◆LINE Payが立ち上がらない! このままじゃ夕食が買えない!

2022年10月17日夕方。広島県安芸郡内の介護現場での仕事から帰宅途中のわたしは、広島駅構内の飲食店でテイクアウトを注文しました。

事前にラインで連絡を受けた妻の希望通りの弁当をお店の人に注文。支払いは、いつも通り、電子マネー「LINE Pay(ラインペイ)」で行おうとしました。

ところが、画面がいつまでたっても立ち上がらないのです。何度試しても「正常に起動しませんでした」というものメッセージが出るばかりです。

LINE Payはリアルの銀行のATMと違い、電話の窓口もありません。お店の人に何度も謝りながら試してみました。

まず、筆者のスマホがおかしいのかと思い、立ち上げなおました。しかし、ダメです。

「ここは、電波が悪いのでは?」というお店の人の指摘で、店外にいったん移動して試しました。だが、どうあがいてもうまくいきませんでした。結局、LINE Payでの支払いをあきらめ、クレジットカードで決済しました。

これらのトラブルのおかげで、帰宅が遅くなり、妻に苦言を呈される(笑)など、散々な一日でした。

◆電話の窓口もないLINE Pay

LINE Payには電話の窓口もありません。わかりやすいところに問い合わせ窓口の表示もありません。帰宅後、筆者は、カスタマーサポートをネット検索でようやく発見しました。そこで、夕方のトラブルについて、問い合わせを行いました。すると、翌朝になって以下のような返事をいただきました。

LINEおよび関連サービスをご利用いただきありがとうございます。

LINE Payカスタマーサポートです。

このたびはご不便をおかけし大変申し訳ございません。

2022年10月17日(月)18:00~19:18の間、LINE Payのサービス画面が全般的に表示できない不具合が発生しておりました。

なお、現在は復旧し、正常にご利用いただける状態です。

万が一現在もご利用に問題が発生している場合には、お手数をおかけいたしますが、あらためて問題の詳細をご連絡いただけますと幸いです。

お客さまには大変ご迷惑をおかけしてしまいましたこと、また、ご連絡が遅くなりましたことを重ねて深くお詫び申し上げます。

今後とも、弊社サービスをよろしくお願いいたします。

おりしも、この日は、みずほ銀行のネットバンキングのシステム障害のニュースもまた流れていました。

やはり、現金というものはそうはいっても、ありがたい。そのように痛感しました。

◆給料を電子マネー支払い?!

さて、岸田政権は、今年度にも給料を現金払いから電子マネー支払いに変える制度を導入することを検討しています。

9月19日、「電子マネー」による賃金の支払いについて、厚生労働省は、従業員の同意を前提としたうえで「電子マネー」を扱う業者が安全性を担保した場合に認めるとした新たな制度の案を示しています。

労働基準法では賃金は現金で支払うことを原則としています。ただし、過去に起きた強盗事件などの教訓もあって、口座振り込みを労働者の利益のために認めているというのが現状です。今回は、厚生労働省は「利便性を高めるために、今年度に「電子マネー」で行うことを認める」としています。

同省の案では、企業が従業員の同意を得た場合は電子マネーを扱う「資金移動業者」が開設した口座への賃金の支払いを認めるとしています。「同意を得た場合」といいますが、労働組合がこれだけ弱いいま、制度が導入されれば、企業経営者のいう通り、導入されてしまうのは目に見えています。

また、資金移動業者は、安全性を担保するために一定の要件を満たしたうえで、厚生労働大臣から指定を受ける必要があるとしています。

この要件の案には、業者が破産したときに全額または100万円以上が数日以内に支払われるなど速やかに保証されること/不正に引き出される被害があったときに利用者に過失がなければ全額補償されること/少なくとも1か月に1回は手数料の負担なく換金できることなどが含まれています。

しかし、10月17日の夕方に筆者が遭遇したようなアプリの不調で買い物ができなくなる事態が起きる現状が、今年度末までに改善することはまず考えられません。しかも、電話ですぐ対応してもらえる窓口すらないのです。

とてもではありませんが、LINE Payを含めて電子マネーはまだまだ現金と同等の扱いは難しいと感じます。そんな中での給料の現金払いではなく電子マネー払いはちょっと怖すぎます。

また、そもそも、コンビニの店頭での公共料金にしても、家賃などの支払いにしいても、電子マネーではなく現金でしかできない状況があります。

給料は現金支払いを原則とし、実際は強盗対策などもあって、銀行口座に振り込みとする。電子マネーには本人が銀行口座からチャージしたい額だけチャージする。

こうした現状を変更することに生じるリスクやコストを上回る便益は今の段階では見出せません。

◆リスクを上回る便益がないものまで先走る岸田政権

岸田政権は、デジタル化を看板政策の一つにしています。筆者もデジタル化そのものを否定はしません。例えば、筆者も、政治活動や市民運動では、zoomを利用した会議など、デジタルの便益を大いに受けています。そして、いろいろな産業でもデジタル化は必須です。例えば、ロシアのウクライナ侵略などを背景に食料価格が暴騰する中で、食料自給率の向上のためにも、農業でのITの活用は必要でしょう。はっきりいって、IT化が必要な分野では日本はむしろ遅すぎるくらいです。

しかし、給料の電子マネー払いは、現時点では、リスクを上回る便益はないのです。問題は、こうしたリスクを上回る便益がないようなことまで、岸田政権が先走っていることです。筆者は、引き続き、労働者の暮らしを守る立場からこの問題について注目していきます。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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