◆2.1. 地下水と化石水の問題 富山市内の5つの温泉施設
経産省資源エネルギー庁とNUMOは、富山県で、地層処分に関する最初の説明会を開催しました。彼らは、高校生をアルバイトで雇い、サクラに仕立てて説明会を盛り上げます。この説明会に出席した多くの富山県民が、経産省資源エネルギー庁とNUMOは、富山県内で高レベル放射性廃棄物=ガラス固化体とTRU廃棄物を地層処分するつもりでいる、と思いました(高校生をアルバイトで雇い、サクラに仕立てる彼らの反社会性にも怒りましたけど!)。
しかし、地層処分はどのようなものなのか、具体像がよくわかりませんでした。そこで、先日亡くなられた原子力資料情報室共同代表の伴英幸さんや、大学で核物理学を教えている教授等を招いて、地層処分を詳しく知るためのセミナーを高岡市で開催しました。その後、僕は僕なりの勉強をはじめたのですが、ガラス固化体とTRU廃棄物の地層処分は、現実を無視した無謀な計画であること、にもかかわらず、不勉強な経産省資源エネルギー庁とNUMOは、専門家のふりをして計画を無理やり推進している、と思うようになりました。
経産省資源エネルギー庁とNUMOは、すでに述べた地熱の問題を深く考えていません。そして、地層の深さや、地下水と化石水の問題をまったく考えていません。[表3]は、文科省地震調査研究推進本部が開示した、富山市内の5つの温泉施設のボーリング調査結果です。
温泉水は化石水の一種で、水脈が地上付近にまで上昇している場合もありますが、ふつう、岩盤付近に滞水しています。したがって、岩盤内にガラス固化体とTRU廃棄物を地層処分するのであれば、温泉井戸の深さが建設する地下施設の深さの目安になりますが、富山市の5つの温泉井戸はかなり深いですね。表3の孔底深度は、温泉井戸の深さです。すべて1200m以上あります。
([表3]は、これまで本誌に寄稿した原稿に何度か記載したので、ご存じの読者も多いと思います。僕は。経産省資源エネルギー庁とNUMOが富山県で開催した4回目の説明会で、温泉井戸の孔底深度を指摘して質問しました。経産省資源エネルギー庁とNUMOは、地下1200m以深に地下施設を建設するつもりでいるのか、その場合、坑道の全長は何㎞になるのか、あるいは、300m以深であれば合法であると判断し、泥岩層内で地下施設を建設するつもりでいるのか、その場合でも、「泥岩層も花崗岩層と同様な天然バリアである。ガラス固化体を10万年保管できる」などというつもりなのか、等々の質問をしました。彼らは無言でした。文科省地震調査研究推進本部が開示したデータを元にして質問したので、「文献調査をすればわかることです」などということも、できなかったと思います)
◆2.2. 大惨事
他にも大きな問題があります。富山市の5つの温泉井戸は、もっとも浅い場合でも、礫層深度が150mです。これは、富山平野が扇状平野であるからともいえますが、とはいえ日本の地層は沖積層です。ヨーロッパのような洪積層ではありません。富山平野の礫層だけが、例外的に深いわけではありません。日本の地層の礫層深度は、たいがい100m以上あると考えてよいと思います。そして、礫層内の地下水の流れ(以後、「地下水系」と呼びます)が立体交差している場合があります。しかし、NUMOは、ヨーロッパの廃炉処分等を参照して、礫層の想定深度を30~50mにしているように思います。経産省資源エネルギー庁とNUMOは不勉強、というしかありません。
(富山県には、地下水学会の会員が大勢おられます。中学や高校で理科の先生をしておられた方が多いですね。僕は、何名かの方に、地下水学会は礫層内を流れる地下水系を把握しているのですか、と質問したことがあります。みなさん、地下水系の把握は技術的に無理、立体交差している場合は当然あるが、把握なんてできない、とおっしゃいました。礫層内を流れる地下水系の把握は、断層を把握する以上にむずかしいことのようです)
日本の地層は礫層深度が深く、しかも日本の年間降雨水量はヨーロッパの約2倍です。人工バリアで包んだオーバーパックとTRU廃棄物を地層処分する場合、礫層内を流れる地下水系が大きな問題になりそうですが、経産省資源エネルギー庁とNUMOが説明会で配布した資料を読む限り、彼らはまったく無頓着です。「岩盤内に埋設する、岩盤内に埋設する」といいながら、僕が地下水問題を指摘しても、温泉井戸の孔底深度に言及しないで、礫層の地下水を汲み上げる井戸(「ふつう」の井戸)の孔底深度に言及し、方向を見失った発言を繰り返すだけです。
経産省資源エネルギー庁とNUMOの思惑(あるいは希望的観測)がどうあれ、人工バリアで包んだオーバーパックとTRU廃棄物を岩盤内=花崗岩層内に埋設する場合、少なく見積もっても、地下500~750m以深の地層処分になりそうです。他方、50年の工事期間中に礫層内の地下水が浸水し、それまで埋設した人工バリアで包んだオーバーパックとTRU廃棄物が水没する危険を想定して、水没を防ぐ対策を考えなければなりません。
礫層内の地下水系は、年間10~20m移動します。地震が勃発した場合、より大きく移動します。また、豪雨や豪雪後、新しい地下水系が生じる場合があります。そして、地下水系が坑道の壁を突き破り、坑道に水が流れ込む場面があり得ます。NUMOは、そのような場面では、クラッキング工事で対処するというのですが、クラッキング工事は道路のトンネル内で漏水等が生じた場面で施す工事です。しかし、トンネルは「横坑」です。地上施設と地下施設を結ぶ坑道は「立坑」です。地下水系の水流のパワーはかなり強く、クラッキング工事で岩盤水等の浸水を阻止することができても、地下水の流入を阻止することはできません。
すでに述べましたが、礫層内の地下水が流れ込めば、短時間で地下施設と坑道が満水状態になり、地上施設に水が溢れ出ます。そして、人工バリアで包んだオーバーパックとTRU廃棄物が水没します。フランスのビュール県でしたら、水没する前に地上に引き上げることができるかもしれませんが、日本の場合、全長200~300㎞(あるいは500㎞以上)のらせん状の坑道で地上施設と地下施設をつないでいるので、引き上げることができません。その後、人工バリアで包んだオーバーパックとTRU廃棄物に50~75気圧(ひょっとして100気圧以上)の圧力がかかります。
当然、TRU廃棄物を詰め込んだドラム缶は潰れますが、NUMOが、耐用年数1000年と豪語するガラス固化体を格納したオーバーパックも潰れるでしょう。地下施設と坑道内の水が放射能汚染水になり、地上施設に溢れます。そして、地下水系が放射能汚染水系になり、放射能汚染水が海に流出します。
[図7]は、地下水系が坑道の壁を突き破り、水が地下施設に流れ込む場面のイメージです。
[図8]は、地下施設に埋設した高レベル放射性廃棄物=ガラス固化体とTRU廃棄物が破損した場面のイメージです。
大惨事ですが、経産省資源エネルギー庁とNUMOは憂慮していないですね。だから、彼らは地下水の勉強もしていません。(つづく)
◎平宮康広 僕が放射性廃棄物の地層処分に反対する理由(全7回連載)
〈1〉日本原燃が再処理工場を新設する可能性
〈2〉ガラス固化体の発熱量は無視できても、地温は無視できない
〈3〉NUMOがいう地下300m以深の「岩盤」は、本当に「天然のバリア」なのか
〈4〉ガラス固化体以外の廃棄物が低レベル放射性廃棄物であるとの考えは、乱暴すぎる
〈5〉地震や豪雨・豪雪で地下水系は大きく変わる
▼平宮康広(ひらみや・やすひろ)
1955年生まれ。元技術者。オールドウェーブの一員として原発反対運動に参加している。富山県在住。
『季節』2024年夏・秋合併号(NO NUKES voice 改題)
A5判 148ページ 定価880円(税込み)
《グラビア》
「幻の珠洲原発」建設予定地 岩盤隆起4メートルの驚愕(写真=北野 進)
「さよなら!志賀原発」金沢集会(写真=Kouji Nakazawa)
《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか
《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
原子力からこの国が撤退できない理由
《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
なぜ日本は原発をやめなければならないのか
《報告》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
事実を知り、それを人々に伝える
《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
核武装に執着する者たち
《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
課題は放置されたまま
《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発被害の本質を知る
《インタビュー》北野 進(「志賀原発を廃炉に!訴訟」原告団団長)
珠洲原発・建設阻止の闘いは、民主主義を勝ち取っていく闘いだった
《対談》鎌田 慧(ルポライター)×柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
東京圏の反原発 ── これまでとこれから
《報告》今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
「核融合発電」蜃気楼に足が生え
※ ※ ※
《回想》松岡利康(鹿砦社代表)
創刊から10周年を迎えるまでの想い出
《墓碑銘》松岡利康(鹿砦社代表)
お世話になりながら途上で亡くなった方への追悼記
《季節創刊10周年応援メッセージ》
菅 直人(衆議院議員・元内閣総理大臣)
守りに入らず攻めの雑誌を
中村敦夫(作家・俳優)
混乱とチャンス
中嶌哲演(明通寺住職)
「立地地元」と「消費地元」の連帯で〈犠牲のシステム〉を終わらせる
水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
『季節』丸の漕ぎ手をふやして、一刻も早く脱原発社会を実現しよう
山崎隆敏(元越前市議)
「核のゴミ」をこれ以上増やさないために
今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
裁判も出版も「継続は力なり」
あらかぶ(「福島原発被ばく労災損害賠償裁判」原告)
隠された「被ばく労働」問題を追及し、報じてほしい
※ ※ ※
《報告》なすび(被ばく労働を考えるネットワーク)
《検証》あらかぶさん裁判 原発被ばく労働の本質的問題
《報告》北村敏泰(ジャーナリスト)
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COP28・原発をめぐる二つの動き
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