◆セコンドの基本編
古代ボクシングでは、次に出場する選手が、その時戦っている選手の補佐役を務めた為に付いた文字どおりのセコンド、2番目を意味することがインターネットで調べればそんな由来が出て来るとおりと言えそうです。
現在のプロボクシングに於けるセコンドの役割は多く解説されており、試合中に観衆の目に映る範囲でも解るかと思いますが、誤解され易い部分も含めて、理解を深めて頂ければと思います。更にキックボクシングとの比較についても述べたいと思います。
セコンドの人数はプロボクシングの場合、三名まで認められていますが、インターバル中、リング内に入れるのは一名。他二名はロープの外側からの補助役となります。
控室の準備は割愛しますが、キックボクシングやムエタイの場合、「ムエタイの隠し味!」編で述べたようなタイオイルを塗るのもセコンドや側近の仕事となります。
選手のリング入場時から試合での三名のセコンドがやるべきことは多く、入退場の補佐や各ラウンド終了ゴングが鳴ったら、次のラウンドへ向けて1分間のセコンドの重要な任務に入ります。選手がコーナーに戻って来るまでにコーナーに椅子を入れ込み、選手のマウスピースを取り出して水で洗い、うがいさせてマウスピースを口に嵌めさせて次のラウンドへ送り出す。他にも汗を拭き取り、腫れた部分を腫れ止め金具で抑えたり、ワセリンを塗ったり、揉んだり、その間にアドバイスも送ります。その小道具を機転を利かせて手際よく手渡しするのもセコンド陣営のチームワーク。
選手が出血した場合、プロボクシングではセコンドに代わってカットマンという止血のプロが処置に入る場合もあります。正味50秒ほどで傷の具合を見て的確に止血するのも腕の見せ所でしょう。セコンドアウトのホイッスルやブザーが鳴ったら、すみやかに椅子や水の入ったボトル、漏斗なども撤去してリング下へ移動します。
◆あまり意識されない規則
ドクターチェックの際はタイムストップされていてもラウンド中なので、リング内に入ることは出来ません。レフェリーにドクターの方へ呼ばれた場合はロープの外側やリング下から回らねばいけません。
選手がダメージを負い、これ以上の続行は棄権と判断した場合、リング内にタオル投入し、レフェリーに棄権を伝える行為がありましたが、プロボクシングではJBCが2019年6月にタオル投入ルールを変更し、チーフセコンドがコーナーからタオルを振って棄権を知らせるウェイビングに変更した模様です。
タオル投入はレフェリーの背後に落ちた場合、気付くのが遅れる場合があることが要因でしょう。
しかし、キックボクシングでの棄権はタオル投入が続いていますが、まだ昭和の時代にウェイビングを行なったセコンドが居たことも事実です。このウェイビングは今後も影響を受けそうで徐々に改善されていくことでしょう。
他に、プロボクシングの場合、風を送る為にタオルで扇ぐのは禁止です。おそらく棄権を意味するウェイビングと紛らわしい点があるかと思います。紛らわしくなくても似た行為による禁止でしょう。団扇(うちわ)で扇ぐのは可能で、これらは昔からあるルールです。
キックボクシングにおいて、最近はタオルで扇ぐ行為はあまり見られなくなりましたね。
セコンドは試合中に大声でアドバイスを送るのは厳密にはルール違反です。声をあげてアドバイスを送るのは黙認されているのが現状でも、特に相手側に罵声を浴びせることは厳重注意となるでしょう。
「セコンドはラウンド中、リング下の椅子に座って、リングマット、コーナーポスト等に手を触れてはならず静粛にしていること」というルールがあります。
この静粛ルール、私(堀田)が初めて知ったのは平成初期に立嶋篤史さんから聞いた話でした。
その後(1990年代)、プロボクシングの試合でレフェリーがタイムストップし、セコンドに簡潔な注意を与えたのを見たことがあります。レフェリーは熊崎広大さんで、素早く的確に処置後、すぐ再開させていました。
◆緩やかな任務
キックボクシングを観ていると、リング内に椅子の入れ方もまごつく姿を見ることがあります。後楽園ホールのリングの場合、ロープの最下段から椅子を寝かせて先端を、くの字を描くようにリング内に入れて立てればOKだが(やったことある人は解ります)、なかなか入らなくて、ロープとロープの間から入れようとしても上手く開かずまごついたり、ロープ最上段から入れる為にロープ際に上がって余計手間が掛かって「遅い!」とチーフセコンドに怒られたり、近くで見ていて笑いたくなるほどでしたが、セコンドをやったこと無い者がたまたまお手伝いでやらされると、こんな連携不足にも出くわします。プロボクシングでは役割分担も綿密に組み込まれ、そのライセンスされた者がセコンドを務めるので、多くのセコンドチームワークはしっかりしているでしょう。
よく疎かになりがちなのが濡れたマットを拭くこと。ボクシングでは水を吹き掛けることは禁止されていますが、キックボクシングやムエタイでは頭から浴びるように水を掛けたことがありました。
過去のキックボクシングはリング上に大きい水受け皿を上げて使われていた時期もありましたが、最近は使われていない模様。後楽園ホールではプロボクシングでもリング下の水受け用鉄板(皿)が置かれていましたが、最近は置かれていません。水を使ったらリング下の受け皿が無いので多量に水を使わせない工夫かと思います(うがいした水は漏斗によってリング下のバケツに溜まるようになっています)。
キックボクシングにおいて、他のジムのセコンドに着く例では、元・日本フェザー級チャンピオン、葛城昇さんは平成初期頃、習志野ジム、小国ジム、キングジム。一つの興行で三つのジムのセコンドに着いていたかな。過去所属したジム仲間の縁から友情セコンドとなった例で、キックボクシングだから可能だったことでしょう。現在も団体が分かれている為、厳格なライセンス制度が無く、ジムは違うが友人のセコンドに着くという例はたまにあるようです。
過去の例では小野瀬邦英氏の引退試合に宿敵、ガルーダ・テツ氏がセコンドに着いた話題の試合もありました。ライバルだからこそ知り得た癖。どこまで活かされたかは二人だけが知ることかもしれません。
◆セコンドのマナー向上
キックボクシングにおいて、最近のセコンド陣営はマナーがいいと言われます。リング中央で相手側セコンドとも握手し、ラウンド中は椅子に座ってのアドバイス。判定に不服があっても騒がない。血の気の多い会長やセコンド陣営が居た昭和世代とは大きな違いでしょう。こういう正しい行為がキックボクシングの品格を上げることに繋がるので、多くの陣営の力で続けていって欲しいものです。
そんなセコンド風景も撮影すること多い私ですが、選手同様、撮影しておけば後で役立つこと多いので、人生でリング上に立っている時間はわずかしかない、この瞬間を記録させて頂きたいと思います。
今回はキレイに纏め過ぎたか、セコンドに纏わる過激なエピソード、あるにはありますが、また時期を見て披露したいと思います。
▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」