12月23日、政府は「デジタル田園都市国家構想総合戦略」を閣議決定した。総合戦略は、6月に岸田政権が閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針」で「4つの柱」の一つとされた「デジタル田園都市国家構想」の数値目標と工程表を5ヵ年計画として定めたものである。

そこでは、実装自治体1500、「デジ活」中山間地域150地域、移動サービス100ヶ所以上、東京圏からの地方への移住者、年間1万人などを挙げ、それらを27年までの5年間で国の交付金を活用して実現するなどを中心に事細かく目標を挙げている。

総合戦略の趣旨は、日本は世界に類を見ない急速なペースで人口減少・少子高齢化が進行しており生産年齢層も減少しているが、東京圏と地方との転出均衡達成目標はいまだ達成されておらず、地方の過疎化や地域産業の衰退等が大きな課題となっているとしながら、デジタルの力によって地方創生の取り組みを加速化・深化させ、それが地方から全国へのボトムアップの成長に繋がっていくとし、「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」の実現を目指すというものだ。

果たして、それは、どういうものなのか。それによって本当に地域問題が解決されるのか、何が問われているのか、それを考えてみたい。

◆米国への日本の統合のための「デジタル田園都市国家構想」

「デジタル田園都市国家構想」の最大の問題点は、これによって、地方の米国への統合が決定的に進むということである。

今、米国は新冷戦戦略とも言うべき覇権回復戦略を展開している。中国、ロシアを敵視し、西側陣営の力を米国の下に結集するという戦略である。その戦略の下、日本を米国に統合する政策が進んでいる。「デジタル田園都市国家構想」は、日本のすべてを米国に統合するという米国の要求の下、地方から日本を米国に統合するものとしてあるのではないか。

その手段が「デジタル」である。地方のデジタル化は米巨大IT企業であるGAFAMの下で行われる。デジタル化において、成長エンジン、生命とされるものがデータである。それ故、世界各国はデータ主権を唱え、データを守り、保護することを重視している。しかし日本は、自らデータ主権を放棄している。TPP交渉の過程で「国境をまたぐデータの自由な流通の確保、国内でのデータ保存要求の禁止という原則」を受け入れ、2020年1月には、それを「日米デジタル貿易協定」として締結している。

データを集積利用するクラウドも、アマゾンの「アマゾン・ウェブ・サービス」(AWS)とマイクロソフトの「アジュール」を使う3社で60~70%のシェアを占め、NTT、富士通、NECなどの日本勢はシェアを落とし排除・駆逐されている。

2021年9月1日に発足したデジタル庁はプラットフォームとしてアマゾンのAWSを使用しており、それに基づき、米国ITコンサルティング会社のアクセンチュアが「全国共通のプラットフォーム」を作っている。

米国仕様で統合されたデジタル化によって、全ての地方・地域が丸ごとGAFAMの管理下に置かれる。個人情報だけでなく、自治体自体の情報、企業の情報が丸ごとGAFAMに管理される。そうなれば、自治体だけでなく地域産業、地域住民のすべてが米国に管理されるようになる。

◆地域自治体の解体と自治の否定、地域住民主権の剥奪

こうしたGAFAMによる管理によって、日本の地方・地域はどうなるのか。

先ず、基礎自治体である市町村の多くが見捨てられ切り捨てられる。

元々、自民党政権での地方政策は、「全ては救えない」として、中核都市を中心にした都市圏(圏域)を作り、そこにカネ・モノ・ヒトを集中させ、他は切り捨てるという「連携中枢都市圏構想」なるものであり、その下で、人口が1000万減少する2040年までに自治体職員を半減させ、公共サービスを民営化するという「自治体戦略2040構想」などの政策が立てられてきた。

「デジタル田園都市国家構想」は、こうした考え方に沿って、デジタル化で、それを促進するものになる。今回、閣議決定された総合戦略では、デジタル実装の自治体1500になっているが、その直前の骨子案では1000になっていた。今、基礎自治体の数は1727団体なので半数は見捨てるということだったが、反発が強くて1500にしたのだろう。しかし、弱小自治体は切り捨てるという思考は変ってはいない。交付金を減らすことで、多くの基礎自治体が切り捨てられていくだろう。まさに、それは堤未果さんなどが指摘する、自治体解体である。

そして何よりも問題なのは、自治体の民営化であり、これによって、住民自治・地域住民主権が剥奪されることである。

これまでも水道や空港、公営交通などの分野で外資に運営権を譲渡するコンセッション方式などで民営化が進められてきた。しかし、「デジタル田園都市国家構想」では、自治体そのものの民営化が目論まれている。

総合戦略では、1000のサテライトオフィスを置き、ハブとなる経営人材を100地域に展開する、などの施策を挙げている。それはGAFAMやその系列のコンサルティング会社や経営人材が地方を経営するためのものとなろう。

こうなれば、自治体活動そのものが少数のデジタル・マネージャーによって企画立案され執行されるようになる。まさに維新が「政治に会社経営の手法を持ち込む」とした政策の全国展開である。こうして議会は形骸化し、自治体職員も大幅に削減され、地域住民は只サービスを受けるだけの存在に、デジタル管理の対象者、隷属物にされてしまう。

今、解決すべきは、本当に地域を維持し振興させることである。そのためには、地域住民が主体となって自治体、地域産業をも巻き込み、地域全体の力で取り組まなければならない。多くの自治体を解体するばかりか、自治体を企業運営し、それをGAFAMやその傘下のコンサルティング会社や経営人材に任せるやり方では、米国企業の利益になる事業はやれても真に地域を振興させることなどできない。

◆問われる「地方から国を変える」闘い

岸田首相は「デジタル田園都市国家構想」について所信表明演説などで「このデジタル化は地方から起こります」と述べている。それは米国の意図が「地方から日本を変える」ものだからだ。

米国が日本を統合する上で障害となるのは、国家としての秩序、それを法的に保障する諸規制である。それを一挙に撤廃することは困難である。そこで地方から風穴を空ける。事実、安倍政権は、「岩盤規制に風穴を空ける」として、「特区」形式で、それを実現しようとした。

総合戦略では、安倍政権の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を「デジタル田園都市国家構想総合戦略」に衣替えするとしているが、それは特区だけでなく全地方で徹底した規制緩和を行うものとなろう。

総合戦略は、地方・地域全般の行政手続きの様々な規制を撤廃するとしており、水道業、建設業などの資格を緩和し、自治体ごとに存在する諸規制を「ローカルルール」として見直すとしている。

こうして地域から諸規制を撤廃し、それをもって国の諸規制をも撤廃していく。こうして日本の国としての秩序を破壊し、統合していくということである。

それを地方から行うのは、それがやり易いと見ているからである。それを岸田首相は「地方にはニーズがあります」と言う。しかし、地方の諸問題は、歴代自民党政権、とりわけ安倍政権時代の地方政策の結果なのであって。それを逆利用して「地方にはニーズがある」などと言うことは許せない妄言だ。

対米追随政治の果てに、地方を米国の管理下に置き、地方から日本を統合一体化するような現政治を何としても変えなければならない。米国とそれに追随する政権が「地方から国を変える」と言うなら、地域住民主体の「地方から国を変える」闘いが切実に問われていると思う。

◆自分の地域第一主義の台頭

市町村などの基礎自治体は、暮らしに直結する地域住民の生活の基本単位だ。その地方自治体が安倍政権の新自由主義改革で衰退市、更には岸田政権の「デジタル田園都市国家構想」によって、自治体解体が進み、自治体民営化によって地方自治・地方住民主権が剥奪されようとする時、地域の主権者である地域住民が主体となって、自分たちの地域を守ろうとする動き、地域第一主義とも言うべき動きが起きるのは必然だ。

維新による大阪市廃止を巡る住民投票で大阪市民がノーを突き付けたように。6月の杉並区長選挙では、民営化に反対しコモンを追求する岸本聡子さんが当選した。12月には尼崎市長選で維新市長の誕生を阻止した、などなど、自分の地域を守る動きが各地で見られるようになった。

 

魚本公博さん

これから益々生活苦は深刻化する。それにもかかわらず、岸田政権は、軍事費増大と反撃能力強化を閣議決定した。そのために27年度までに43兆円を確保するとしており、更により多くの軍事費増大を目論んでいる。その財源には各種増税、後の世代に借金を背負わせる国債などが言われているが、軍事費以外の歳費削減も行われるだろう。社会保障、福祉だけでなく、教育、医療、文化分野の予算も削られる。そして地方交付税も。こうなれば、市町村という基礎自治体の大部分は、やっていけなくなる。

米国とそれに追随する政権によって、地域の破壊は更に進む。こうした中で、命と暮らしを守るために地域を守るための自分の地域第一主義への希求は強まる。それが全国各地に拡大し、自国第一主義に結合していけば、この国は変る。

来年は、4月の統一地方選があり、解散総選挙もありうる。こうした中で既成政党に頼らない地域住民主体の自分の地域方第一主義が大きなうねりになることを大いに期待している。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼魚本公博(うおもと・きみひろ)さん
1948年、大分県別府市生まれ。1966年、関西大学入学。1968年にブントに属し学生運動に参加。ブント分裂後、赤軍派に属し、1970年よど号ハイジャック闘争で朝鮮に渡る。現在「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『一九七〇年 端境期の時代』

『抵抗と絶望の狭間~一九七一年から連合赤軍へ』

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