8月6日の広島平和記念式典。2023年はG7広島サミットの余韻もあってか、111の国と地域の代表が参列しました。
◆ロシア排除、イスラエルは招待のダブスタ
2022年からロシア・プーチン大統領によるウクライナ侵攻を理由に主催者の広島市(市長・松井一實さん)は、プーチン大統領のロシアとプーチン大統領の盟友・ルカシェンコ大統領が事実上の独裁を続けるベラルーシへの招待を見送っています。このほど、2024年度もロシア・ベラルーシ両国への招待を見送ることを広島市は明らかにしています。
一方で、2023年の「10.7」以降、ガザ地区でパレスチナ人を虐殺し続けるイスラエルについては「ハマスとイスラエルの戦闘について評価が定まっていない」としてイスラエルへの招待を継続することとしています。
◆「イスラエルを招待するな」と筆者も時々参加の市民団体
これについて、原爆ドーム前で10.7以降、虐殺停止を求めてスタンディングを継続する「広島パレスチナともしび連帯共同体」は、4月19日夕方、広島市に対して、イスラエルの政府代表を招かないように要求しました。
筆者は、広島パレスチナともしび連帯共同体の皆様に敬意を表しています。時々、会社帰りに活動にも参加させていただいています(写真、筆者撮影)。イスラエルによるガザ虐殺即時停止という要求も筆者は当然共有しています。イスラエル首相のネタニヤフ被告人は、日中戦争時の日本に喩えれば「蒋介石を相手にせず」と言い放ち、戦争の泥沼化を進めた近衛文麿に相当するでしょう。その罪は誠に重い。
また、イスラエルのパレスチナ虐殺に対して停止決議も広島市議会はしばらく出せず、停止決議を出した今も松井市長は具体的なアクションに乗り出そうとしていません。そのことについて、同団体は抗議されてきましたし、そのこと自体は支持しています。
だが筆者は、今回の同団体による「イスラエル排除」の要求については賛同できません。
◆米国追従の中央政府からも党派運動からも距離を置いてこそ本領発揮、「広島市の平和行政」
結論から申し上げると、筆者の考えは以下です。
「8月6日の平和記念式典にはイスラエルもロシアもベラルーシも招待すれば良い。」
なぜか? そもそも、世界中で最近、戦闘状態になっていた国はロシア・ベラルーシ・イスラエル以外にもいくらでもあります。例えば、エチオピアでは、2020年―2022年、政府軍と地方政党が衝突し、双方が虐殺を行っています。だが、2022年の平和記念式典にエチオピアにも当然、招待状は行っています。
そもそも、広島に人類史上初の核攻撃を実施し、なおかつ未だに反省も謝罪もない米国政府も招待され、最近では毎年のように参加しています。あるいは、米韓軍事演習への対抗という部分はあるにせよ、ミサイル実験をバンバンやっている朝鮮も招待状は送るけど、来ない、というパターンです。一方、中華人民共和国は日本が原爆など被害ばかりを強調して加害への反省が不十分という理由で、欠席が続いています。
いずれにしても、広島市の平和行政が「すべての核兵器に反対」し、「全人類の平和を願う」立場ですべての国と地域に招待状を送ってきた2021年以前の状態で良かったと思います。日本国政府のいわば対米従属とも距離を置く。他方で、特定の国へのアンチを含む党派的な運動でもない。それが被爆地ヒロシマ・ナガサキの平和行政の意義だと思うのです。
◆G7広島サミットは反対だが、平和記念式典とは違う
筆者は、例えば「米帝国主義粉砕!」「シオニスト打倒!」と主張される運動そのものを否定はしません。市民運動なり党派運動なりそう主張されるのは大いに結構です。筆者自身もG7広島サミットには反対でした。
米国を中心とする旧白人帝国主義国家が新自由主義グローバリズムを推進するのがG7サミットだからです。日本共産党の県議候補さえ「G7サミットに期待する・評価する」と市民団体やマスコミのアンケートに回答する中、筆者は「期待しない」ときっぱり回答しました。
これは結果論ですが、途中、「乱入」してきたウクライナのゼレンスキー大統領も含めて、G7広島サミットに集った首脳たちは、イスラエルを当初は全面支持し、ネタニヤフをつけあがらせ、虐殺を後押しした「パレスチナ虐殺応援団」に他ならないのです。
この点はバイデン大統領やオバマ元大統領のような「ポリコレ系」の首脳もトランプ元大統領やイタリアのメローニ首相のような「アンチポリコレ?派」も変わらない。人権と言っても、前者がアフリカ系も含む欧米人のための人権、後者が自国人のため人権であって、究極的には中東なり東アジアなりの民衆のことなど眼中にないでしょう。そんな人たちが集まっても、そうなる未来は見えていました。
しかし、平和記念式典は、G7サミットとは違う。純粋に、原爆犠牲者を悼み、核兵器廃絶と世界恒久平和を願うということであり、すべての国と地域を招き、全人類に普遍的に発信していくということに意義があります。
◆市民団体が岸田政権・松井市長と同じ轍を踏まぬように
もちろん、繰り返しますが、筆者は、米帝国主義怪しからん、イスラエルのシオニストが怪しからん、などと主張する運動を否定はしません。しかし、そうした党派的な運動を平和行政に持ち込んでしまえば、あの国はダメ、この国はダメにだんだんなってくる。平和記念式典の値打ちそのもの自体が暴落してしまいます。
ロシア・ベラルーシ排除自体は、結局、安倍晋三さん以上の米国追従で名誉白人扱いされて舞い上がっている岸田政権のいわば党派的な運動に忖度して広島市が決めたことでしょう。しかし、市民団体が広島市に「イスラエルを呼ぶな」と要求することも、「違う」と思うのです。むしろ、松井市長と同じような誤りを市民団体の皆様が犯しつつあるのではないか?そう申し上げる次第です。
「平和記念式典そのものは、すべての国と地域を呼べば良い。」このことを繰り返したいとおもいます。
4月19日現在、イスラエルによるパレスチナ大虐殺は、イスラエルとイランによるミサイルやドローンの撃ちあいに飛び火しています。もちろん、シリアのイラン大使館を空爆するという暴挙を行ったイスラエルに主な責任がありますが、とはいえ、なんとか収束をしていかないといけない。こんなときだからこそ、米国のバイデン大統領にもロシアのプーチン大統領にも中国の習近平国家主席にも朝鮮の金正恩総書記にも、イスラエルのネタニヤフ首相にもイランのライースィー大統領にも平和記念式典ご出席いただきたいと思います。広島市として招待状を出したうえで、出席する、しないは先方の都合です。
繰り返します。「平和記念式典そのものは、すべての国と地域を呼べばよい!」
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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