◆現在の核兵器状況

2024年、米、露、英、仏、中、インド、パキスタン、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、およびイスラエルの9カ国は、合計で約1万2,121発の核兵器を保有しており、そのうち9,585発が運用可能と考えられている。

そのうち約3,904発の弾頭が運用部隊に配備されており、約2,100発は高度な運用警戒態勢に置かれているとされる。これは前年度より約100発増加している(ストックホルム国際平和研究所2024イヤーブックより)。

現在は、2009年4月プラハでの演説でバラク・オバマ米大統領(当時)の提唱した 「核なき世界」とは対局的に、冷戦構造の再構築とともに核戦力の拡大が続いている。

◆核開発が止まらないのは核武装のため

結論から述べると、日本で原子力開発とりわけ核燃料サイクル政策を維持し続ける大きな理由は、核武装技術を維持し取得するためである。

政府は原子力を「平和利用」と称し、エネルギー政策に利活用するとしている。しかし電源開発に位置付けるだけならば、核燃料サイクル政策を推進する理由はない。世界中で核燃料サイクルを所有して稼働させているのは米英仏ロシア中国に限られ、それ以外には存在しない。すべて核武装国でありそれらの核兵器開発を維持存続させるために核燃料サイクル(これらの国々にとっては核兵器サイクルに他ならない)を保有している。

原発を導入しようとした時代、1950年代からすでに、日本では核兵器開発に向けた技術開発を推し進める体制を作り上げてきた。

当時は、原子力開発は核兵器開発と同義であり、原子力開発を目指す国は必ず自国の核兵器開発を行う目的で導入した。

世界中でウラン濃縮、高速炉開発(高純度プルトニウム生産に必須)、再処理施設建設が模索され、一部は実現した。しかし核兵器の拡散が世界の平和に対する重大な脅威になるとの考えが主流になり、核拡散防止条約や核兵器開発技術の移転禁止を定めたロンドンガイドラインの制定などを通じて核兵器開発技術の非核国への移転禁止が大きな課題になった。

きっかけの1つが、カナダから重水炉を導入して1974年に核実験を成功させたインドの存在がある。インドは中国の核兵器開発に対抗するために核兵器開発を行い成功させた。その中国は旧ソ連に対抗するために核兵器開発を行った。その中国から技術を導入してパキスタンが核兵器を開発したが、これもインドへの対抗からである。

こうしたドミノ倒しのように、対立国が優位性を保つ、またはギャップを埋めようと核兵器開発を進めることは、核拡散防止条約があっても止められなかった。

4度の中東戦争を通じてイスラエルが核兵器を開発したのは、アラブ諸国への対抗だったが、これを支援したのはフランスと米国である。

そのイスラエルに対抗して核兵器開発を進めているのがイランである。印パ、中ソなども、それぞれが自国の影響力を維持、強化しようとする帝国主義的発想から、同盟関係にある国に秘密裏に核兵器技術を移転していたのである。

核拡散防止条約では、条約発効前に核兵器を保有していた米ソ英仏中に 「核兵器を保有し続ける権利」があるとされ、その後は条約内で核兵器開発はできなくなる。さらに条約に加盟していないインドの核兵器開発に衝撃を受け、ロンドンガイドラインの制定により核兵器転用可能技術の制限が決められた。

しかし日本周辺を見渡せば、米国への対抗姿勢から朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が核拡散防止条約から脱退して核兵器開発を進め、これに対抗して韓国でも核兵器保有論が高まっている。

「核なき世界」を志向し、ノーベル平和賞をもらったオバマ大統領による 「成果」は、その影響力を失うとともに崩れ去ろうとしている。

次期大統領を狙うドナルド・トランプは、前政権時代にすでに核の拡散も厭わない姿勢を示し、日韓が核武装してもかまわないとの立場だ。米国内や共和党がそうした考えに同調しているとは思わないが、例えば中国や北朝鮮の核の脅威や軍事的脅威を強調し続ければ、対抗手段としての核兵器保有議論は、今以上に無視し得ない影響力を持つことになる。

福島第一原発の事故以来、脱原発の世論が台頭する中でも核兵器を開発するために原子力技術を保有し続けようとする勢力には、絶好の国際状況であることは間違いないであろう。(つづく)

本稿は『季節』2024年夏・秋合併号(2014年8月5日発売号)掲載の「核武装に執着する者たち」を本通信用に再編集した全3回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

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《報告》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
 事実を知り、それを人々に伝える

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 核武装に執着する者たち

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
 課題は放置されたまま

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
 原発被害の本質を知る

《インタビュー》北野 進(「志賀原発を廃炉に!訴訟」原告団団長)
 珠洲原発・建設阻止の闘いは、民主主義を勝ち取っていく闘いだった

《対談》鎌田 慧(ルポライター)×柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
 東京圏の反原発 ── これまでとこれから

《報告》今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
「核融合発電」蜃気楼に足が生え

※          ※          ※

《回想》松岡利康(鹿砦社代表)
 創刊から10周年を迎えるまでの想い出

《墓碑銘》松岡利康(鹿砦社代表)
 お世話になりながら途上で亡くなった方への追悼記

《季節創刊10周年応援メッセージ》

 菅 直人(衆議院議員・元内閣総理大臣)
 守りに入らず攻めの雑誌を

 中村敦夫(作家・俳優)
 混乱とチャンス  

 中嶌哲演(明通寺住職)
「立地地元」と「消費地元」の連帯で〈犠牲のシステム〉を終わらせる

 水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
『季節』丸の漕ぎ手をふやして、一刻も早く脱原発社会を実現しよう

 山崎隆敏(元越前市議)
「核のゴミ」をこれ以上増やさないために

 今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
 裁判も出版も「継続は力なり」

 あらかぶ(「福島原発被ばく労災損害賠償裁判」原告)
 隠された「被ばく労働」問題を追及し、報じてほしい

※          ※          ※

《報告》なすび(被ばく労働を考えるネットワーク)
《検証》あらかぶさん裁判 原発被ばく労働の本質的問題 

《報告》北村敏泰(ジャーナリスト)
 棄民の呻きを聞け 福島第一原発事故被害地から

《講演》和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
「復興利権」のメガ拠点 「福島イノベーション・コースト構想」の内実〈前編〉

《報告》平宮康広(元技術者)
 水冷コンビナートの提案〈1〉

《報告》原田弘三(翻訳者)
 COP28・原発をめぐる二つの動き
「原発三倍化宣言」と「気候変動対策のための原発推進」合意

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
 総裁選より、政権交代だ

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
   タイガー・ジェット・シンに勲章! 問われる悪役の存在意義

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
   山田悦子の語る世界〈24〉
   甲山事件50年を迎えるにあたり
   誰にでも起こりうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか(下)

《報告》大今 歩(高校講師・農業)
   洋上風力発電を問う 秋本議員収賄事件を受けて

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
 時代遅れの「原発依存社会」から決別を!
 政府と電力各社が画策する再稼働推進の強行をくい止める

《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
 6・9大阪「とめよう!原発依存社会への暴走大集会」に1400人超が結集

《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
 女川原発の再稼働はあり得ない 福島事故を忘れたのか

《福島》黒田節子(請戸川河口テントひろば共同代表)
 浪江町「請戸川河口テントひろば・学ぶ会」で
 北茨城市大津漁協裁判で闘う永山さんと鈴木さんの話を聞く

《柏崎刈羽原発》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 7号機再稼働で惨劇が起きる前に、すべての原発を止めよう!

《首都圏》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
 福島原発事故の責任もとれない東京電力に
 柏崎刈羽原発を動かす資格はない!

《浜岡原発》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
 静岡県知事と御前崎市長が交代して
「一番危険な原発」はどうなるか

《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
 政治に忖度し、島根原発2号機運転差止請求を却下
 それでも私たちは諦めない!

《玄海原発》石丸初美(玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会)
 玄海町「高レベル放射性廃棄物・最終処分場に関する文献調査」受入!

《川内原発》向原祥隆(反原発・かごしまネット代表)
 私たちは歩み続ける

《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
 原子力規制委員会を責め続けて11年
 原子力規制委員会は、再稼動推進委員会・被曝強要委員会

《反原発川柳》乱鬼龍

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◎鹿砦社 https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000748

龍一郎揮毫

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