広島県三原市では水源地のど真ん中の本郷町南方にマツダスタジアム約10個分の産業廃棄物処分場(安定型)を湯崎英彦・広島県知事が許可してしまいました。2020年5月から工事が進んでいます。そして2022年秋以降には、群馬や長野など遠方からの産廃が続々と運び込まれています。
この産廃処分場から2023年6月、ついに汚染水が流出し始めてしまいました。産廃処分場の許可取り消しの裁判の原告でもある岡田和樹さんによると、処分場から流れてくる水は泡が消えず悪臭を発しているということです。5月中旬にも泡が発生していたそうですが、それはいったん消えたそうです。しかし、今回は泡と悪臭が同時にするとのことです。この水は、三原市民の8割が水源として利用している沼田川にも最終的には流入します。
◆住民・市議会の猛反対にもかかわらず許可強行 湯崎知事
2018年4月にJAB協同組合による産廃処分場計画が持ち上がった際、地元の三原市と竹原市の住民は猛烈な反対運動を行いました。当然のことです。この産廃処分場は水源地のど真ん中にあります。また、JAB協同組合自体が筆者の地元でもある広島市安佐南区の上安産廃処分場で多くの問題を引き起こしています。最近でも、不適切な盛り土の上に産廃処分場を拡張していたことが発覚しています。
三原市議会でも竹原市議会でも産廃処分場反対の決議が全会一致で可決されるなどしました。それにも関わらず、広島県(知事・湯崎英彦さん)は許可を強行しました。書類が形式上整っていれば、許可をしてしまう。これが広島の激甘な産廃行政です。
◆裁判所もチェック機能果たさず
これに対して、住民側は広島県知事を相手取って産廃処分場の許可取り消しを求める裁判を広島地裁に起こしました。並行して裁判の結果を待っていては、手遅れになる危険があることから、業者を相手取って産廃処分場の工事差し止めをもとめる仮処分も申請しました。
2021年3月に広島地裁はいったん、仮処分を認める決定をしました。これでいったん、工事はストップしました。しかし、業者側が異議を申し立てました。これについて事業者が異議を申し立てました。そして、原発や労働裁判でも「権力忖度」で「有名」な吉岡茂之裁判長が審理を担当。2022年6月30日、吉岡裁判長は「住民が利用する井戸まで有害物質が含まれる水が到達する可能性があると認めるに足りる資料がない」などとして、一転して処分場の建設を認める不当決定を行いました。
住民側は当然、広島高裁に抗告しました。しかし、高裁2023年3月29日、住民側の抗告を却下する不当決定を行いました。
高裁は、
・有害物質が付着・混入して処分場に運び込まれる恐れ
・それらが処分場の外に染み出す恐れ
については認めました。
ところが、処分場と井戸の距離が700mあって、高低差が60mしかないことを理由に、「井戸水に有害物質が入る」恐れがあることは、住民側に立証責任がある、としました。
裁判官は、「水は鉛直にしかしみ込まない」といういわば、常識外の決定をしました。
たとえば、介護現場や子育てを経験していればわかることですが、お年寄りや赤ちゃんが尿を漏らした場合、そこだけではなくて、オムツに広範囲に尿が広がります。そんな常識さえ裁判所には通じませんでした。
◆井戸水どころか川に流出!
しかし、県がいくら「処分場は安全だ」と言い張ろうが、吉岡裁判長が「危険と認めるに足りる資料がない」と権力に忖度しようが、汚染水は原告が懸念していた地下経由での井戸水汚染どころか、川にまで直接流出しています。業者側の計画では、排水は調整池を経由するから大丈夫、としていました。ところが、全然大丈夫ではなかったのです。
県や裁判長の屁理屈は現実の前に何の役にも立たないのです。こうなってしまっては遅いのです。
だからこそ、環境問題では「環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、規制措置を行える」といういわゆる予防原則(EUが主に提案)ないし予防的取り組み(1992年のリオ宣言に盛り込まれ、日米はこちらを使うことが多い)が確立しています。
7月4日に許可取り消しを求める裁判の判決が広島地裁で言い渡されます。すでに口頭弁論は終わって結審してしまっている状態です。しかし、判決がどうあれ、知事は直ちに産業廃棄物の搬入を止めさせるべきだし、業者もこうなった以上は搬入を控えるべきでしょう。
◆湯崎知事も吉岡裁判長も「切腹」ものだ
それにしても、湯崎知事が許可し、吉岡茂之裁判長が追認した産業廃棄物処分場がご覧の有様になったのです。お二人とも責任は重大です。本来であれば、お二人とも辞職に匹敵するのではないでしょうか?知事はご自身の行政行為で、吉岡裁判長はご自身の司法判断で重大な結果を招いたのです。それも、多くの市民・県民の疑問を切り捨てた結果起きたことです。
もちろん、今回の本郷産廃処分場を実務上、許可したのは、筆者も県庁職員時代の最後に勤務していた東部厚生環境事務所です。しかし、広島県の産廃規制は全国でも最悪レベルに緩いまま放置してきたのは湯崎知事です。広島県には他の自治体で制定されているような水道水源保護条例なり環境配慮条例なりがありません。そういう中では現場の広島県庁職員も、書類などの形式さえ整っていれば許可せざるを得ない状況もあります。そうした状況に職員を置いてきた湯崎知事の責任は誠に重い。
湯崎知事については、次期県知事選挙に恥ずかしげもなく立候補された際には広島県民は彼を打倒すべきです。
吉岡裁判長についても、原発問題や労働事件でも権力への忖度のような判決ばかりです。万が一、この人が最高裁判所裁判官になられた場合、国民審査で真っ先に×をつけるべき対象であることは間違いないのではないでしょうか?
◎原告の一人の岡田和樹さんのFacebook
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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