東アジア反日武装戦線は警察やマスコミが喧伝するような「極悪人」の集団だろうか。そのメンバーとして全国に指名手配され、長年全国の駅や交番の掲示板に「凶悪犯」のように顔写真を晒されていた桐島聡さん。彼を名乗る男性が神奈川県内の病院で1月29日亡くなったそうだ。報じられる顛末には不可思議が多い。報道を時系列で振り返えると以下のようである。
1月25日、桐島聡と見られる男が入院している旨の情報提供が警視庁になされ、警視庁公安部による男の特定作業が開始された。翌日、男が神奈川県鎌倉市の病院に偽名で入院しているところを警視庁公安部により身柄確保された。男は事情聴取に対して、事件の関係者しか知り得ない当時の状況などについて話したため、警視庁公安部は男が桐島である可能性が高いとしてDNA鑑定を進めた。
病院に入院していながら本人確認もあやふやで「身柄確保」とはどういう意味なのか、法律の素人のには理解しかねる。続いて、
桐島聡と見られる男のDNA型鑑定の結果、桐島の親族と「親族関係矛盾なし」
と判断されたそうである。この男性は1月29日に病院で亡くなった。ここまでが桐島さんを名乗った男性の出現から逝去についての報道だ。
ところで公安警察が発表した
桐島聡と見られる男のDNA型鑑定の結果、桐島の親族と「親族関係矛盾なし」
というあいまいな表現。これはおかしくはないか? 本人特定がほぼ間違いないレベルの現代DNA解析で、「桐島さん本人」だと公安警察が確認できれば、早期に「本人であると判明」と発表するだろう。
亡くなった男性が桐島さんであるとの確証は、DNA鑑定やその後男性居宅の家宅捜査でも得られていない、だから今日に至るも「親族関係と矛盾なし」との表現が訂正されていないのではないだろうか。
ひょっとする理由は分からないがまったくの別人が「自分は桐島だ」と名乗り病院で亡くなった可能性も排除は出来ない。もし、別人であれば当の桐島さんにとって迷惑であろうし、公安警察やマスコミの大失態である。根拠の薄い当局発表や情緒的なマスコミ報道とは異なる視点で、真実を考察する必要はないだろうか。
桐島さんなのか、別人なのかも判然としなかった騒動。殺人鬼のように報じられた桐島さん。桐島さんとされる男性を巡る報道群は、デジタル時代の情報処理速度と共振して、液晶画面からはほとんど消えつつある。長年街頭で指名手配されひどい目にあってきた桐島さん騒動における報道群の過誤(間違い)と、公安警察・マスコミが一体で、がなりたてた露骨な世論誘導には強烈な疑義を禁じ得ない。
桐島さんはたしかに「爆発物取締違反」容疑で1975年に警視庁から全国指名手配されている。でも桐島さんへの容疑は「殺人」ではない。「殺人鬼を見つけた!」如き報道は桐島さんへの「容疑が殺人ではない」のだからまず前提が誤りだ。
東アジア反日武装戦線が展開した一連の企業爆破事件について、時系列やグループ・個人の関係性をまったく知らず(あるいは知っているのに無視して)、すべてを三菱重工爆破事件(死者8人負傷者370名以上)に帰することにより「冷酷無比な爆弾魔」として意識付けようとする報道が現在も続いているが、三菱重工爆破を行ったのは東アジア反日武装戦線「狼」のメンバーである。桐島さんが東アジア反日武装戦線に加わったのは「狼」が三菱重工を爆破したあとだ。つまり桐島さんは、三菱重工爆破事件とはまったく無関係な人物である。
東アジア反日武装戦線を論じるのであれば、当時捜査にあたった公安警察OBを名乗る高齢者の回顧映像や、爆破事件被害者親族の声だけを聴くのでは本質はなにも理解されない。作戦敢行者たちが日本帝国主義の犯罪をみずから受け止め命がけで行動した理由、さらには爆弾を闘争手段として選択した背景、想定外の死傷者を多数出した三菱重工爆破事件のあとどのように煩悶し、それでも戦線からの撤退を選択しなかった決断、そして「狼」に続き「大地の牙」「さそり」が敢えて激流に加わった経緯くらいの基礎知識がないと、報道も感想も論評の域にすら到達しない。
東アジア反日武装戦線の問題意識は見当はずれだったのか? あるいは彼らの作戦から約半世紀を経た現在、彼らが提起した課題は少しでも克服されているのか?
本通信読者の中には上記につき、詳細にあるいは一定程度知識をお持ちの皆さんが多数であると信じるが、もしそうでないかたがおられたら是非『反日革命宣言』を一読されることをお勧めする。
古くは本コラムの掲載元鹿砦社、そして近い所では風塵社から『反日革命宣言』が復刊されている。まだお読みでないだ読者にはぜひ『反日革命宣言』(風塵社)をお読みいただくことをお勧めする(鹿砦社版『反日革命宣言』は在庫がないそうだ。風塵社版も品切れ間近と聞いた)。
▼鹿野健一 (しかの・けんいち)
1965年兵庫県西宮市生まれ。複数の企業と大学に勤務の後、現在はフリーライター。国際情勢・政治・教育・冤罪・原発などに関心を持つ。反原発季刊誌『季節』副編集長。単著『大暗黒時代の大学』(鹿砦社)。共著『オイこら!学校』(教育資料出版会)、『1970年端境期の時代』、『抵抗と絶望の狭間/1971年から連合赤軍へ』(鹿砦社)など。