8月29日、広島県の平川理恵教育長に対して、県に「NPO法人パンゲア」を巡る官製談合で生じた損失2600万円、外部調査にかかった弁護士費用3000万円、2021年度に教育長が使ったタクシー代100万円の合計5700万円を返すよう住民が求めて提訴した裁判の第一回口頭弁論が広島地方裁判所で行われました。

平川教育長については2022年8月、「文春砲」で教育長が個人的に親しい京都のNPO法人「パンゲア」が受注した事業(合計2600万円)における官製談合疑惑が暴露されました。その後、県教委が雇った弁護士による外部調査で、地方自治法違反、官製談合防止法違反が認定されました。ところが、この弁護士による調査でも3000万円という常識外の支出が行われ、批判を浴びました。さらに、平川教育長は、2021年度だけで100万円、2018年度からの4年間では合計700万円のタクシー代を使用していました。

今回の裁判ではパンゲアとの官製談合事件で生じた被害2645万8685円、弁護士費用3000万円、そして2021年度分のタクシー代100万円が対象です。

平川教育長は2023年2月、課長級職員を戒告処分とするとともに、自身は給料自主返納30%を2か月しただけで、幕引きを図っています。任命した湯崎英彦県知事も平川教育長を罷免するなどの形で責任を果たそうとせず、議会もまた、追及を止めてしまっています。

◆現場は努力しているのに、教育長は…… 高校教師でもある原告の怒りの陳述

この日の裁判では、原告を代表して県立高校の元教諭で現在も非常勤の教員として働いている望月照己さん(下段写真 左から二人目)が意見陳述を行いました。

望月さんは「文春の記事を見て驚くとともに唖然とした」と回想。

「非常勤講師も含めたすべての教職員は年二回、各学校で広島県教育関係職員倫理要綱に基づき研修を受け、法令遵守や公務員倫理の確立と職務の執行に対する県民の疑惑や不信を招くような行為の防止を図ること」「公務に対する県民の信頼を確保すること」を口が酸っぱくなるほど言われ続けているから、です。

そして、「平川教育長は親密な業者であるパンゲアの関係者を教育行政に算入させるため会食をしたり、業務委託契約を結んだりしているため、明らかにこの倫理要綱に違反している」と指摘しました。

学校現場では、修学旅行の業者を決める際は複数の業者から企画案や見積もりなどの資料提供を受けて公平に検討して決め、決して飲食などともにしないように気を付けていますし、鉛筆一本でも無駄にしないよう毎日努力しているのです。

それなのに、平川教育長はパンゲアとの契約代金の妥当性を検証するためとして東京の弁護士に3000万円を支払う。

そしてタクシー代も県民感覚からずれています。

望月さんは「教育長は自分が使ったお金が税金だということが分かっているのか?」と指弾。

「わたしたち教職員がこのような無駄遣いをすると即、懲戒免職。にもかかわらず、平川教育長は、課長級職員に戒告処分をしながら、自分は何の処分も受けず、自らの給料2か月分を30%返納するだけで済ませている」と怒りをあらわにしました。

そして、物価高の中で節約している中で、この問題を黙ってみているわけにはいかない、住民監査請求も起こしたが却下された、そこで住民訴訟に踏み切ったという事情を理解の上、裁判長には(平川教育長への)厳正な判断をお願いしたい、と結びました。

◆お友達のお金儲けばかり、何の責任も取らぬ教育長

口頭弁論で原告代理人の山田延廣弁護士(写真左端)は、「この事件を放置してはいけない。県の行政のためではなく友人の利益のための事業だった。また、平川教育長は赤木かん子さんに図書館のリニューアルを依頼したが、新たに購入した図書の1割が赤木さんの著書だった。お友達のお金儲けのためにやっている」と批判。

そして、「教育長は何の責任もとっていない。教育委員会内では教育長にネガティブな情報を上げないことになっていた。そういう風に職員をしてしまったのも教育長の平素の対応に問題があるからだ。」と指弾。

また、県議会議長も「平川氏を止めさせると知事が傷つく(から調査を止める)」という始末だ、と議会の腐敗も指摘しました。

そして「「自分でやったことは自分で責任を取りなさい」「自分のことばかりではなくみんなのことも考えなさい」などと学校では教育しているが、教育長がこれでは先生や生徒たちに示しがつかない」と嘆きました。

◆本来は被害者なのに教育長を庇う県

今回は、広島県が本当は教育長に金を勝手に使われた被害者であるにもかかわらず、県が教育長を庇う立場で弁護士を送り込んでいます(補助参加)。

教育長と利益が相反する以上、これ自体、常識的にはおかしな話ですが、現行では認められているのでその枠で住民も闘うしかありません。

その県は、
1,お金を支出したのは教育長ではなく、戒告処分を受けた課長級職員だから教育長にお金を返す義務はない
2,そもそも、お金を支出した人も特定されていない。
と開き直り、住民の請求を棄却するよう求めています。

これに対して山田弁護士は「平川教育長の名前でパンゲアと契約している。契約があって支出がある。平川教育長に責任がないということはありえない。また、お金を支出した人が特定されないというのは、そもそも、県がその戒告処分を受けた会計担当職員の氏名等を公表しないからだ。県は横綱相撲を取ってほしい」と苦言を呈しました。

◆検察も重い腰を上げ、一年生県議も動き出す

さて、原告の一人の今谷賢二さんによると、検察もようやく、最近動きを見せているそうです。

すなわち、今谷さんらによる刑事での告発状を受理するための話し合いを近日中に行いたいと電話もあったそうです。

また、県議会では日本共産党以外の自民、公明、立憲などの知事与党会派は教育長の疑惑を葬り去りたかったそうですが、当選一回の保守系県議が文教委員会で言葉を選びつつも、赤木かん子さんによる図書館のリニューアル問題や官製談合疑惑について質問をする場面もあるそうです。筆者も有権者との対話で実感していますが、自民党代議士や市議を熱心に支持されているような方でも「平川は怪しからん」怒っている方が多いです。そういう有権者の突き上げがあるのではないか?と今谷さんは指摘します。

◆「平川独裁」は終焉の兆しも厳しい教育行政再建の道

また、県教委内部でも、赤木かん子さんは今年の事業からは外されており、正式な形ではないが、「平川独裁」は終焉に向かっているようです。

ただ一方で、教育委員会幹部に、財務系の職員が派遣されています。この方々は、会計処理は得意でも、教育のことは全く分かっていません。そもそも、今の県教育行政の問題は、現場の先生や子どもをバックアップするロジスティクスをしっかりやるべき教育委員会が、教育の中身を差配し、現場を振り回してきたことにあります。その是正も含めた教育行政の再建の道はなお険しいと筆者は感じています。しかし、まずは第一歩です。

県教委や市教委のパソコン納入を巡る談合事件では、公取が業者にお金を県・市に返すよう命じています。これは別の住民グループの奮闘が背景にあります。この日の裁判報告集会にはその住民グループの方もお見えになって激励をいただきました。

この民事裁判や検察への突き上げ、それ以外の政治闘争も含めて、広島の教育を立て直すことをあきらめてはいけん。その決意を強くしました。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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