新年明けましておめでとうございます。年明けながら、まずは2022年の日本キックボクシング界を振り返ったうえで、2023年の見どころを検証したい思います。
◆[1]世紀の一戦
2022年上半期、世間的には中心的話題一番の那須川天心(TARGET)vs武尊(K-1 SAGAMI-ONO KREST)戦は、6月19日に東京ドームでの「THE MATCH 2022」に於いて5万人超えの観衆の中、58.0kg契約3回戦(ヒジ打ち無し/延長は1R迄)で、那須川天心が3ラウンド判定5-0で勝利。世間的には歴史的な名勝負と言われる中、業界内では「周囲が煽った割には名勝負には至らない」と辛口批判する声があったのも事実でした。
那須川天心はすぐにプロボクシング転向に動き出すと見られた2022年下半期でしたが、その展望は今年からの活動となってどういう展開を見せるかが注目です。
◆[2]入場制限解除とは関係なく……
コロナウィルス感染する選手、濃厚接触者となる選手はわずかながらやや続き、カード変更や中止はありましたが、観衆50パーセントの入場制限は緩和された一年でした。
それより最終試合のメインイベントにかけ、仲間内の選手の試合が終わって観衆が帰って閑散としていく会場はコロナの観衆制限に関係なく寂しいものがありました。那須川天心vs武尊の試合を観ずに帰ったファンはいないでしょうし、あれほどの注目されるメインイベントがもっと必要なキックボクシング界であることは、ジム会長さん達共通の想いであるようです。
◆[3]51年続いた千葉ジム閉鎖
閉鎖するジムあれば近代的設備整ったフィットネス感覚のジムオープンが激しい時代。かつてプロを目指す殺伐とした雰囲気だった千葉(センバ)ジムは古めかしいトタン屋根のジムで、1971年(昭和46年)に前身の国際ジムから移転して建てられました。暑い夏はエアコンは無く、寒い冬はストーブが焚かれました。昨年は雨漏りするも修繕はせず解体を待つだけとなり、かつて国鉄(現JR)総武線車窓から見えた「TBSで放送中」といった昭和40年代からある看板が古びて色褪せしても、時代が流れた2000年以降も目立っていました。
ジムそのものは比較的広い空間でしたが、解体され更地となった敷地は「ここにジムがあったのか?」と思うほど狭い感覚に陥ったという元・所属選手らの声でした。
他の古くからあるジムは移転したり、改築されたりで元の建屋は無くなっていきますが、千葉ジムだけは51年間そのままの姿だっただけに、放っておいては老朽化し倒壊に繋がるだけでも、世界遺産にしたいほど勿体無い建屋でした。
熊本から上京してキックボクシングに導かれた運命を辿った戸高今朝明会長も解体前にはジムの中でポスターやチラシを見ながら「この時は稲毛忠治が40℃の熱出してボロボロでなあ……」といった話もして、苦労話も語り口が楽しそうでした。
その反面、何か言葉にならない感情でジムの中を見渡す姿もあって、特に一昨年からはコロナで活動が停止してしまい寂しそうでもありました。2020年1月にはキックボクシング最初の藤本ジム(旧・目黒ジム)が閉鎖し、そして2022年7月にも解体された千葉ジムで、昭和がより一層消えゆく年でした。
◆[4]ガルーダ・テツ東京進出
関西に留まらず、東京進出という報告には何か野望があると言えるガルーダ・テツ氏の昨年の発表。2月20日から京成立石駅近くのアーケード街にジムオープンされました。
拠点が東京にあるだけでイベント開催や他のジムとの交流もやり易いというガルーダ・テツ氏。その活動からテツジム6人目チャンピオン誕生も狙っている現在、NKB認定下の日本キックボクシング連盟の今後の中心的存在になる可能性は高く、日本列島テツジム計画は着々と進行中。その勢いで、平成時代からやんちゃな話題を振り撒いたガルーダ・テツ氏の今後のプロ興行とアマチュア大会にまた新たな展開が見られるでしょう。
◆[5]原点回帰の武田幸三氏のチャレンジ
語り口は熱かった武田幸三氏。「“ヒジ打ち有り”が圧され気味になっています。」の言葉にインパクトがありました。那須川天心vs武尊戦がヒジ打ち無し3回戦であったように、K-1から影響したヒジ打ち無しルールが台頭して来た勢いが止まりませんでした。
「ヒジ打ち有り、首相撲有り5回戦の本来のキックボクシングに戻す」と言った武田幸三氏の興行テーマ「CHALLENGER」は昭和の殺伐とした雰囲気を持ちながら令和時代のモトヤスック(21歳)や馬渡亮太(22歳)などの活躍した興行が続きました。治政館では後輩となる二人は「ヒジ打ち有り、首相撲有りの5ラウンド制」を受け継ぎ、最強を証明していく意気込みを感じられました。
6月19日に行われた格闘技ビッグイベント「THE MATCH」。あの立場に辿り着くにはどうしたらいいか。何をすべきかが今後の課題。元祖キックボクシングの戦いを浸透させることが出来るか、武田幸三氏を信じましょう。
◆[6]世代交代への流れ
梅野源治(PHOENIX)や森井洋介(野良犬道場)などのベテラン名選手らの活躍はやや陰りを見せつつも続く中で、若い世代の台頭も押し寄せ、特にオーラがある存在が、4月24日に名古屋で、IMSA世界スーパーバンタム級王座決定戦を制した福田海斗(キングムエ/23歳)。
7月3日には横浜で、タイ国ムエスポーツ協会フライ級王座とWPMF世界フライ級王座を2ラウンドKOで制した吉成名高(エイワスポーツ/21歳)は過去、二大殿堂も制している選手。
9月3日には大田区総合体育館でのWBCムエタイ世界スーパーフライ級王座決定戦で、1ラウンドKOで王座獲得した石井一成(ウォーワンチャイ/24歳)。
彼らはすでに5年ほど前からタイ国でも人気ある存在で、タイ国発祥の世界的なムエタイ王座に名を残していますが、更にその飛躍が目立った一年でした。
更に女子キックの中でも、今までに無いズバ抜けた反射神経としなりあるキックを繰り出す藤原乃愛(ROCK ON)も女子ミネルヴァ王座を獲得するまで台頭して来ており、世界を狙っている今年の注目株でしょう。
たまたま六つに纏まった今年の振り返りでしたが、那須川天心無きキックボクシング界は上記の若い選手の台頭や、それ以外にも埋もれた実力者が幾らか存在します。今年の見どころは各団体、プロモーション関係者がスーパースターを生み出す腕の見せどころとなるでしょう。
希望的観測ながら、プロモーターとして知名度有る武田幸三氏、ガルーダ・テツ氏、小野寺力氏の歩み寄りもあれば面白いところで、更にここ数年増えた感のある、各団体興行に似た思想を持った他団体の首脳が顔を見せる光景は、あらゆる可能性に期待を掛けてしまいます。また今年中に何らかの進展があればその都度取り上げ、進展無ければそれなりの纏まり無い業界であったと振り返ることになるでしょう。好転を祈って2023年の展開を追いたいと思う年越しでした。
▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」