すこし時間が経ったが、統一地方選・衆参補選の総括をしておきたい。
維新の会と参政党が大躍進。れいわ新選組も躍進。立民党はやや躍進といったところか。自民党は1割近く、公明党も2割ほど議席を減らした。共産党と国民民主党が減り、社民党は半減した。政女党(旧N国)は壊滅した。明らかに政治の流動化が起きているといえよう。
まずはこの結果から分析してみよう。N国党はその名のとおり、NHKの受信料を批判するシングルイッシュー政党として支持を得てきたが、党運営のたび重なるトラブルやガーシー議員の帰国拒否・除名・逮捕令状という流れの中で、支持層から見放されたといえる。
自民と公明の議席減は、そのまま中央政権への批判とみていいだろう。政権批判の受け皿として、維新と参政党の大躍進は右派票。左派の批判票はれいわ新選組へと流れた。
共産党と社民党は、もはや制度疲労ともいうべき退潮である。とくに共産党は19世紀の共産主義組織の旧弊を残したまま、党内闘争の否定(複数反対派幹部の除名)によって、その旧い体質が明らかになった。
シールズ世代が党の中枢において、組織を刷新できるかどうかが共産党の将来にかかっているが、もはやその萌芽すら感じられない。これは実際に古参党員から聴いた話である「若い人が党に参加しない」「運動に参加しても、続かない」「赤旗日曜版(シンパ層向けの版)も減っている」。
社民党も左派市民運動の受け皿のはずだったが、賞味期限の過ぎた福島瑞穂が党首では、将来はないだろう。
国民新党の「ゆ党」的な曖昧さ、リベラルか保守なのかわからない印象は、昔の民社党(同盟)そのものである。この党派も消えゆく運命にあると断言しておきたい。
◆カードとなった世襲批判
ひとつのキーワード、あるいは政治再編のカードともいえるものがある。政治における世襲批判である。
地方選後、自民党は区割り変更の対象のうち、114選挙区で公認候補となる支部長(予定者)を決定した。このうち、父や義父、祖父や義祖父が国会議員、あるいは選挙区内の首長や地方議員だった支部長は、じつに36人に上る(下表)。実に3分の1近くが世襲というありさまなのだ。
この世襲問題が、今後の選挙の争点になるのは必至だ。すでに補選においても、その兆候があらわれた。今回の山口二区である。
ここは早くから、岸信千世がみずからのサイトに「祖父・伯父も偉い政治家だった」とアピールし、政策はないが血筋があるというトンデモ自己紹介が批判を浴びていた。地元では、血筋しかないのだから、そこを大いにアピールしろ! と歓迎されていたものだ。そして民主党政権時代に5期当選の実績がある元法務大臣の平岡秀夫も、そこを強調して世襲批判の流れができた。おおかたの予想どおり、選挙結果は最後まで当落がわからない接戦となった。
衆院山口二区補選の開票結果
岸信千世 61,369票
平岡秀夫 55,601票
朝日新聞が30カ所で出口調査を行ない、計1206人から聴取した結果、43%が「好ましい」、51%が「好ましくない」と答えたという。同選挙区の今回の投票率は、前回から9.2ポイント減の42.41%である。投票率が低いほど力を発揮する、先祖譲りの強固な組織に救われたといえる。もしも50%超えの投票率だったら、勝敗はひっくり返っていただろう。
◆世襲議員批判は、世襲社会批判である
池袋暴走事故のさいに、元官僚で叙勲のある加害者が逮捕されなかったことで、日本には「上級国民」が存在すると批判がひろがった。かつての階級社会から、現在では階層化、貧富の格差となり、それは正規雇用と非正規という厳然たる雇用制度によって分化してきた。
東大生の約60%が世帯年収950万円以上(2018年調査)ということからも、教育原資の違いが学歴差となり、階層の違いを決定づける。閉塞した階層社会のなかで、ガチャ親(親と家庭環境は選べない)という言葉が定着している。
ましてや、地盤(支持者)看板(知名度)カバン(選挙資金)において、圧倒的なアドバンテージのある世襲政治家の存在は、わが国の民主主義を根から腐らせると言っていいだろう。
戦前においても、青雲の志のもとに地方出身の若者が政治に身を投じることはあった。天皇制国家であり、旧公家や士族身分など身分社会にもかかわらず、努力が報われる時代だったからだ。学習も高度にシステム化され、教育原資が大きく格差化された今日、立志伝的な努力はむなしくひびく。社会の代表ともいえる国会議員が世襲では、誰もがやってられないと感じるのではないか。世襲批判こそ、政治の流動化を加速すると指摘しておこう。
▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。