその位置を把握され、対戦車ミサイルジャベリンの犠牲になった。市販のものでも、ドローンは近代戦争に不可欠の武器になりつつある。


◎[参考動画]「ウクライナを支えるドローン部隊の実態に迫る!」(日本テレビ【深層NEWS】2022年4月14日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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