原発の燃料となるウランの埋蔵量で世界全体の23%を持つオーストラリアがインドへの輸出に踏み込みそうだ。ギラード首相のもと、ファーガソン資源大臣などを中心に、これまでの禁輸政策の見直しが議論されてきたが、昨年12月の労働党大会でけんけんごうごうの議論の末、インドへのウラン輸出が承認された。中道左派政党の労働党にとり、ウラン輸出は微妙な問題で、輸出解禁に積極的な党内右派からも個人的な理由で反対する議員が出た。しかし、結局は核不拡散条約に加わる北朝鮮やイラン、世界最大の独裁国である中国への輸出が認められているのに、世界最大の民主国家への輸出が認められないのはおかしい、経済的な利益を逃すべきではないという議論に押し切られてしまった。

昨年の労働党大会でこそ経済効果が正面に出されたものの、この政策変更を迫ってきたのは「温暖化対策」としての原発だ。オーストラリアの政策変換は2006年にシドニーで開催された「クリーンな開発と気候のためのアジア太平洋パートナーシップ」(Asia-Pacific
Partnership for Clean Development and
Climate)にまでさかのぼる。この設立会議には米豪、中国、インド、韓国、日本の6カ国から閣僚が送り込まれた。その前年、モントリオールで開かれたCOP11で、この6カ国の代表は日本原子力産業会議の主催するワークショップでパートナーシップについて協議し、大筋で合意に達していた。クリーンで効率的な技術(=原発)を途上国(=中印)で開発することが温暖化対策につながる。原発先進国の日米韓、そしてウランを売りたい豪が中印に原発の開発を迫る。それが「温暖化対策」に名を借りた原発推進パートナーシップの構図であり、今回の労働党の政策変換を促した枠組みだった。

日本国内で「原発は環境に優しい」という嘘をばらまき、官僚や政治家を洗脳し、原発輸出を経済政策の中心に据え付けた茅陽一などの戦略がこのパートナーシップの下敷きになっていた。

この枠組みに従い、ブッシュ米大統領はインドを訪問し、F16やF18の売却だけでなく、原子力協定に合意した。ブッシュの「代官」を気取るハワード前首相もブッシュに続くように訪印し、「それなりの国際査察を受けいれるなら、輸出は検討する」とそれまでの発言を翻した。2007年の選挙でハワードを破り、首相に就いたラッド前首相は労働党の政策の縛りにあい、インドへのウラン輸出に踏み切ることができなかった。それが昨年末の党大会で修正されたのである。

オーストラリアは埋蔵量こそ豊富だが、生産はこのところ頭打ちで2010年~11年の生産はここ10年間の平均である8500トンを大きく下回る7000トンにとどまった。生産停滞の理由は皮肉にも気候変動がもたらす未曾有の干ばつだと言われている。温暖化に効果のあるはずの原発の燃料生産が、温暖化のおかげで滞ってしまったのだから皮肉だ。それもあってか、政策変換を議論した党大会では原発を「温暖化対策」として位置づける議論はほとんどなされなかった。

「温暖化対策」が口実にすぎないことは明らかで、ブッシュ大統領は訪問先のニュー・デリーで、米豪や日本の本音は中国とインドを化石燃料獲得競争から押し退けるのが本音であることを伺わせる発言をした。「インドが原発開発をすることで、化石燃料の需要が減ることになれば、それは私たちに経済的な利益をもたらします。化石燃料の需要の抑制はアメリカの消費者の利益につながります」

インドでは現在6カ所の原発で20基の原子炉が運転中で、総出力は4780メガワット(MWe)。一カ所の原発では刈羽柏崎をうわまわる世界最大規模の発電所の建設がが西部マハラシュトラ州ジャイタプールですすんでいる。2010年には、2032年をめどに原発の発電量を63000メガワット(MWe)にまで増やそうという計画が発表されたが、フクシマ以降、立地を予定される場所で反対運動が高まっており、この計画が達成されるかどうかは分からない。インドにはウラン鉱床があるものの、量は微々たるもので、これから増え続ける原発の燃料確保が急務になる。2011年にインドが輸入したウランは1305トン。

労働党の政策変換を受け、オーストラリアはインドとの間に原子力協定を協議することになる。実際にウランが輸出されるようになるまでにはまだ、時間がかかるだろう。

日本でもインドとの原子力協定が国会で議論されており、フクシマさえなければ、今頃、原子力産業協会や原子炉メーカーなどの原発マフィアのもくろみ通りに事が進んでいたはずだ。昨年12月末の野田首相訪印の際も協定の締結交渉の促進が再確認された。

すでに原発輸出国のフランス(2008年)韓国(2011年)、アルゼンチン(2009年)、カナダ(2010年)はインドとの協定を結んでいる。原発などのインフラ輸出で経済再生を図ろうとする日本の企業だけでなく、官僚や政治家は気が気ではない。ウランを売り込みたいオーストラリアもカザフスタン(2011年)やカナダに先を越されてしまったという思いがある。

インドに輸出されたウランや原発が第二、第三のフクシマを引き起こそうが知ったことじゃない、それが核弾頭に組み込まれようがかまわない、カネに目の眩んだ者たちのなりふり構わない危険な争いが進行中だ。フクシマが収束しておらず、放射能は全国各地に拡散し、濃縮しているというのに「安全神話」や「温暖化効果」と「経済効果」の嘘を臆面もなくばらまき続ける連中の精神はどんな構造をしているのだろうか。良心の呵責なんてあるのだろうか。原発のもろさやいい加減さをどこまで取り繕うことができるのか。こういう連中は、もう何回フクシマを経験したら目覚めるのだろうか。

(RT)