平和都市・広島の玄関口の広島駅。北側の新幹線口側の地区は東区に属し、二葉の里地区と呼ばれ、2018年に広島テレビ本社や広島県警広島東警察署が中区方面から移転するなど、再開発が先行して進みました。
他方で、広島駅南口では2020年3月31日で広島駅ビルASSEが閉館。2025年度完成を目指して新駅ビルが完成予定です。広島電鉄が直接JR広島駅に乗り入れる構造になり、大変便利になります。しかし、この広島駅周辺の再開発事業のうち、「このまま湯崎英彦・広島県知事と松井一実・広島市長による独裁のような形で進めていいのか?」という事業があります。
一つは、広島駅南側のエールエールA館に広島市中央図書館を移転させる事業です。これらの事業に関する補正予算や(不動産取得のための)債務負担行為が、現在開会中の広島県議会と広島市議会の定例会でそれぞれ審議されています。
もう一つは、広島県立広島病院の老朽化を機会に湯崎知事が広島駅北口(新幹線口)に計画している巨大病院です。
議会では知事や市長の与党が圧倒的に多いことから、知事や市長が言うとおりのままの案でこれらの事業が進むことは確実です。今回は、「中央図書館」について取り上げます。
◆本当に駅前で良かったのか? 新中央図書館
広島駅南口のエールエールA館(1999年竣工)。第三セクターの広島駅南口開発株式会社(以下、南口開発)が所有し、賃料で運営しています。
このA館には主に福屋デパートが入っています。しかし、営業不振からテナントが撤退。2023年8月31日限りで6-9階のテナントが撤退しています。
テナントが消えれば南口開発の経営は悪化します。そのテナントが消えた空間を市が買い取って老朽化していた中区の中央公園にある中央図書館を入れるというものです。
人を駅前に集め「にぎわい」を創出する。これが、松井市長の口癖です。2022年12月に事実上A館移転を決めた時、市側は「にぎわいづくりだけが目的ではない」と答弁していますが、「にぎわづくり」が重点だということです。
しかし、そもそも、「図書館」と「にぎわい」というのは相反するものです。広島市立の図書館はほかに、各区民文化センターとセットで中区、東区、南区、西区、安佐南区、安佐北区、安芸区、佐伯区に存在します。それらの図書館はもちろん、交通の便は悪くはないが、よくよく注意すると、例えば地域の大型スーパーなどからは少し離れた場所にあります。
それはそうです。本を読んで落ち着いて勉強するのが図書館なのだから。新中央図書館が予定されるエールエール館の周辺には、カラオケボックスや接待を伴う飲食店など(それ自体が悪いとは言いませんが)図書館とは相性が悪い施設が多くあります。
驚くべきことに、松井市長は、当初は、子ども図書館までセットでこのにぎやか、裏を返せば騒がしい場所に移そうとしていたのです。幸い、市民の猛反対で子ども図書館の移転は阻止されました。
◆コストの安さだけで測って良いのか? 文化行政
松井市長は、現在地で図書館を建て替えるよりは、エールエールA館に移動した方が、コストが安い、と主張しておられました。しかし、そもそも、文化行政というものをコストで測りすぎるのはおかしな話です。それこそ、文楽への補助金を削ろうとした大阪維新の橋下徹知事(当時)と同じ発想です。
そもそも、広島市の中央図書館を名乗る以上はむしろ平和行政とセットであるべきだ。平和公園に比較的近い現在地がふさわしいのではないでしょうか?
広島市が行った市民へのアンケート調査でも、現在地での建て替えが多数を占めました。また広島市議会でも2022年度予算の市議会での議決にあたっては、「エールエールA館への移転ありきではない」ことを求める付帯決議が採択されるなどしています。
にもかかわらず、市長は、エールエールA館への移転へ突き進み、既成事実を積み重ねています。
◆広島の〈森友〉疑惑?! 市による買取り価格が9か月で暴騰
さらに、松井市長が主張される唯一といってもいい利点であるコストの面でも、雲行きが怪しくなってきました
市長が2022年12月の時点で発表された案では、図書館移転のためのA館フロアの買取り費用は57億円とのことでした。これは、南口開発側の不動産鑑定人による価格でした。ところが、2023年9月議会に提案された補正予算案・債務負担行為案によると、買取り価格は約72億円。約25%も跳ね上がっていました。これは広島市側の鑑定結果が72億円だったからというものです。売り手の南口開発が高値を吹っかけ、買い手の広島市が値引きを交渉するというのが常識です。ところがそうはなっていない。
南口開発は、そもそも市役所の「えらい人」たちの再就職先です。市役所の先輩たちが苦しい時に市が忖度して高めの買取り価格で助け舟を出した。「広島の森友事件」と思われても仕方がない状況です。
ちなみに、現在地で図書館を建て替えた際のコストは、市によると113.5億円。一方で、A館移転の場合は不動産取得費だけで72億円かかります。
ちなみに、こども図書館移転問題を考える市民の会という市民団体による以下のような分析もありますのでご紹介します。
https://twitter.com/kodomoHiroshima/status/1702894238483288082
上記によると、A館への移転だと総コストは2023年9月の市長案によると121.5億円。現在地建て替えの113.5億円のほうが有利になっています。維持費もA館移転は1.2億円/年で、建替は1億円/年とのことです。耐用年数もA館への移転では40年ですが、建替すれば60年持ちます。
筆者は、文化行政についてコストを測りすぎることは問題だという立場ですが、コストの面でも市長が突き進む道は有利とはいえません。
◆市長が大好きな「にぎわい」、広島市民・県民に元気があってこそ
図書館の問題でもそうですが、松井市長は、口を開けば「にぎわいづくり」とおっしゃいます。そのために、国の支援も得ながら、駅前周辺を含む大型事業を進めておられます。
◎参考 https://www.chugoku-np.co.jp/stp/Edit/saikaihatsu-map/
上記は、民間のものもおおくふくまれますが、一方でそれに伴い道路の整備などが必要なケースも出ています。いずれにしても、広島の街の在り方をどうするか、という観点が抜けているように思えるのです。
いまや、かつては再開発だったが、いまとなっては既存のビルであるエールエールA館でさえも苦戦しているのです。あるいは、比較的新しいそごう新館も閉館するという有様です。
こうした、苦戦の背景には、広島市民はもちろん、福山市や三次市、呉市など県内の他の街から広島に来る人たちの購買力低下が挙げられます。そして、深刻な人口流出があります。
そういう中で、大きな施設を作っても、にぎわいを本当に取り戻せるのでしょうか? 疑わしいものがあります。まずは、県とも連携して、広島市民・県民の暮らしに元気を取り戻すことが大事ではないでしょうか?
◆広島の今後を左右する大型箱物は住民投票も
今後も、箱物の老朽化で、今回の中央図書館や、県が主導する巨大病院のような案件は出てきます。広島の街の在り方を今後、大きく左右します。広島市長や知事の任期は4年ですが、大型箱物は今後何十年と広島に存在します。
そうであるならば、市民的・県民的な議論を経たうえで、設置場所などを住民投票で決める。さらに、設計なども例えば、市民・県民による討論会を経る。こうしたことが必要ではないでしょうか?
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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