本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◆原発の運転延長は重大事故を準備する行為

「脱炭素電源法案」による原発の運転期間再延長を含めた「利活用推進の趣旨」は「安定電源の確保」が理由だという。そうすると、これから起きることは、原発をなるべく止めずに使う方式を導入することになる。

最初に行われるのは、定期検査期間の短縮と定期検査間の延長だ。まず、定期検査項目を絞り込み、現在90日程度で行っている検査を30日未満で終わらせる。さらに定期検査の間隔も、現在13カ月程度のところ、最長24カ月まで延ばす計画がある。これらは経産省が進める原発の稼働率向上対策としてすでに検討されていることだ。[*1]

[*1]定期検査の間隔については法令上、3つの区分(13カ月以内、18カ月以内、24カ月以内)が規定されている。現在は全部13ヵ月以内と区分されているが、これを変更して24カ月運転を目指そうとしている。

その次には、出力調整も視野に入る。現在運転している原発は、フル出力運転をすることが最も経済的とされている。しかしこれは、運転期間が最長60年に限られているからで、これが事実上無制限(上限が定められていない以上、無制限というしかない)となれば、電気出力を電力需要に合わせて変動させても経済性を確保できることになる。

加圧水型軽水炉は、最大50%までの出力調整運転が可能とされており、沸騰水型軽水炉でも75%まで下げられるとされる。

これに加えて所内単独運転[*2]が可能な原発ならば、事実上ゼロ出力から100%まで可変可能だ。

[*2]所内単独運転とは、原発が送電線のトラブルなどで送電線と切り離されたときに、原子炉を停止せずに原発の冷却ポンプなどの構内負荷にだけ電気を供給する状態を指す。発電に使わない蒸気はタービンバイパスを通じて復水器に送られる。所内単独運転は非常時の運転であり、タービン建屋温度上昇など問題が多い。運転制限時間は15分程度とされている。また、原発の所内単独運転では、負荷は通常の定格出力の5~10%である。

そうまでして原発を活用する場合、想定されるのは過酷事故の発生確率の上昇だ。

福島第一原発事故の教訓など、法律の条文の飾り程度にしか考えていない原発漬けの議員と官僚によって、再び過酷事故がどこかで起きる。

西日本の原発で起きれば、日本列島全域が「風下地帯」になるだろう。福島第一原発事故では75%の放射能は海に出て陸域の汚染は25%の放射能によるものだったが、西日本の原発は、偏西風が日本列島を縦断している時に過酷事故が発生したら、100%近くの放射能が日本中に降り注ぐことにもなりかねない。そうなってから悔やんでも遅いことだけは誰もが理解できることだ。

◆原発推進で日本は滅びる

多くの裁判では原発事故に対する国および東電の責任は、明確にされていない。

国が行ってきた原発推進に対しては、最高裁判所も責任を認めようとしなかった。地裁ではいくつもの優れた判決が出されているときに、国の方針に従うだけの最高裁の姿勢と呼応して、裁判で差し止められた原発の再稼働を促進しようとするのが、この国の行政だ。

電気事業法改訂の一つに司法が差し止めなどの決定を行った際に、上級審で取り消された場合は、その決定や判決がなかったものとして、停止していた期間を原発の運転期間の延長に組み込めるとする規定が盛り込まれている。これは司法権に対する介入であり許されない。

電力の安定供給を実現するのに必要なのは、いまある火力設備を更新し、無駄な廃熱を出さないシステムに変換することでエネルギーを有効活用することだ。地域温水供給で熱源としての利用を可能にすれば、火力の出力を3分の2に減らしても、いまより電力などのエネルギー回収効率は高まる。特に大都市はこうしたシステムと蓄電システムとの組み合わせで自然エネルギーの不安定な分を補うこともできる。

また、主に廃熱として捨てられる「未利用エネルギー」(下水道廃熱や工場廃
熱や冷暖房廃熱)を回収すれば、都市廃熱による環境悪化(ヒートアイランドやそれに起因する都市型豪雨災害)を低減できるし、しなければならない。(完)

◎原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点[全4回]
〈1〉福島の反省も教訓も存在しない
〈2〉原発は電力の安定供給に役立たない
〈3〉原子力産業振興法と化した原子力基本法
〈4〉原発推進で日本は滅びる

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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龍一郎揮毫