僕が放射性廃棄物の地層処分に反対する理由〈6〉寿都町も神恵内村も玄海町も、その岩盤層は地層処分に適さない 平宮康広(元技術者)

◆2.3. 寿都温泉(ゆべつの湯)と玄海海上温泉パレア

僕は、すでに述べた地熱の問題、地層の深さや地下水の問題を経産省資源エネルギー庁とNUMOが開催した説明会で何度も指摘したのですが、彼らの無知と不勉強に呆れました。後日、自民党富山県連の政調会長が、「経産省資源エネルギー庁とNUMOはバカと詐欺師の集まりか!」といったと知り、少し安堵しました。高レベル放射性廃棄物=ガラス固化体とTRU廃棄物を富山県内で地層処分する計画は、なくなったかもしれません。

しかし、その後経産省資源エネルギー庁とNUMOは、北海道での地層処分を計画し、寿都町と神恵内村で文献調査をはじめました。さらに佐賀県の玄海町でも文献調査をはじめようとしています。僕には、寿都町も神恵内村も、地層の深さや地下水の問題は富山市と同様であるように思えます。また、玄海町は、地下水の問題もあるでしょうが、岩盤層がかなり高温で、地層処分は無謀であると考えます(僕は、本稿の内容は、地層処分に反対しておられる北海道や佐賀県のみなさんに役立つ内容になっていると自負しています。大いに活用してください)。

北海道寿都町には、寿都温泉(ゆべつの湯)という町営温泉施設があります。寿都温泉は、小泉元首相が原発に反対する講演をした、記念すべき場所でもあるのですが、ひょっとして、寿都温泉の温泉水は、日本のどの温泉施設よりも良質な温泉水かもしれません。[表4]は、寿都温泉の温泉水の水質です。

[表4]

寿都温泉の温泉水の水質は弱アルカリ性ですが、1リットルあたりの塩素イオンが10550.0mg、ナトリウムイオンが4125.0mgです。そして、硫酸イオンが1195.0mg、カルシウムイオンが2428.1mgです。塩化ナトリウム=塩と硫酸カルシウムが混ざっていることが、「名湯」の条件ですが、これほど多量の塩化ナトリウム=塩と硫酸カルシウムが混ざり合っている温泉水は他にないと思います。寿都温泉の温泉水の水質は弱アルカリ性ですが、アルカリ性温泉水の効用があり、酸性温泉水の効用もあります。

むろん、ここで重視すべきことは寿都町の地層です。[表3]の富山市内の5つの温泉施設のうち、城南温泉病院の礫層下位層に「八尾塁層」、今泉温泉病院の礫層下位層に「シルト混じり砂互層」という記載があります。どちらも火山灰です。すなわち、過去は海で、火山灰が降り注いで陸地になった地域です。寿都町の地層は不明ですが、寿都温泉の温泉水は多量の塩化ナトリウム=塩と硫酸カルシウムを含んでいます。したがって、寿都町も過去は海で、火山灰が降り注いで陸地になったと考えることができます。

[表3]

寿都温泉の温泉井戸の孔底深度は不明ですが、寿都町の岩盤=花崗岩層は、おそらく500~750m以深でしょう。しかしNUMOは、文献調査と称して寿都町の地理を調べたように思いますが、不勉強な彼らが寿都町の岩盤=花崗岩層は500~750m以深であると認識する場面はおそらくないと思います。

ちなみに、神恵内村にも町営の温泉施設があります。温泉水の水質や温泉井戸の孔底深度はわかりませんが、神恵内村の岩盤=花崗岩層もおそらく500~750m以深であると思います。

鈴木直道北海道知事も反対しておられるので、NUMOが、岩盤=花崗岩層が500~750m以深の寿都町や神恵内村で高レベル放射性廃棄物=ガラス固化体とTRU廃棄物を地層処分する場面はないと思います。しかし、NUMOが文献調査をはじめようとしている、佐賀県の玄海町はどうでしょうか。

玄海町には原発があます。山口祥義佐賀県知事は反対していますが、経産省資源エネルギー庁とNUMOは、原発立地地域のほうが地層処分の同意を得やすい、と考えているかもしれません。しかし、原発がなくても、玄海町での地層処分は無謀です。
玄海町に、玄海海上温泉パレアという温泉施設があります。玄海海上温泉パレアの温泉水の水温や水質、温泉井戸の孔底深度はわかりませんでしたが、隣接する唐津市の呼子台場の湯の温泉水はラジウム泉です。ラジウムの融点は696℃です。唐津市の岩盤層はかなりの高温で、玄海町の岩盤層も同様であると考えます。(つづく)

◎平宮康広 僕が放射性廃棄物の地層処分に反対する理由(全7回連載)
〈1〉日本原燃が再処理工場を新設する可能性
〈2〉ガラス固化体の発熱量は無視できても、地温は無視できない
〈3〉NUMOがいう地下300m以深の「岩盤」は、本当に「天然のバリア」なのか
〈4〉ガラス固化体以外の廃棄物が低レベル放射性廃棄物であるとの考えは、乱暴すぎる 
〈5〉地震や豪雨・豪雪で地下水系は大きく変わる
〈6〉寿都町も神恵内村も玄海町も、その岩盤層は地層処分に適さない

▼平宮康広(ひらみや・やすひろ)
1955年生まれ。元技術者。オールドウェーブの一員として原発反対運動に参加している。富山県在住。

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『季節』2024年夏・秋合併号(NO NUKES voice 改題)
A5判 148ページ 定価880円(税込み)

《グラビア》
「幻の珠洲原発」建設予定地 岩盤隆起4メートルの驚愕(写真=北野 進
「さよなら!志賀原発」金沢集会(写真=Kouji Nakazawa

《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 原子力からこの国が撤退できない理由

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 なぜ日本は原発をやめなければならないのか

《報告》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
 事実を知り、それを人々に伝える

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 核武装に執着する者たち

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
 課題は放置されたまま

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
 原発被害の本質を知る

《インタビュー》北野 進(「志賀原発を廃炉に!訴訟」原告団団長)
 珠洲原発・建設阻止の闘いは、民主主義を勝ち取っていく闘いだった

《対談》鎌田 慧(ルポライター)×柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
 東京圏の反原発 ── これまでとこれから

《報告》今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
「核融合発電」蜃気楼に足が生え

※          ※          ※

《回想》松岡利康(鹿砦社代表)
 創刊から10周年を迎えるまでの想い出

《墓碑銘》松岡利康(鹿砦社代表)
 お世話になりながら途上で亡くなった方への追悼記

《季節創刊10周年応援メッセージ》

 菅 直人(衆議院議員・元内閣総理大臣)
 守りに入らず攻めの雑誌を

 中村敦夫(作家・俳優)
 混乱とチャンス  

 中嶌哲演(明通寺住職)
「立地地元」と「消費地元」の連帯で〈犠牲のシステム〉を終わらせる

 水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
『季節』丸の漕ぎ手をふやして、一刻も早く脱原発社会を実現しよう

 山崎隆敏(元越前市議)
「核のゴミ」をこれ以上増やさないために

 今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
 裁判も出版も「継続は力なり」

 あらかぶ(「福島原発被ばく労災損害賠償裁判」原告)
 隠された「被ばく労働」問題を追及し、報じてほしい

※          ※          ※

《報告》なすび(被ばく労働を考えるネットワーク)
《検証》あらかぶさん裁判 原発被ばく労働の本質的問題 

《報告》北村敏泰(ジャーナリスト)
 棄民の呻きを聞け 福島第一原発事故被害地から

《講演》和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
「復興利権」のメガ拠点 「福島イノベーション・コースト構想」の内実〈前編〉

《報告》平宮康広(元技術者)
 水冷コンビナートの提案〈1〉

《報告》原田弘三(翻訳者)
 COP28・原発をめぐる二つの動き
「原発三倍化宣言」と「気候変動対策のための原発推進」合意

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
 総裁選より、政権交代だ

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
   タイガー・ジェット・シンに勲章! 問われる悪役の存在意義

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
   山田悦子の語る世界〈24〉
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   誰にでも起こりうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか(下)

《報告》大今 歩(高校講師・農業)
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《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
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 政府と電力各社が画策する再稼働推進の強行をくい止める

《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
 6・9大阪「とめよう!原発依存社会への暴走大集会」に1400人超が結集

《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
 女川原発の再稼働はあり得ない 福島事故を忘れたのか

《福島》黒田節子(請戸川河口テントひろば共同代表)
 浪江町「請戸川河口テントひろば・学ぶ会」で
 北茨城市大津漁協裁判で闘う永山さんと鈴木さんの話を聞く

《柏崎刈羽原発》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 7号機再稼働で惨劇が起きる前に、すべての原発を止めよう!

《首都圏》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
 福島原発事故の責任もとれない東京電力に
 柏崎刈羽原発を動かす資格はない!

《浜岡原発》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
 静岡県知事と御前崎市長が交代して
「一番危険な原発」はどうなるか

《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
 政治に忖度し、島根原発2号機運転差止請求を却下
 それでも私たちは諦めない!

《玄海原発》石丸初美(玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会)
 玄海町「高レベル放射性廃棄物・最終処分場に関する文献調査」受入!

《川内原発》向原祥隆(反原発・かごしまネット代表)
 私たちは歩み続ける

《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
 原子力規制委員会を責め続けて11年
 原子力規制委員会は、再稼動推進委員会・被曝強要委員会

《反原発川柳》乱鬼龍

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◎鹿砦社 https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000748

龍一郎揮毫
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