◆環境適合性は最悪の原発

「環境(適合性)」については唯一「発電段階で二酸化炭素を出さない」この1点だけだ。

日本の発電所から排出される二酸化炭素は全放出量の4割程度である。

この4割のうち半分以上は石炭火力なので、これを全部廃止し、天然ガスまたは最近注目を浴びるアンモニア(混焼を含む)などを使えば、4分の1以下にできるという。火力の全部を原発にすることは不可能だが、石炭火力を全部天然ガスやアンモニアにすることは現在の技術でも十分可能だ。

二酸化炭素だけをとっても原発でなければならない理由はない。もちろん、再生可能エネルギーに置き換えることが最も重要だが。原子力の環境問題と言えば、もっと重大なもの、放射性物質(廃棄物を含む)による被ばくの問題は無視されている。

原発は運転中にも大量の放射性物質を海や大気に放出しており、例えば加圧水型軽水炉の玄海原発では10年間に約800兆ベクレルのトリチウムを放出してきた。これは福島第一原発で今問題となっている汚染水に含まれる量に匹敵している。ほかにもセシウムやヨウ素なども一定量を排出している。

さらに重大なのは、エネ基でも「推進する」とされている核燃料サイクルのうち「原発が1年で放出する放射能を1日で放出する」とされる再処理工場だ。

一般に、原発には「五重の壁」があり、放射性物質はそれに封じ込められているから人体や環境に影響を与えないと宣伝されている。再処理工場ではこの壁をことごとく取り去って使用済燃料を硝酸に溶かし、ウランやプルトニウムを取り出す。この工程で大量の放射性物質を海中や大気中に放出している。

事故が起きなくても再処理工場の沖合や周辺敷地にはヨウ素、セシウム、ストロンチウム、トリチウム、ルテニウム、コバルト、プルトニウム、ウランなどの放射性物質が蓄積している。これが環境汚染でなくて何であろうか。

さらに、福島第一原発事故のような大事故を起こせば、その何百倍もの取り返しのつかない環境汚染を引き起こし、回復には膨大な時間がかかる。これに対して責任を取れる会社などない。

国も責任を取れない(取らない)のは、現状を見れば明白だ。

◆安全性は誰も保証していない

「安全」については電事連は新規制基準をクリアしていれば安全と主張する。しかし規制委は「安全性を保障するものではない」と否定している。

この関係については、阿部知子議員(立憲民主党)による質問主意書(2014年10月7日)に対する答弁書が明らかにしている。

質問「なお、田中規制委員長が一貫して述べている『規制基準の適合性審査であって、安全だとは言わない』との表現と9月10日会見での『運転にあたり求めてきたレベルの安全性』との表現とは同じ『安全(性)』という語を用いているが、その意味するところは異なると思われる。それぞれの表現における『安全(性)』の定義と相互の関係を示されたい。」に対して、

答弁「御指摘の『規制基準の適合性審査であって、安全だとは言わない』という発言の趣旨は、『いわゆる安全神話に陥ることなく、最新の科学的知見に基づき、不断に向上させるべきものである旨を述べたもの』さらに、『運転にあたり求めてきたレベルの安全性』が確保されることが確認されたとは、規制委が九州電力から提出された川内原発の設置変更許可申請について、原子炉等規制法の設置変更許可基準に適合していることを確認したことを述べたものである。」としている。

これは閣議決定を経た文書であり、政府の公式見解だ。

「安全性の確保」には2つの意味がある。狭義には原子炉等規制法の求める基準を満たすこと。しかしこの基準は現在の知見や福島の経験に依拠しているので、新知見や新発見そして想定外の事態があれば未達成になる可能性は国も否定しない。

それに対して広義の安全性は、「不断の努力により向上させることで達成する」との考え方だ。

重要なのは「最新の科学的知見」が反映され、常に更新され続けて初めて、新知見や新発見を取り込んだ水準になるから、新規制基準適合性審査が常に安全性を担保するものではないことだ。

なぜならば、規制委以外に「更新されているかどうか」を判断する機関や組織がない。震災以前は、原子力安全委員会と原子力安全.保安院という組織がありダブルチェックする建前になっていたが、 今はそれさえなくなった。

新規制基準では、火山ガイドや基準地震動の見直しなどを適宜しているとされるが、安全を保証できるものではない。そもそも新規制基準で対象としているのは一定の自然災害と、従来の想定を超える過酷事故への対策(テロを含む特定重大事故)にとどまり、例えば立地地点の妥当性(地質、地盤、断層以外)や経済性は審査済として対象外にされている。

当然ながら経済性が悪化すれば安全対策の劣化にもつながるのだが、審査対象外だ。

唯一、日本原電の東海第二原発で「経理的基礎」が審査対象とされた。このため日本原電は東電、東北電に支援の意思を示す文書の提出を要請し、関西、中部、北陸を加えた5社で合計で3500億円が安全対策費用として資金支援されることになった。

規制委が問題にしたのは新規制基準で追加設置を余儀なくされた防潮堤などの津波対策費や特定重大事故等対処施設関連の費用だった。

これまでも日本原電に対して5社は年間約1000億円を設備維持費用として支払ってきた。しかしこれではまったく足りないため、東電に対しては電気料金の前払いとして支払いを求めている。これがなければ東海第二の再稼働はできない。

資金支援はいずれ清算される。一部は再稼働後の電気料金として充当されるが、原発が動かなければ債務不履行となり倒産する。日本原電の「経理的基礎」はきわめて脆弱だ。これでは安全の足を引っ張るのではとの危機感は、規制委にも電事連にもない。

◎山崎久隆 政府「エネルギー基本計画」における「原子力の位置付け」の嘘八百
〈前編〉原発を「準国産エネルギー」と呼ぶ欺瞞
〈後編〉立地妥当性や経済性を「対象外」とした新規制基準

本稿は『NO NUKES voice』(現『季節』)30号(2021年12月11日発売号)掲載の「『エネルギー基本計画』での『原子力の位置付け』とは」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。共著に『核時代の神話と虚像』(2015年、明石書店)ほか多数。

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