筆者は2024年9月6日、広島弁護士会館で行われた基礎経済科学研究所の秋季研究集会で「広島県における産業廃棄物問題と地域経済・社会への悪影響」と題して発表しました。

発表する筆者(右)

◆広島県の産業廃棄物問題 

広島県の産業廃棄物処分場の数は、2021年、全国で3番目。北海道の289、愛知の94に続く76か所です。特にいわゆる『安定型処分場』では54か所で2番目となっています。

「安定型産業廃棄物最終処分場」(以下「安定型処分場」)とは、性質が化学的に安定しているとされる廃プラスチック類、金属くず、ガラス陶磁器くず、ゴムくず、がれき類などの産業廃棄物(一般的には「安定5品目」で2006年10月1日からは、一定の基準を満たした石綿含有産業廃棄物も追加されています)を処分する最終処分場です。

処分場の構造は、「しゃ水工」と言われる「埋立処分場内の汚水の処分場外地中への浸出を制御するための工作物」を敷設しない素堀の穴です。簡単に言えば、シートすら敷かなくてよいのです。そして、処分場からの浸出水に対する処理も法令上は不要です。従って、有害物質を含む廃棄物が埋立処分された場合、有害物質が施設外に流出することになります。この安定型処分場は1980年代~1990年代に全国各地で問題となりました。日弁連はすでに安定型処分場の新規設置を禁止することも提言しています。安定型処分場を巡る問題の代表例としては香川県の豊島事件があげられます。

安定型といいながら、実際には車のシュレッダーダストなど有害物質が含まれるゴミが持ち込まれました。公害調停を経て、2024年現在も後始末が続いています。

こうしたことを背景に全国各地で住民や地元自治体による反対運動が起き、水道水源保護条例、環境配慮条例など表現は多様ですが規制する条例が制定されています。

これは、現行の廃掃法では、書類などの要件さえ整っていれば産業廃棄物処分場の設置を許可せざるを得ないからです。

そうした中、本県では、独自に規制する条例がつい最近まで県も市町も制定していませんでした。また、規制の運用でも他都道府県では抜き打ち検査が常識なのに、広島県ではそれもやっていません。そして、業者による展開検査もろくに行われていない状況があります。他都道府県が規制を強化する中で広島県だけ規制が緩いことで、全国から広島に産廃が流入しています。後述する三原本郷産廃処分場には、群馬や長野などのナンバーのトラックが入ってきています。

◆三原本郷産廃処分場 ── 汚染水流出、県は深刻化するまで放置プレイ

2018年4月、広島県三原市と竹原市の水源地のど真ん中にJAB協同組合による安定型処分場設置計画が持ち上がりました。

計画地 広島県三原市本郷町南方字観音平22179番地1 外関係地域 広島県三原市本郷南方 / 広島県竹原市新庄町
埋立面積 9万7,499㎡(マツダスタジアム約10個分)
埋立容量 112万6,000立方メートル(2~10t車両30台/日程度・160立方メートル/日)
国道2号から搬入
廃水計画 雨水・浸透水は調整池を経由後、自然流下で椋原川と日名内川に排水する
主な産廃排出場所 県内5割、県外5割(岡山、島根、大阪、京都、岐阜、愛知、静岡)

三原市でも竹原市でも住民が猛烈な反対運動を起こし、三原市議会では2019年10月、竹原市議会でも2020年の2月に反対の請願が全会一致で可決されました。

しかし、広島県の湯崎英彦知事は2020年、産廃処分場を許可してしまいました。住民側は、許可が下りるとほぼ直ちに広島地裁に産廃処分場許可取り消しを県に求める住民訴訟、また業者を相手取って産廃処分場の稼働を差し止める仮処分申請を行いました。2021年に住民側による稼働差止の仮処分申請が通ったものの、業者JAB協同組合が異議申し立て。紆余曲折を経て2022年6月までに広島地裁が認めてしまいました。2022年秋から産廃の持ち込み・投棄が始まりました。

2023年6月。三原本郷産廃処分場から異臭を伴った汚染水が流出していることが発覚しました。これを受けて県もようやく重い腰を上げ、産廃処分場内の井戸でBODが基準値を超過していたとして7月に警告を業者に行いました。しかし、井戸水の数値が元に戻ったとして、すぐに解除してしまいました。業者は、再検査時には井戸を真水で洗浄していたそうです。

仮に洗浄して薄まった水を検査しているのであれば、有害物の実態を把握するすべもありません。その後も、住民側の目視や簡易検査でも汚染水は明らかに出ているにもかかわらず、県も市も動かず、いわば「放置プレイ」が続いていました。県は調査も住民救済もしようとしなかったのです。

そのため、米作りをあきらめる農家も出てきました。他方で、広島地裁は2023年7月4日、広島県知事の許可の判断過程に看過しがたい過誤があったとして、産廃処分場許可を取り消すよう知事に命じる判決を下しました。しかし、湯崎英彦知事は判決を控訴しました。広島高裁における控訴審では、湯崎知事は、産廃業者JAB協同組合を被告側で補助参加させています。湯崎英彦知事は業者と一体となって県民に敵対しています。

こうした中で、住民の要求を受けて三原市当局は重い腰を上げて水源の保護に関する条例を制定しました。ただし、内容的にはパブコメでも寄せられた住民の意見が十分には反映されないものでした。市民の頑張りで委員会では市民側の修正案が可決されましたが、本会議では当局案が可決されてしまいました。

県が放置プレイを続ける中で、2024年夏、さらなる汚染水が発覚。筆者がうかがった7月21日には硫黄臭が漂い、妙なしょっぱい味がする水が流れていました。さすがに、これと前後して広島県警も動き、県も業者に対して指導を行いました。その理由は鉛の濃度が上回ったから、というものです。しかし、県の発表する文書では硫黄臭がするなどの状況は無視されています。現在の本郷処分場の汚染状況については、「廃掃法で規定されている場内の観測井戸のみ検査を行う」として、調整池や場外に排水されている汚水や河川の異常な泡や臭気、濁りについては検査や処置がなされない状況にあります。

なお、9月4日には、県は指導を解除し、処分場の操業を認めてしまいました。全くやる気なしと言うことです。こうした状況に現地の住民は8月末、国=環境省にも直訴をしています。環境省の職員も「広島県はこれでいいといっているのか?!」と驚いておられたようです。

さらに、産廃処分場下流の水田について、農協が玄米中の重金属検査を実施することを決定しました。

米が汚染されている可能性があるという異常事態です。それにもかかわらず、県は産廃処分場の操業を認めてしまっています。救われないのは農家です。


◎[参考動画]お米が植えられぬ三原本郷産廃、周辺のコメ重金属検査(広島瀬戸内新聞ニュース)

◆福島原発事故による放射性廃棄物流入の疑い

また、福島原発事故による放射性廃棄物が流入している疑いもあります。湯崎英彦知事は3.11当初の2012年、国よりも放射性物質の厳しい基準を打ち出していました。しかし、それを担保する厳しい検査などはなかった。そして、2013年11月に再選された後、基準を緩めてしまった。

広島県は産廃行政の運用は緩く、他都道府県では常識の抜き打ち検査などもされていません。こうした中で、産廃が流入し放題になっている恐れがあります。

◆上安産廃処分場 ── 不適切盛り土発覚、グローバル企業が買収

上安産廃処分場(https://equisenv.co.jp/facility/)は、上記JAB協同組合が1990年代末に設置したものです。その後、外資系グローバル企業エクイスが買収し、大幅拡張して現在に至っています。埋立容量2,146,901立方メートル 埋立面積114,601㎡

同社は福島県飯館村と上記広島市安佐南区上安に巨大な産廃処分場を所有。540億円もの投資を行っています。この上安産廃処分場は実は、地番を変えるなどのセコイ手法で保安林を勝手に伐採した上に、不適切な盛り土を行った上にできています。この上安産廃処分場については、前出の三原本郷産廃処分場問題が持ち上がった際、JAB協同組合について調べるために三原市民が独自に調査に行きました。その際に、汚染水が流出していることが発覚。広島市などに報告した経緯があります。

それまでは、広島市の行政はこの上安処分場について放置プレイだったのです。排水については一応是正の対応は取られたことになってはいます。しかし、不適切な盛り土の上である以上、いつ大雨災害で熱海のようなことになるかわからない状況です。なお、産廃処分場の設置許可は広島市内については政令市たる市当局が担当しています。一方、盛り土の規制は県が担当していたため、連携が取れていなかったという問題も指摘されています。

◆人口流出3年連続ワーストワンに追い打ち

広島県は2021年から3年連続で人口流出(転出超過)ワーストワンです。元々、広島県民は、18歳や22歳で大学進学や就職のために東京などへ行く傾向は強くあります。若い時は東京の有名大学や有名企業を目指す。ただ、30代、40代、50代で、「ゆったり子育てをしたい」とか「農業をしながらITや工芸などの自営業をしたい」などの思いで戻って来られる方も多くおられます。そのバランスで、コロナ禍前まではそこまでの人口流出にはなっていませんでした。しかし、いまや、10代20代だけではなく、男性の50代や70代以上を除くほぼすべての年齢階層、性別で転出超過になっています。

もちろん、広島県の産業構造として、特に若い女性に人気のIT関連の産業が弱いなどの問題はあります。しかし、Uターン組の不安要素にこの産廃問題がなっていることも無視はできないのではないでしょうか? 表立って口には出さなくとも、産廃が流入し放題の故郷に誰が帰りたいでしょうか? そんな故郷なら、「少々しんどくても東京でいいや」と思う人も多いのではないでしょうか?

実際に、三原本郷産廃処分場近くでも、Uターンをあきらめた人が出ているということです。三原本郷産廃処分場は氷山の一角です。筆者も、妻の親の実家がある地域で農業でもやろうかな、と考えたことがあります。しかし、「あそこは産廃処分場があるから農業を始めるのは止めた方がいいよ」と親族から止められました。

◆ゴミは流入、ヒトは流出から卒業を!

歴史的な経緯から、大昔から広島の産廃行政は緩いことで有名でした。昔はそれで済んだのかもしれません。しかし、いまは、他の都道府県が産廃処分場の設置について独自の条例などで規制をする。廃掃法の運用についても抜き打ち検査など厳しくするなどしています。広島県だけが、その中で取り残されていれば、広島に産廃が流入するのは当然です。

広島県は「広島料理や食材のPR」を2024年度の県政の大きな柱としています。それは結構なことですが、足元の水を悪質な産廃から守れないのに、食材のPRだけしてどうするのか? 問われます。

三原本郷産廃処分場については、
・県は汚染水の実態を調査し、被害を救済する。
・県は控訴を取り下げ、産廃処分場の設置許可を取り消す
・県が処分場の土地を買い取り、原状回復する。とともに、再発を防止するため、
・他都道府県に倣った水源保護条例を制定する。といった対応が今後必要です。

他県の方からは、
「なぜ、平和都市広島がこんなことになっているのか?!」
「なぜ、広島がこんな形で外資に狙われているのか?」
などとご質問をいただきました。  

筆者は、
「端的に言って県も市も、広島の政治が腐りきっているからです」
「国政の与党はもちろん、野党でも与党以上に知事や市長とずぶずぶのところがある始末だ」
「湯崎英彦知事も軸足は日本人と言うよりはほとんど米国人で外資ズブズブの方。素晴らしいのは平和宣言だけ」
「県民もカープやサンフレに夢中なのはいいけど、投票率が全国でも40位台と低いのはいかがなものか?」
とお答えするしかありませんでした。それ以上でもそれ以下でもないからです。
 
前日には平岡敬・元広島市長が「広島が広島でなくなっている」と市政の腐敗について糾弾されました。
 
わたしは「いかに、広島が腐っているか、よーく皆さんお分かりになったと思います。わたしはカープが好きだし、広島は心から愛していますが、政治が腐りきっているという意味では、広島を心から憎んでいます」とお話しをしました。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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