このところ、「マイナ保険証」問題をはじめ、「TikTok」炎上問題など河野太郎デジタル相の言動が物議を醸している。そんな矢先、「アメリカ式か中国式か? ビッグデータと国家安全保障をめぐる『仁義なき戦い』勃発」(Newsweek 11/17)という記事が目に入った。
特に、興味深かったのは、中国による個人情報収集に警戒感が高まるが、世界的にみれば、ヨーロッパをはじめインドなど多くの国々は、米国と米国IT巨大企業こそが、最大の国家安全保障上の脅威だと捉えていることだった。
理由の一つは、2013年にエドワード・スノーデン氏が公表した米国安全保障局(NSA)の大量の機密文書の収集事件を忘れていないこと。機密文書には、米政府が世界各国の要人や一般市民の電子メール、ショートメッセージ、携帯の位置情報といった膨大な量の個人データの収集が示されていた。二つ目は、米国のIT巨大企業GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)が世界のユーザー、一般市民のデータを食い物にし、巨大化していることを挙げている。
欧州各国では、米巨大IT企業への監視を強め、2018年にデータ移転ルールなどを定めた「一般データ保護規則」を設けている。さらにこの5年で、62ケ国がデータの国外移送に制限を加え、国内にサーバーの設置義務を課すルールなどの「データ・ローカライゼーション」規則を設け、強化している。
記事は、デジタル世界は、「『グレートファイアウォール』(ネット検閲、情報統制システム)に守られた中国のインターネットと、アメリカ主導のインターネットだ。そしてヨーロッパやアフリカや中南米の国々は、どちらかを選ぶように迫られている」と結ばれていた。だが、注視すべきは、「データ保護ナショナリズムは激しくなる一方だ」との言葉に表現されているように、各国が、自国のデータ保護・管理を強化していることだと思う。
今日、デジタル化、AI化なしに社会の発展は望めない。そのデジタル化において、生命とされる決定的なものがデータであり、国の政治、経済、軍事、国民生活においてその重要性が増している。同時に、膨大なデータに莫大は価値があるとともに、国家と国民の安全保障が重要な課題でもある。この世界の動きを考えたとき、深刻なのは日本である。日本政府が自らデジタル主権を放棄しているという事実だ。
日本は、TPP交渉の過程で、「国境をまたぐデータの自由な流通の確保、国内でのデータ保存要求の禁止という原則」を受け入れ、2020年に「日米デジタル貿易協定」を締結している。言い換えれば、データ保護・管理などデジタル主権を自ら放棄させられている国なのだ。
2021年9月に発足した「デジタル庁」は、システムの標準化、統合を眼目とし、省庁とともに国と地方のシステム統合を目指してきた。その基盤として使用されているのが、米国のIT巨大企業アマゾンのプラットフォームである。国家と国民の安全保障に関わる政治システムを他国の民間企業に任せるケースは世界でも珍しく、さらに個人情報を管理するデータ設備を日本国内に置く要求もできない。これでは、デジタルを通じて日本と日本人の資産を自ら、米国と米国巨大テックに際限なく売り渡すのに等しい。
改めて、日本政府が米国に対してデータ保護・管理、デジタル主権を放棄させられている、している事実の深刻さに警鐘をならしたい。
▼若林佐喜子(わかばやし・さきこ)さん
1954年12月13日、埼玉県で生れる。保育専門学校卒業。1977年に若林盛亮と結婚(旧姓・黒田)。ピョンヤン在住。最近、舩後靖彦氏の持説「命の価値は横一列」に目からうろこ体験。「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。