玄葉外相が7日、サウジアラビアのアブドルアジズ外務副大臣と会談し、フクシマ後、増加する火力発電用の原油需要をまかなうため、原油の安定供給と価格安定を要請したそうだ。サウジ側はその要請に応じたと国内のメディアは報じている。しかし、これは額面通り受け取ることはできない。

サウジが約束しても,原油の安定供給や価格の安定はできないだろうと疑う背景には,サウジの原油生産が2003年から日産800から950万バレルくらいで推移してきたことがひとつ。この間に原油価格は何倍にも上がり、増産できれば増産するだけの理由があったこと。そしてじっさいに何度も「増産する」と繰り返しながら,実際は増産しなかった過去がある。本当に増産できないのか,それとも、カネなんか欲しくないと意識的に増産してこなかったのか,それは分からない。これからも増産しないとは限らないが、これまでをみると,あんまり期待はできないだろう。

安定供給や価格安定に懐疑的にならざるを得ないもうひとつの理由はサウジ国内の需要増加だ。昨年10月現在、国内消費量は約200万バレルだったが、伸びは年率7%だ。

生産が頭打ちで国内需要が伸びると,オイルピークを研究する人たちの間でELM(Export Land
Model)という名前で知られる問題がうまれてくる。簡単に説明するとこういうこと。

サウジのような産油国は原油の需要が増え価格が上がると収入が増える。それに伴い国内の景気も良くなり,国内の原油需要が増す。それにともない,産油国は外国に輸出できる量が減り、国際市場に出回る原油も減る。歴史的にはインドネシアや英国がこのパターンをたどった。そして,今,サウジもこのパターンをたどりつつある。

これは、オイルピーク問題の研究者の間ではずいぶん前から言われてきたことだが、ちょうど先月,ロンドンのチャタム・ハウス(王立国際問題研究所)というシンクタンクから、この問題に関する報告書が出た。

それによれば,サウジ国内の原油需要がこのままの勢いで伸びていけば、これから10年で需要は倍増する。サウジは近隣のMENA諸国で吹き荒れる「アラブの春」が自国に波及するのを防ぐため、ガソリンなどの国内価格を安く抑えている。サウジの原油生産そのものが仮に現在のレベルで維持されたにしても,需要の伸びは輸出に回る量をどんどん浸食し,国際市場に出回る原油の量は大きく減ってしまう。また原油収入に頼る政府も基盤を脅かされ政情不安につながるかもしれない。

(灰色の線が生産量,青い線が輸出量,水色が国内需要。チャタムハウスの報告書より)

それを避け,輸出量を確保するため,報告書は国内価格の引き上げ,節約,代替エネルギーの導入などを含め、サウジの石油離れを呼びかけている。それらの策が早急にとられなければ,2020年までに一日あたり,200万バレルが国際市場から消えてしまい,価格は上昇すると報告書は指摘している。サウジの外務副大臣がなんと言おうと、このままじゃ、安定供給なんかおぼつかないし、価格の安定も難しくなるとこの報告賞は指摘している。

世界でも有数の産油国自身が石油離れをしなければ、世界に社会的、経済的、政治的な問題を引き起こすというのが、この報告書のポイントだ。需要と供給が逼迫するオイルピークの時代の現実をよく表している。

でも,現実的には国内価格の引き上げは「アラブの春」を呼び込むことになりかねず、サウジ政府も簡単には手をつけられない。サウジでは代替エネルギーの開発がそれなりに始まっているが,エネルギー需要をそれなりに賄うまではまだまだ時間がかかるだろう。結局,消費国が原油需要を落とさないで、産油国にそれを求めても難しいだろう。

こうみてくると,玄葉外相は,税金を使ってサウジまでなにをしに行ったのだろうかと思わずにいられない。「隠された問題」という副題がついてはいるが、チャタムハウスの報告書はマル秘報告書でもなく,今月初めからネットに上がっている。40ページくらいだから、一国の外相なら簡単に読めるはず。だれか玄葉外相に教えてあげてくれないかなあ。

(RT)