◆1.2. ガラス固化体の発熱量

NUMOは、30~50年冷却したガラス固化体を再処理工場内でオーバーパックに格納し、20~28本のオーバーパックを専用キャスク(専用の容器)に入れて地層処分施設に搬送する、といっています。キャスクの重量は約100トンになりますが、約100トンの重量物を搭載した運搬車は公道を走ることができません。そこで、地層処分施設に近い沿岸に専用港を建設し、専用の運搬船にオーバーパックを入れた専用キャスクを載せ、専用港まで輸送します。そして、専用港から地層処分施設までの間を専用道路でつなぎ、専用の運搬車が地層処分施設まで搬送します。

地層処分施設は、地上施設と地下施設に分かれています。地上施設は、敷地が1~2平方㎞の「工場」です。専用運搬車は、[図3]のように、時速10㎞前後の速度で地上施設に向かいます(専用運搬車の速度は、時速10㎞前後が限度でしょう。約100トンの重量物を搭載しているので、時速20㎞以上の速度を出すと運転手がブレーキを踏んでも止まらないと思います)。

[図3]

専用運搬車が専用キャスクを搬送した後、地上施設内で専用キャスクからオーバーパックを取り出し、緩衝材で包みます。緩衝材は砂状の粘土で、「ベントナイト」と呼んでいます。

ベントナイトは水を吸収すると固まります。NUMOは、ベントナイトをつくる緩衝材を「人工バリア」と呼んでいます。人工バリアは長さ約310cm、直径約220cm、重量約17.5トンの円筒で、NUMOは、人工バリアの耐用年数は1万年であると豪語しています。

[図4]は、ガラス固化体とオーバーパック、人工バリアのイメージです。NUMOは、ガラス固化体の放射能は8000年後に天然ウランと同程度なる、人工バリアの耐用年数は1万年なので、ガラス固化体の地層処分は安全である、といっています。

[図4]

ところで、ストロンチウム90の放射能半減期は約30年で、発熱量は1kgあたり460ワットです(この値は実測値です。セシウム137の崩壊熱はストロンチウム90の約2倍ですが、発熱量の実測値はわかりません)。

NUMOは、製造直後のガラス固化体の発熱量は1体あたり約2300ワットで、30~50年後に350ワット以下になるといっています。しかし、ガラス固化体1体あたりのストロンチウム90の量は、1kgくらいあるかもしれません。その場合、30年後のガラス固化体の発熱量は、ストロンチウム90だけで1体あたり約230ワットになります。つまり、30年後や50年後のガラス固化体の発熱量の約半分が、ストロンチウム90の発熱量になってしまいます。

(セシウム137の崩壊熱はストロンチウム90の約2倍です。30~50年後のガラス固化体の発熱量が1体あたり350ワット以下になるとは考えにくいですね。NUMOは、意図的に、ガラス固化体が含むストロンチウム90とセシウム137の量=推定値を減らしているように思います。余談ですが、プルトニウム238の放射能半減期は約88年で、発熱量の実測値は1kgあたり540ワットです。NUMOは、ガラス固化体はプルトニウム238を含んでいない、含んでいるとしてもわずかであると述べていますが、プルトニウム238を0.1kg含んでいるだけでも、30~50年後のガラス固化体の発熱量は、1体あたり350ワット以下にならないでしょう)

僕は、経産省資源エネルギー庁とNUMOが開催した説明会で、「ベントナイトは、水を吸収すると固まりますが、水を失うと砂に戻りますね。30~50年後のガラス固化体の発熱量が350ワット以下になるとは考えにくいので、ベントナイトは、ガラス固化体の発熱で水分を失うかもしれません。ベントナイトは、1年以内に砂に戻ってしまうのではありませんか。つまり、人工バリアの耐用年数は、推定1万年ではなく、推定1年です」といいました。

NUMOの職員らしき説明員が、血相を変えて、「ガラス固化体は、発熱量が350ワット以下になってからオーバーパックに入れます。人工バリアが1年で壊れることはありません」といいました。

そこで僕は、「ガラス固化体の発熱が無視できるくらい小さいとしても、地温を無視できないですね。経産省資源エネルギー庁とNUMOが考える地温の上限は45℃ですか?」と質問しました。説明員は、「地温の上限は60℃です」と答えました。

◆1.3. 地温問題と黒部川第三発電所

地下の温度=地温は、地下の深さに比例して上昇します。地下100mあたりの地温上昇を地温勾配と呼んでいますが、NUMOは、地温勾配の想定値を15℃にしています(ふつう、地温勾配の想定値は17~18℃ですけど!)。

国会が制定した「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(以後、「最終処分法」と呼びます)」にしたがえば、ガラス固化体は300m以深の地下に埋設しなければなりません。僕が、「地温の上限は45℃ですか?」と質問したのは、地温勾配の想定値が15℃の場合、地下300mの地温が45℃になるからです。説明員が「60℃です」と答えたのは、ガラス固化体を地下300~400mに埋設するつもりでいるからでしょう。

疑問がいくつか浮かびます。まず、ベントナイトは、地温が60℃以下であれば、砂に戻ることはないのか、という疑問です。次に、地下300~400mの地温は、本当に60℃以下なのか、という疑問です。

戦前の日本は、国家総動員法の下で黒部川第三発電所の施工を強行しました。ダムを建設するための資材を運ぶためのトンネルを、山の中腹に掘る必要が生じました。当初、山の中腹の岩盤温は約65℃でしたが、掘削を開始してから約10か月後に100℃を超え、166℃になります。そして、トンネルの掘削で使用するダイナマイトが自然発火します。黒部川第三発電所の施工期間は1936~1940年で、約300名の尊い人命を事故で失いました。

(堀内節子さんが、「黒三ダムと朝鮮人労働者(桂書房)」で、当時の様子を詳しく書いておられます。関心のある方は、堀内さんの著書を一読してください。ちなみに、黒部川流域(富山県東部)の温泉水の水温は98℃以上、黒部峡谷から遠く離れている庄川流域(富山県西部)の温泉水の水温は57℃以上です)

黒部川第三発電所の経験から、地下300~400mであれば地温が60℃以下になるなどということは、断言できません。富山県のような地域では、ガラス固化体を格納したオーバーパックを覆うベントナイトは、乾燥して崩れ、地震や火山が勃発した場面で破損し、高レベル放射性廃棄物が外部に流出するでしょう。

その後NUMOは、地温勾配が2~3℃の地域を探し出して地層処分するなどといいはじめ、説明会で配布する資料(「科学的特性マップ」の説明資料)に、「例えば処分深度が500mの場合の地温勾配の基準は約9℃/100mとなる」などと記載したりします。NUMOのご都合に応じて、地球が地温勾配を約9℃に下げてくれるのでしょうか。僕は論争を試みましたが、「文献調査をすればわかることです」などといわれ、はぐらかされてしまいました。(つづく)

◎平宮康広 僕が放射性廃棄物の地層処分に反対する理由(全7回連載)
〈1〉日本原燃が再処理工場を新設する可能性
〈2〉ガラス固化体の発熱量は無視できても、地温は無視できない

▼平宮康広(ひらみや・やすひろ)
1955年生まれ。元技術者。オールドウェーブの一員として原発反対運動に参加している。富山県在住。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年夏・秋合併号《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

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『季節』2024年夏・秋合併号(NO NUKES voice 改題)
A5判 148ページ 定価880円(税込み)

《グラビア》
「幻の珠洲原発」建設予定地 岩盤隆起4メートルの驚愕(写真=北野 進
「さよなら!志賀原発」金沢集会(写真=Kouji Nakazawa

《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 原子力からこの国が撤退できない理由

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 なぜ日本は原発をやめなければならないのか

《報告》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
 事実を知り、それを人々に伝える

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 核武装に執着する者たち

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
 課題は放置されたまま

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
 原発被害の本質を知る

《インタビュー》北野 進(「志賀原発を廃炉に!訴訟」原告団団長)
 珠洲原発・建設阻止の闘いは、民主主義を勝ち取っていく闘いだった

《対談》鎌田 慧(ルポライター)×柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
 東京圏の反原発 ── これまでとこれから

《報告》今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
「核融合発電」蜃気楼に足が生え

※          ※          ※

《回想》松岡利康(鹿砦社代表)
 創刊から10周年を迎えるまでの想い出

《墓碑銘》松岡利康(鹿砦社代表)
 お世話になりながら途上で亡くなった方への追悼記

《季節創刊10周年応援メッセージ》

 菅 直人(衆議院議員・元内閣総理大臣)
 守りに入らず攻めの雑誌を

 中村敦夫(作家・俳優)
 混乱とチャンス  

 中嶌哲演(明通寺住職)
「立地地元」と「消費地元」の連帯で〈犠牲のシステム〉を終わらせる

 水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
『季節』丸の漕ぎ手をふやして、一刻も早く脱原発社会を実現しよう

 山崎隆敏(元越前市議)
「核のゴミ」をこれ以上増やさないために

 今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
 裁判も出版も「継続は力なり」

 あらかぶ(「福島原発被ばく労災損害賠償裁判」原告)
 隠された「被ばく労働」問題を追及し、報じてほしい

※          ※          ※

《報告》なすび(被ばく労働を考えるネットワーク)
《検証》あらかぶさん裁判 原発被ばく労働の本質的問題 

《報告》北村敏泰(ジャーナリスト)
 棄民の呻きを聞け 福島第一原発事故被害地から

《講演》和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
「復興利権」のメガ拠点 「福島イノベーション・コースト構想」の内実〈前編〉

《報告》平宮康広(元技術者)
 水冷コンビナートの提案〈1〉

《報告》原田弘三(翻訳者)
 COP28・原発をめぐる二つの動き
「原発三倍化宣言」と「気候変動対策のための原発推進」合意

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
 総裁選より、政権交代だ

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
   タイガー・ジェット・シンに勲章! 問われる悪役の存在意義

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
   山田悦子の語る世界〈24〉
   甲山事件50年を迎えるにあたり
   誰にでも起こりうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか(下)

《報告》大今 歩(高校講師・農業)
   洋上風力発電を問う 秋本議員収賄事件を受けて

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
 時代遅れの「原発依存社会」から決別を!
 政府と電力各社が画策する再稼働推進の強行をくい止める

《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
 6・9大阪「とめよう!原発依存社会への暴走大集会」に1400人超が結集

《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
 女川原発の再稼働はあり得ない 福島事故を忘れたのか

《福島》黒田節子(請戸川河口テントひろば共同代表)
 浪江町「請戸川河口テントひろば・学ぶ会」で
 北茨城市大津漁協裁判で闘う永山さんと鈴木さんの話を聞く

《柏崎刈羽原発》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 7号機再稼働で惨劇が起きる前に、すべての原発を止めよう!

《首都圏》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
 福島原発事故の責任もとれない東京電力に
 柏崎刈羽原発を動かす資格はない!

《浜岡原発》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
 静岡県知事と御前崎市長が交代して
「一番危険な原発」はどうなるか

《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
 政治に忖度し、島根原発2号機運転差止請求を却下
 それでも私たちは諦めない!

《玄海原発》石丸初美(玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会)
 玄海町「高レベル放射性廃棄物・最終処分場に関する文献調査」受入!

《川内原発》向原祥隆(反原発・かごしまネット代表)
 私たちは歩み続ける

《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
 原子力規制委員会を責め続けて11年
 原子力規制委員会は、再稼動推進委員会・被曝強要委員会

《反原発川柳》乱鬼龍

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龍一郎揮毫

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