四国電力伊方原発3号機の運転差し止めを求めて、筆者自身も含む広島県民を中心とした住民が2016年3月11日に広島地裁に提訴した伊方原発広島裁判は大詰めを迎えています。
いま、地元を選挙区とする岸田総理がグリーントランスフォーメーション、脱炭素と自称して、原発推進に舵を切っています。3.11のフクシマ以降、民主党政権後半から安倍政権にかけて曲がりなりにも継承されていた脱原発ないし(自民党のマニフェストにも小さくですが記載されていた)脱原発依存も反故にされました。
また、総理の政策転換も背景に関西電力が高浜原発などの運転を再開。そこで発生した核のゴミを上関に押し付けようともくろみ、上関原発建設のめどが立たずに苦しんでいる中国電力と利害が一致。上関への中間貯蔵施設を計画し、この夏の短期間で町長にのませてしまいました。そうした中で、本裁判は終盤を迎え、2024年6月頃、結審になろうとしています。
本裁判のここまでの大まかな経過をおさらいしますと、以下のようになります。
◆同時進行の運転差し止め仮処分を高裁はいったん認めるも覆る
2016年3月11日の提訴と同時進行で原告=住民側が仮処分を申し立てました。これは、本裁判の判決を待っていたら、その間に伊方原発が事故を起こしてしまう危険があるからです。
紆余曲折を経て、2017年12月13日、広島高裁がいったんは仮処分を認めました。しかしながら、四国電力から異議が申し立てられ、2018年9月25日に四国電力の異議を認める形で運転差止が却下されました。そして、我々原告=住民側が新たに申し立てた仮処分申請も2021年11月4日、吉岡裁判長により却下されてしまいました。その後、我々は広島高裁に抗告しましたが、2023年3月24日、脇由紀裁判長により仮処分の申し立てはが却下されてしまいました。
◆これまで41回の口頭弁論
2023年11月1日現在、41回の口頭弁論が行われました。
2023年9月11日の第38回口頭弁論では、元広島大学准教授で地質学者の早坂康隆さんが原告側の証人として証言。四国電力が伊方原発は岩盤の上にあるから大丈夫という趣旨の主張をこれまでしている中で、早坂さんは伊方原発のすぐ北側600mの海底にある中央構造線は危険な活断層であることや伊方原発がある佐田岬半島は、ダメージゾーンにありひび割れだらけであることを暴露しました。
2023年10月4日の第39回口頭弁論では原告側証人尋問として、福島第一原発事故による避難者である鴨下美和さんと久保山康代さんが証言しました。鴨下さんは2022年12月14日に意見陳述をする予定でしたが、直前に被告の四国電力からの要求で裁判所が陳述を認めなかったという「事件」がありました。夫婦で放射性物質も扱う仕事をしていた鴨下さん。東日本の広い地域が、放射性廃棄物と同等の放射能汚染に覆われているという趣旨の指摘を行いました。
また、国の避難指示区域外からの自主避難のために賠償金は出ず、大変過酷な避難生活になったこと。先に避難した鴨下さんに対して、夫はいわきに残りましたが国の避難指示が無かったこともあり、『いわきは汚染などしていない、全く問題がない』と信じている周囲の人たちの中で、罵声を浴び、孤立したこと、若い人の突然死に二度も立ち会ったことから憔悴し、二年後に避難したことなどを回想。『願わくは、私たちのような思いをする人が、二度と出ないように。これ以上、原発によって国土が汚染され、人々の暮らしが歪められないように。祈りを込めて、私は、伊方原発の再稼働に反対します。』と結びました。
同10月11日の第40回証人尋問は原告側の野津厚さん(国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所、 港湾空港技術研究所領域長)の証人尋問の続きで、被告四国電力側による反対尋問が行われました。伊方原発が南海トラフ巨大地震の想定震源域のほぼ北西端に位置していることはよく知られていますが、四国電力は、「M9南海トラフ巨大地震が伊方原発敷地直下約41kmの地点を震源または強震動生成域として発生しても最大地震動は181ガルである。」と主張しています。
野津さんは、強震動地震学の専門家として、2011年のM9東北地方太平洋沖地震によって発生した地震波の研究から、南海トラフ巨大地震のようなプレート間地震では、致命的な地震波(キラーパルス)は一辺が数十kmのような大きな断層面(SMGA)から平均的に襲来すると考えるよりも、一辺が数kmのような小さい断層面(SPGA)から襲来すると考えた方が、実際の観測記録とよく一致するとして、キラーパルスの発生源はSPGAと想定しています。そして、野津さんはもっとも強力なSPGAを伊方原発に近いところに配置し、強震動計算を行ったところ、最大地震動は約1900ガル、地震波の最大速度が秒速約138cmという結果を得ました。なお、この計算では、伊方原発敷地は非常に強固な岩盤の上に立地しており、地震波の増幅特性はほとんどないものとして想定していますが、それでも、伊方原発の基準地震動650ガルの約3倍に相当します。
同11月1日(水)、第41回口頭弁論では、原告側の高島武雄さん(熱工学の専門家。元小山高専教授)への水蒸気爆発をテーマとしての証人尋問が行われました。福島原発事故の時、溶融炉心が原子炉建屋内のコンクリート構造に反応して水素が発生し(「MCCI」)、水素爆発が発生しました。
四国電力は水素爆発の防止策として、こともあろうに原子炉容器の底部(キャビティ)に水を張ることにしました。これだと溶けた炉心は水の中に落ち、なるほどコンクリート構造に接触しませんからMCCIは起こらず、水素爆発のリスクは大幅に軽減されます。しかし1000度以上に溶けた炉心が水に触れたとたん大規模な水蒸気爆発は起こらないのかという重大な疑問が起こります。常識的には水蒸気爆発の危険があると考えるのが普通です。しかし四電は「起こらない」と断言します。原子力規制委員会でこの問題の審査が行われた際、委員長の更田豊志さん(=当時)が「水蒸気爆発は起こらないと決意しなければ、なかなか水は張れませんね」と意味不明のコメントをしておられます。
「水張り」で大規模水蒸気爆発は起こらない、とする四電の主張の根拠は、過去に行われた国際的な研究や解析(経済開発協力機構=OECD のトロイ装置やクロトス装置を使った研究、欧州委員会のファロ研究、韓国原子力公社のコテルス研究など)から導いた結論です。ところが、肝心要のOECD の「セレナ研究」の結果を全く無視しているのが大きな特徴です。そのセレナ研究では「実際の原子炉内で大規模な水蒸気爆発が起こらないという確実な証拠がない以上、水蒸気爆発は起こると考えておくべき」という趣旨の結論を導いているのです。
◆今後の予定
今後は、以下のような予定です。
11月29日(水)10時半~、被告・四国電力側証人の金折裕司さん(山口大学 理工学研究科 教授)に対する『活断層』をテーマとした証人尋問が行われます。
12月18日(月)13時半~原告側証人の原告 伊藤正雄さん(原告団副団長)/証人 渡辺美和さんに対する証人尋問が行われます。
2024年1月22日(金) 13時半~ 原告側証人の原告 森本道人さん/原告 福島敦子さんに対する証人尋問が行われます。福島さんは2022年1月19日の第26回口頭弁論でも意見陳述をされています。南相馬市から京都へ避難した福島さん。この意見陳述では『福島市の避難所では「死ぬときは死ぬのだ」があいさつだった避難所の生活は忘れられなかった』『娘は「フクシマゲンパツ」とあだ名をされたこともあった。その日その日を精一杯「生きる」ことで過ぎていった』などと振り返っておられたことが筆者も昨日のことのように思い出されます。
なお、予定は変更の可能性もあります。
直近に原告団のホームページをチェックしていただければ幸いです。
https://saiban.hiroshima-net.org/
広島選出の岸田総理が全国の皆様にいろいろご迷惑をおかけしていることを深くお詫び申し上げますともに、伊方原発ストップ、また上関中間貯蔵阻止という結果をお届けできるよう、筆者も奮闘して参ります。
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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