慰安婦問題に関する誤報を長年放置したうえ、いざ誤報を認めても謝罪をせずに大バッシングにさらされている朝日新聞。実は同紙には、他にも長年に渡って放置し続けている重大誤報がある。それは、あの和歌山カレー事件に関することである。
何者かが夏祭りのカレーにヒ素を混入し、60人以上が死傷した大事件をめぐり、朝日新聞が「大スクープ」を飛ばしたのは1998年8月25日のこと。事件発生から1カ月になるこの日、同紙の朝刊一面には次のような見出しが大々的に踊った。
《事件前にもヒ素中毒 和歌山毒物混入 地区の民家で飲食の2人》(大阪本社版)
この「大スクープ」は、のちに死刑判決を受けた林眞須美(一貫して無実を訴え、現在も再審請求中)に対するマスコミ総出の犯人視報道を誘発。朝日新聞自身もこの日以降、眞須美らが人にヒ素を飲ませる手口で保険金詐欺を繰り返していた疑惑を連日大々的に報じた。その結果、同紙は1999年度の新聞協会賞を受賞しているが――。実はその報道はおびただしい誤報の連続だったのである。
◆実は「大スクープ」も誤報
たとえば、上記の「大スクープ」もそうだ。この記事では、事件前に林眞須美宅を訪ねた2人の男性がヒ素中毒に陥っていたように報じられていた。さらに朝日新聞はこの「大スクープ」以降も大阪本社版だけでゆうに10回以上、同様の情報を伝える記事を掲載している。しかし、のちに林眞須美の裁判で明らかになったところでは、この2人のうち、本当にヒ素中毒に陥っていたのは1人だけだった。しかもヒ素中毒に陥っていた1人についても、保険金を詐取するために自らヒ素を飲んでいた疑惑が公判で浮上しているのである。
マスコミはほとんど報じていないが、実はこの2人の男性は林眞須美やその夫・健治と保険金詐欺の共犯関係にあったことが裁判で判明済みだ。しかし事件発生当時、朝日新聞はそのことに一切触れず、他にも以下のような誤報を連日飛ばし、林眞須美がカレー事件の犯人だと世間に印象づけていったのである。
【1】上記2人の男性が3年間に少なくともそれぞれ10数回にわたって救急車で運ばれていたと報道(大阪本社版1998年8月26日朝刊)→証拠上、そんな事実は存在しない。
【2】上記2人の男性のうち、本当はヒ素中毒に陥っていなかったほうの男性について、林眞須美夫婦が詐取した保険金の受取人だった法人の「従業員」だったと報道(大阪本社版1998年8月26日夕刊)→正しくは、この男性は法人の「代表取締役」で、保険金詐欺に使われていると知りながら法人の名義を林夫婦に貸していた。
【3】上記の2人の男性以外にも事件の数年前から林眞須美宅をたびたび訪れ、手足のしびれや吐き気を訴えていた30代の男性が存在し、その男性が受取人は第三者とする複数の生命保険を契約していたかのように報道(大阪本社版1998年8月31日朝刊)→証拠上、そんな人物は存在しない。
……とまあ、朝日新聞のカレー事件報道はまさに誤報、誤報の連続だった。しかし、同紙がひた隠しにしているため、この誤報問題を知る人は世の中にほとんどいないだろう。
◆誤報を認めない朝日新聞
筆者は2008年ごろ、この誤報問題に関する考えなどを聞こうと、同紙を代表して新聞協会賞を受賞した大阪本社編集局地域報道部長(受賞当時)の法花敏郎氏に取材を申し込んだことがある。しかし、折り返しで電話をかけてきた法花氏は「『朝日』では、記者個人が記事に関する問い合わせには応じない。大阪本社の広報部に電話してくれ」という旨を一方的にまくし立て、話の途中で電話を切ってしまうような人だった。そこで筆者は大阪本社の広報部に対し、書面で同紙のカレー事件関連の誤報を26点指摘したうえ、訂正記事を掲載したか否かなどを質問したのだが、「弊社としましては、何もお答えすることはありません」という回答が返ってきただけだった。つまり朝日新聞はよほど切羽詰った状態にならないと、決して誤報を認めたりしないということである。
公平のために記しておくが、和歌山カレー事件の発生当時、林眞須美を犯人視した誤報を連日飛ばしていたのは朝日新聞だけではない。筆者が検証した限り、新聞や週刊誌はどこも当時、朝日新聞と同次元の誤報を連発させている。それでも、マスコミ総出の犯人視報道を誘発する誤報を飛ばした朝日新聞の罪が一番重いことは間違いない。林眞須美については近年、冤罪を疑う声が急速に増えている。慰安婦問題の誤報同様、この事件に関して飛ばした膨大な誤報についても、朝日新聞が言い逃れできなくなる日はきっとくるはずだ。
(片岡 健)