広島市は9月21日、開会中の広島市議会・9月定例会の一般質問に答える形で「米国政府の原爆投下責任を棚上げする」ことを表明しました。

広島市の松井市長は、G7広島サミット終了後間もない2023年6月29日、議会にかけることもなく、米国政府(ジョー・バイデン大統領、エマニュエル駐日大使)との間で平和記念公園とパールハーバーの姉妹協定を締結してしまいました。このことへの中村孝江議員(安佐南区・日本共産党)による疑問に担当局長が答えたものです。

「原爆投下に関わる米国の責任の議論を現時点で棚上げし、まずは核兵器の使用を二度と繰り返してはならないという市民社会の機運醸成を図っていくために締結した」というのが市の答弁の要旨です。

◆「核使用を繰り返してはならない」どころか「核兵器禁止」が市民社会の趨勢!

「市民社会の機運醸成を図っていく」というのがいかにももっともらしい答弁です。しかし、そもそも、世界の市民社会の大勢は、核兵器の使用を繰り返さないどころか、核兵器の禁止こそ人類が進むべき唯一の道であるという認識の核兵器禁止条約(2017年7月7日採択、2021年1月22日発効)に賛同しているのです。NGOが働きかけてできた条約と言っても過言ではないし、日本など核の傘にある国の多くの市民、自治体なども同条約に賛成しています。そのことを背景に、92か国が同条約に既に署名し、68か国が批准しています。

また、先方の地元自治体のホノルル市は、平和首長会議に参加しています。平和都市首長会議は核兵器禁止条約の推進を求める署名活動を実施しています。 

「まずは核兵器の使用を二度と繰り返してはならないという市民社会の機運醸成を図っていくために締結した」とは何を寝ぼけたことを広島市は言っているのでしょうか?

問題なのは自治体を含む市民社会ではなく、核兵器を使ったことへの反省のない米国政府であり、また核兵器による威嚇を放棄しない米国以外も含む核保有国の為政者です。そして、その反省のない米国政府と姉妹協定を広島市が締結してしまったことが問題なのです。

◆G7広島サミット契機にアメリカ忖度進む

しかし、広島市は決して寝ぼけているわけではないでしょう。むしろ、世界の趨勢は認識しつつも、G7を契機にアメリカのバイデン大統領に忖度していると言わざるを得ません。

まず、広島市では「はだしのゲン」が小学校の教材から、また、第五福竜丸/ビキニ水爆実験が中学校の教材から削除されました。これらについては、通常あるべき市教委内部での議論がすっ飛ばされていることが明らかになっています。はだしのゲンの削除については、一定程度マスコミも批判をしています。しかし、第五福竜丸/ビキニ水爆実験の削除も同様に大問題です。第五福竜丸に触れないで反核・平和について学ぼうとするということは、例えば、徳川家康と彼がやったことを知らないで、江戸時代の歴史を学ぼうとするような間が抜けた話です。また、高校の教材でも、日米の和解を重視するような内容に改変されました。全体としてアメリカに忖度したものと言わざるを得ない。

この問題については様々な論客が様々な検証をしていますが、正直、そんなに難しい話ではないと思います。大筋としては「G7で広島にお見えになるバイデン大統領のお目を汚すようなものは、なくしておこう」という忖度ではないでしょうか?そうでないと、様々な内部での議論をすっ飛ばしての教材の改変ということはあり得ません。

その延長に、「ロシアの核威嚇は怪しからんけど、アメリカなど西側は核を防衛のために持って良いですよ。」という趣旨のG7広島サミットでの「広島ビジョン」があるのではないでしょうか?

さらに、その延長線上に、6月29日の松井市長とエマニュエル駐日米国大使による平和記念公園=広島市とパールハーバー=米国政府の姉妹協定があるわけです。

世界で最初の核兵器使用である米国政府による原爆投下は免責しておかないと、広島ビジョンも正当化できない。そう、岸田総理ら日本政府は考えているでしょう。そして、今までは建前は核兵器を絶対に許さない、という姿勢だった広島市にも日本政府の言うことを聞かせる必要があったわけです。

◆広島市による「米国責任」棚上げで露中朝印パなども図に乗る

だが、世界最初の核兵器の被害者・広島市が米国政府による原爆投下責任を棚上げしてしまったら、ロシアや中国、朝鮮、インド、パキスタン、イスラエルの核軍拡や核使用へのハードルが下がることになるのではないでしょうか?

「実際に使用したアメリカでさえ棚上げしてもらっている。俺たちが威嚇するくらい、何が悪い」とプーチン大統領や習近平国家主席や金正恩総書記やモディ首相やネタニヤフ首相が開き直ったら、広島市はどう責任を取れるのでしょうか?

日清戦争から広島は大日本帝国陸軍の軍都として侵略の拠点となりました。しかし、原爆投下による惨禍、そして日本国憲法の制定、平和記念都市建設法制定のための住民投票を経て、広島は平和都市・ヒロシマとなったはずだった。アジアへの加害責任の反省は不十分で栗原貞子らに批判はされたし、原発製造企業などに支えられた発展であったのも間違いない。それでも、平和都市であったのは間違いない。しかし、G7広島サミットを経て、アメリカの核戦略にお墨付きを与えるHIROSIMAに成り下がろうとしています。さらには、そのことで、他の核保有国や核を保有しようとする国の為政者も図に乗らせかねない有様です。

◆元をたどれば姉妹協定、そしてG7サミットがまずかった

やはり、広島市と米国政府が直接組む平和記念公園とパールハーバーの「姉妹協定」はまずかったと言わざるを得ません(写真、広島市と米国政府の姉妹協定を批判する筆者発行の「広島瀬戸内新聞7月号」)。そして、元をたどれば、5月のG7広島サミットを契機に、こういうことになってしまったのです。

岸田総理はある意味、安倍晋三さん以上に名誉白人志向ともいえます。安倍晋三さんは、政治的には権威主義的なイメージが強い反面、例えばイランや中国などとの関係も意外と重視していました。しかし、岸田総理は、リベラルなイメージとは裏腹に、いわば旧白人帝国主義国家におだてられていい気になっているだけではないか?

もっと踏み込んでいえば、民主主義の名のもとに、日本に核兵器を使ったアメリカに、安倍さん以上にべったりではないのか?

そう思えば、G7広島サミットの結末は見えていたと言わざるを得ません。

 

◆サミットに評価・期待してしまった自民から共産 問われる既成政党の政治センス 
 軍都・廣島から平和都市・ヒロシマへ。そしてサミットを経て、米国忖度のHIROSHIMAへ!

所詮は旧白人帝国主義国家(1945年当時、まだ事実上英国植民地だったカナダは別として)の集まりに過ぎないのがG7ではないでしょうか?それを開いてしまった時点で、広島の歴史的な誤りは決定づけられました。

2023年4月執行の広島県議選では、自民から共産に至る、全ての既成政党の県議が、マスコミや市民団体のアンケートに対して「サミット(開催・誘致)」を「評価・期待」すると言う趣旨の回答をしてしまいました。そして、筆者・さとうしゅういちのみが、あの選挙の候補者では、ほぼ唯一、はっきりとサミット誘致を評価せず、期待せず、のスタンスを掲げていました(写真、「広島瀬戸内新聞」6月号)。(なお、今回の質問をされた日本共産党の中村市議は、サミットに対しては「政治ショーに過ぎない」などと批判的なスタンスの回答をされていました。党内でも見解が分かれているところです。)

 

共産党県議はさすがに広島ビジョン発表の後は、批判に転じましたが、立憲民主党に至っては泉さんが原水爆禁止世界大会へのメッセージでも広島ビジョンを賛美する有様です。広島サミットを評価・期待してしまった、自民から共産に至るすべての既成政党系県議におかれては猛省を求めます。

その上で、きちんとアメリカ政府には謝罪すべきは謝罪していただくよう動くべきです。

今回、広島市の松井市長ご自身ではなく、局長に答弁させたところに、市長の姑息さを感じます。おそらくは、自身が前面に出ずに、部下に答弁をさせるという、「観測気球」的な部分もあるのでしょう。いまこそ、きちんと声を上げて、松井市長に軌道修正を迫りたいものです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年10月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年秋号