◆イスラエルは自衛のためにガザを爆撃しているのではない

8月9日の長崎平和祈念式典にイスラエル駐日大使を招待しなかったことが問題となり、米国をはじめG7諸国などの駐日大使が参席を拒否した。NHKはイスラエルのことを「ハマスと戦闘しているイスラエル」と繰り返し紹介していた。

冗談じゃない。イスラエルが問題になるのは、ハマスと戦闘していることではなく、ガザ地区に無差別爆撃を繰り返し、4万人をこえる女性と子供、住民を大量虐殺しているからではないか。そんな戦争犯罪国家にたいし長崎平和祈念式典にイスラエルが参席する資格があるというのだろうか。長崎市は「イスラエルが攻撃を続けているパレスチナガザ自治区で危機的な人道状況や国際世論などを踏まえイスラエル大使の不招待を決めた」と言っている。

長崎平和祈念式典にはロシアとベラルーシも招待されなかったという。アメリカなどの言い分は、「イスラエルを招待しなかったら、イスラエルは自衛権を行使しておりロシアと同列におき誤解を招く」ということだ。

イスラエルはパレスチナ民衆をガザという空しかない刑務所に閉じこめ、そのうえハマスの攻撃に対する報復として爆撃による大量虐殺をおこなっている。イスラエルは自衛のためにガザを爆撃しているのではない。自衛のためではなく、パレスチナ民衆を抹殺するために大量虐殺をおこなっているとしかいいようがない。一番、招待すべきでないのはイスラエルである。

◆二重基準の原因はアメリカの例外主義と覇権主義

広島慰霊祭ではパレスチナが招待されずイスラエルは招待された。だから広島慰霊祭にはアメリカ大使なども参席した。その広島市に多くの批判の声もよせられたという。パリ五輪でもロシアとベラルーシは国家として参加させずイスラエルは参加させている。もし軍事侵攻がだめだとする基準ならイスラエルも当然あてはまる。いわゆる二重基準だ。

この二重基準の原因は軍事支援しようがしまいと自国は特別だというアメリカの例外主義がある。アメリカは軍事支援している国に国際イベント参加拒否というようなことは許さないという。例外主義は他国にたいし侵略、内政干渉など何をやってもかまわないという覇権主義そのものだ。

 

赤木志郎(あかぎ・しろう)さん

◆長崎市がG7諸国の圧力に屈しなかった要因

アメリカと長崎市の間に立った岸田首相はおろおろするだけでG7の7カ国での核軍縮の話し合いがすすまないと泣き言を言うだけだった。世界に核兵器を振りかざし恫喝しているアメリカに膝間つき、唯一の被爆国と言いながら核兵器禁止条約にも参加できない日本政府は「核のない世界を」と語ることができないでいる。

その点、長崎平和祈念式典にアメリカ、とくにエマニュエル大使の露骨な干渉、圧力に屈せずイスラエル大使を招待せず毅然とした姿勢を貫いた鈴木史朗長崎市長および長崎市民は立派だと思う。長崎市がG7諸国の圧力に屈しなかった要因には、宣言作成や行事について公開的に論議をすすめてきた経緯がある。広島市の場合、非公開ですすめられた。

イスラエル不招待をめぐる長崎平和祈念式典でのアメリカなどの不参加は、世界の非米諸国とG7覇権勢力との対立の表れだということができる。そして、長崎市のように市民の声を背景に戦争反対の正義の信念をもってそれを貫いていけば、アメリカの圧力も跳ね返すことができるということを示したのではないだろうか。

▼赤木志郎(あかぎ・しろう)さん
大阪市立大学法学部中退。高校生の時は民青、大学生のときに社学同。70年赤軍派としてハイジャックで朝鮮に渡る。以来、平壌市に滞在。現在、「アジアの内の日本の会」会員

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』