12月10日(日)集い処「はな」で「和歌山カレー事件は冤罪だ!」と題した緊急学習会を開催した。

林眞須美さんの長男がX(twitter)で、先日、都島の大阪拘置所に母親眞須美さんに面会に行った際、面会部屋がいつもと違ったり、初めての刑務官が同席するなど異例の出来事があり、不安を覚えたと呟いていた。眞須美さんの第二次再審は、新たな弁護人が一人で取り組んでいるが先が見通せない。そうした中、先のようなことがあったため、和歌山カレー事件を風化させてはいけないと緊急学習会をやることになった。

◆保険金詐欺の共犯者が眞須美さんの被害者に?

講師に、和歌山カレー事件の取材を最も多く行っているノンフィクションライターの片岡健さんをお招きした。私自身、8年前にお聞きして「目から鱗」だったお話をして頂いた。

それはカレー事件発生当時、林家に同居していた二人の男性についての話だ。その一人Iさんは、当時無職で林家に居候し、健治さんと麻雀をしたり、運転手をしたりしながら面倒を見てもらっていた。その間眞須美さんの調理した食事を食べ、何度もヒ素中毒症状や意識消失に陥り入院していた。とはいえIさんは入院中、病院を抜け出し飲みに行ったり、麻雀したり、楽しそうにしていた様子だったという。つまり、Iさんは眞須美さん、健治さんの保険金詐欺事件の共犯者であったのだ。

ノンフィクションライターの片岡健さん(右)と眞須美さんの長男さん(12月10日集い処「はな」にて)

そうするうち、1998年7月25日、園部地区の夏祭り会場で提供されたカレーを食べた人のうち67人が急性ヒ素中毒症状を発症、4人が死亡するカレー事件が発生。しかし、カレー事件に唯一関わっているとされるのは、カレー鍋の見張り番に関わった眞須美さんだけだ。捜査が進展しないなか、林家の過去の保険金詐欺事件を知った警察、検察は、あれだけ酷い保険金詐欺事件を「主導」した眞須美だから、カレー事件もやったに違いない、というストーリーを作っていった。

Iさんは、カレー事件発生間もない頃から、眞須美さん、健治さんが逮捕・起訴されるまでの約4ケ月間、警察により和歌山の山奥の警察官舎に匿われた。表向きは「マスコミから守るため」との理由だが、そこで警察と寝食を共にし「眞須美にヒ素入りの食事を食べさせられた」と、保険金詐欺事件の被害者にされていった。

裁判で、Iさんが、被告の弁護団に厳しく追及される場面があった。

弁護人「そんな何ってよ、そのたびに疑いもせんと同じような被害にあうかい!」。証人「………」。(デジタル鹿砦社通信 2017年10月10日 片岡健「和歌山カレー事件 弁護人に叱責された『疑惑に被害者』」より)

もう一人の同居人Dさんは元会社経営者で、眞須美さんと保険の外交員と客として知り合い、健治さんの麻雀仲間として林家に出入りするようになった。ある時、Dさんは眞須美さんに睡眠薬入りアイスコーヒーを飲まされ、自損事故を起こしたとされた。Dさんの会社は事件当時休業中だったが、林家の保険金の多くはDさんの会社名義で契約されていた。もちろんDさんも承知の上だし、Dさんは眞須美さんが火傷で保険金詐取した際には、その無茶なストーリーの口裏合わせに協力してもいた。Dさんも健治さん、眞須美さんの保険金詐欺事件の共犯者であることは明らかだ。 

◆眞須美さんにカレー事件の動機はない

眞須美さんが夏祭りで住民に無料で提供するカレーにヒ素を入れ、無差別大量殺人を行う動機は何もない。健治さんがいうように「眞須美は金にならんことはやらん」のだから。カレー事件は、金にならないばかりか、下手すれば自分の子どもたちも被害者になったかもしれない。

事件当日、健治さんは予定していた麻雀が中止になったため、夕方急きょ健治さん、眞須美さん、長男、次女の4人でカラオケに行くことになった。長女は幼い三女の子守りで家に残ったが、その際、健治さんは長女に小遣い1万円を渡している。長女にはこの1万円で好きなものを買って食べることも出来たし、祭り会場で無料のカレーを食べることもできた。眞須美さんは「祭りに行くな」と止めてもいないからだ。

カラオケから深夜遅くタクシーで自宅に戻ってきた眞須美さんら家族は、祭り会場には人が大勢いるのを見ている。警察の捜索が続いていたのだ。眞須美さんが犯人なら、その様子を見て尋常ではいられないはずだ。しかし、長男は、車の中で眞須美さんがのんびりとこう呟いたことを覚えている。「まだやっているのねえ」。

◆保険金詐欺事件の共犯者はほかにも……

保険金詐欺事件について、健治さんは二審から、自分が主導したと主張した。しかし、それは「眞須美を庇うため」と否定された。後述するが、逮捕後、眞須美さん犯人の決定打がないなか、大阪地検から派遣された検事が、健治さんに「眞須美にやられたと言ってくれ」と懇願したことがあった。もちろん健治さんは応じていないし、そういわれ健治さんは眞須美さんの無実を一層確信したそうだ。

眞須美さん、健治さんの保険金詐欺事件の共犯者はIさんやDさんだけではない。嘘の診断書を書いた医師らも共犯者だ。医師免状はく奪の危険性を犯してまで共犯者になる医師などそういないだろうと私は思っていた。しかし、健治さんは、7人もの医師らが大方30万~50万で虚偽の診断書を書いてくれたと言い、次々とその病院名と医師名をあげていった。しかし、警察は病院と医師らの責任を追及してはいない。保険金詐欺事件での逮捕が、カレー事件で眞須美さん、健治さんを逮捕するための別件逮捕であるからだ。

以前、健治さんにお聞きした話 ──「入院したら、しばらくは大人しくしているんや。そのうち担当の医師が『林さん、気になることはありませんか?』と聞いてくる。ワシは『小さい子含めて4人も子どもがいる。毎日の生活のことが心配です』と話す。医師が『保険入っていませんか?』と聞いてくる。ワシは大きな保険に入っていると話す。そして不安そうに『治るんですか?』と尋ねる。『今の医学ではちょっと無理ですね』と医師がいうたら、そこが勝負どころや。医学書を読み漁り、どうしたらいいかじっくり考える。腕がどこまで曲がるかとかが重要なんや。必死で『ここまでしか曲がりませんわ』と演技する。『先生、なんとか上手く診断書を書いてもらえんやろか。お礼はしますが…」と持ちかける。ここまできたら、もう楽勝や。『給料が安いので買えないが、ゴルフのアイアンが欲しい』『パソコン欲しい』『松阪牛が食べたい』とか言うてくるで。それ叶えてやると、皆、簡単に嘘の診断書書いてくれたで」。

健治さん、眞須美さんの保険金詐欺事件は許されない行為だ。しかし、その罪はもう十分に償っている。問題なのは、保険金詐欺事件を行うような人物だから、カレー事件の犯人であるに違いないといういうきめつけは許されないということだ。(つづく)

12月24日大阪「冤罪と司法を考える集い」

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

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◎鹿砦社HP https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000733