私は、これまで数回に渡る本連載への投稿で地方問題を取り上げ、岸田政権の地方政策は、地方自治を解体し、地方地域を米国に差し出し日米統合を進めるものであること、これに対して「生活の砦」である地域を守る地域第一主義が台頭するのは必然であり、この力で「日本を変える」ことが問われていることを述べて来た。

こうした中、兵庫県三田(さんだ)市で「三田市長選の衝撃」と言われる出来事が起きた。それはまさに「地域から国を変える」動きとしてある。今回は、このことをもって、日米統合一体化に対し、地域第一主義で闘う重要性について、意見を述べさせて頂く。

◆影の立役者、泉房穂

「三田市長選の衝撃」というのは、7月23日開票の兵庫県三田市の市長選で、元銀行員でまったく無名であった田村克也氏(57歳)が自民、公明、立憲、国民の推薦を受け3選を目指して圧勝すると思われていた現職の森哲男氏(71歳)を破って当選したことである。

選挙の争点は三田市民病院を隣の神戸市の済々会兵庫病院と再編統合問題であり、これに反対する市民団体の公募に田村氏が応募して立候補し、氏は病院統合の白紙撤回を掲げて選挙戦を闘い、それが支持され当選した。

その影の立役者は、明石市の前市長、泉房穂氏である。

三田市は神戸市の北辺にあり、明石市の隣に位置する。その明石市で市民に寄り添う市政を実施し絶大な人気を誇る泉氏が駆けつけ「明石で出来たことは三田でも出来る。市民が主人公」と訴えた。

とりわけ効果絶大だったのが泉氏と田村氏が並んだ選挙ポスター。それを配布すると市民が続々と受け取ったそうである。そればかりか、選挙事務所には多くの市民が駆けつけ、1万5000枚のポスターも2日間で貼り終えたという。

大手マスコミの報道はなかったが、SNSメディアで大きな話題に。SAMEJIMATIMESなどは、「泉流の脱政党の『市民の勝利』」と解説していた。

明石市も他の例に漏れず「人口減」「税収赤字」「駅前の衰退」などの問題を抱えていたが、

泉氏は「弱者に寄り添う政治」「市民のための政治」を掲げ、そのための具体策で「5つの無償化」などを実行した結果、明石市は、中核都市人口増加率No.1、全国戻りたい街ランキングNo.1になった。

泉さんは、4月に任期満了で市長を辞めたが、「明石から日本を変える」と次を見据えている。2025年に兵庫県知事選、神戸市長選があり、この年の参院選が衆院とのダブル選挙になると予想し、それまで全国の自治体にアドバイスしながら支持者を広げ、「25年決戦」で勝利することを考えていると言う。

まさに、「三田市長選の衝撃」は、その第一歩となる衝撃的な出来事であった。

◆統合の行き着く先

この選挙の争点であった病院統合、こうした統合は全国各地で行われている。それは効率第一の新自由主義改革である。

それを大規模にやっているのが維新である。維新は病院の統合だけでなく、小中学校の統合、市大と府大の統合、市と府の水道事業の統合、文化施設の統合などを行っている。

維新の統合政策が問題なのは、こうして統合したものを民営化するという所にある。維新はすでに関空業務の民営化、市営地下鉄の民営化を実施しており、吉村知事は熱心な水道民営化論者である。

民営化が問題なのは、自治体がもつ各種の自治体業務の運営権を民間業者に譲渡するコンセッション方式などを考案したのは米国企業であり、結局、この民営化は、自治体を米国企業に譲渡し米国に売り渡すものになるからである。

それは大阪IR(カジノ)の例を見ても明らかだ。大阪IRは、米国のカジノ運営会社「MGMリゾーツ」がオリックスなどが出資する「IR株式会社」を前面に立てて運営する。

カジノは万博、観光インバウンドと共に維新が大阪の成長戦略とする「エンターテインメント都市 ”OSAKA”」の中に位置づけられている。それは大阪のラスベガス化であり、そこに大阪の真の発展はない。

維新は「改革」政党として人気を得ているが、その本質は大阪を米国企業に運営させるということである。勿論、それを露骨には出さない。IRの例を見ても分かるように表向きは「日本」の企業である。しかし、それを裏で繰るのは米国企業、米国であり、それは大阪のさらなる新自由主義化であり米国化だということをしっかりと見ておかなければならない。

泉さんは、維新のような「改革」ではなく「弱者に寄り添う」「市民のための」改革を目指している。そういう改革こそ人々が望む本当の改革だと思う。

◆統合、その最大の問題は日米統合にある

三田市長選での争点が病院統合であったように、今、統合は時代のトレンドの様相を呈している。しかし様々な統合が言われる中で、最大の問題は、日米統合、すなわち米国の下に日本を完全に組み込む日米統合一体化である。

米国は今、対中新冷戦を打ち出し、日本をその最前線にするために日米統合を躍起になって進めている。

前回の投稿「日米経済の統合、その異常なまでの進展」で述べたように、日米統合は、今、現実に軍事面、経済面で異常なまでの速さと深さで進んでいる。そして、地方地域も米国の下に統合されようとしている。

その手段は、IT・デジタルである。デジタル化において決定的で生命線とされるのはデータである。それ故、データ主権が言われる。しかし、日本はこれを自ら放棄している。

デジタル庁もGAFAMのプラットフォームを使い、地方では、米国IT大手のセンチュリアが手がける「全国共通プラットフォーム」が使われる。こうなれば、地方地域のデータは米国に掌握される。

その上で、地方地域を米国企業が直接、掌握管理することが進んでいる。

以前の投稿で明らかにしたことだが、総務省がIT人材を民間の人材派遣会社と協力して行う方針を打ち出したこととか、統一地方選の低調さをもって「地方議会の活性化」として関連会社員、公務員の議員兼務を禁じている条項をなくして兼務を容認する案や「首長のいない自治体の容認までが取り沙汰されているのも、そのための布石だと見ることが出来る。

すなわち日本の地方自治を解体し地方地域を米国が直接、掌握管理する。こうして地方地域を米国の下に統合する。こうなれば地方から日本は変えられてしまう。

◆地方から日本を変える戦いとして

泉さんは「明石から日本を変える」と言う。それは「地方から日本を変える」ということであり、米国と日本政府による「地方から国を変える」戦略に真っ向から対決するものになるし、そうならなければならないと思う。

地域の衰退は歯止めが掛からない状況である。産業は衰退し少子高齢化が進み、基礎自治体である市町村の中でも弱小自治体は、存亡の危機に直面している。その上、岸田政権による軍事費増大政策のための増税、物価高騰が国民生活を直撃する中で「生活の砦」である地域を守る志向は切実になっており、それは全国的なものになっている。

今や、それは左右のイデオロギーの違いや党派の違いを乗り越えた、地域を自己のアイデンティティとして、これを守ろうという地域第一主義の要求になっている。

地域を守る志向、地域第一主義は、米国による日米統合一体化に反対し日本を守ろうとする意識と結びつくし、そうなってこそ、より広範で力強いものになる。

泉さんが、日米統合一体化に反対しているかどうかは分からない。しかし市民主体、弱者に寄り添う政治を目指せば、必然的に、そうならずにはおかないだろう。

泉さんが想定する「25年決戦」の勝利を大いに期待している。

そのためには、地域の力を如何に結集するかである。私が、これまで地域第一主義として評価してきた、「れいわ」や「共同性の復活」を訴える杉並区の岸本聡子さんの運動、反維新で「住民自治を取り戻す」ことを掲げる「アップデートおおさか」の谷口真由美さん、北野妙子さんのなどとの連携、全国各地で無数に起きている地域を守る運動との連携も当然視野に入っているだろう。

 

魚本公博さん

そればかりではない。維新の馬場代表が「今後、自民が『改革派』と『守旧派』に分裂すれば改革派と合流する」と述べているが、そうであれば、この「守旧派」とも手を組むべきではないだろうか。

地域で生き残りを掛けて地域振興を必死で行っている人たちは多い。今、地方銀行が中心になって地域を振興させる地域商社が注目されているが、こうした動きなどとも連携し地域の力「地元力」を総結集していけば、それこそ日本を変える大きな政治勢力になると思う。

日米統合一体化を阻止し、米中新冷戦、対中対決戦の最前線としての日本の代理戦争国家化を阻止することが何よりも問われている今、「三田市長選の衝撃」を現出した泉房穂氏の運動が発展することを願っている。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼魚本公博(うおもと・きみひろ)さん
1948年、大分県別府市生まれ。1966年、関西大学入学。1968年にブントに属し学生運動に参加。ブント分裂後、赤軍派に属し、1970年よど号ハイジャック闘争で朝鮮に渡る。現在「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『一九七〇年 端境期の時代』

『抵抗と絶望の狭間~一九七一年から連合赤軍へ』

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