ハンセン病、薬害エイズ被害患者の救済から飯塚事件などの冤罪訴訟まで、常に弱者の立場に立ち、法廷で声なき声を代弁してきた徳田靖之(とくだ・やすゆき)弁護士 ──。「6・5 飯塚事件『不当決定』を許さない」と題された9月14日大阪講演の記録を全6回連載で報告する。(企画・構成=尾﨑美代子)
◆飯塚事件の再審を勝ち取ることの意義
私たちは今、福岡高裁で即日抗告審を闘っています。ここで今、Оさんの初期供述をだせという証拠開示の闘いを挑んでいるわけですが、これまでの闘いで私たちが体験していることからいうと、真犯人を特定しない限り再審の扉は開かないのではないかと思っています。
そういう私たちに、実は、ある刑務所で服役している人から、彼が以前の事件で服役中に、同房になった男から「自分が飯塚事件をやってしまった」という告白を聞いたという情報が寄せられています。これはまだ私たちがその証言の信用性を固めていくということをやっていかなくてはならない。しかし、なかなか固めるということは難しいという、そういうレベルの段階ですが。
ただ、私たちがこの飯塚事件をやっていて確信に近い思いをもっているのは、私たちが一生懸命闘っている過程に、新しい証拠、新しい道がどんどん開いていくわけです。第一次再審請求がだめだったときに、木村さんが現れる、Оさんが現れる、そして第二次再審の壁が塞がれたとき、新たな道が開かれている。つまりこの飯塚事件というのは、時間が経てば経つほど、久間さんが犯人でないという確信を、この事件にかかわる人たちにもたらせている、そんなようになるわけです。
飯塚事件こそ、死刑制度の根幹を改めて問うという、飯塚事件の罪の深さを改めて私たちが考えるときにおいても、この飯塚事件の再審を勝ち取ることは、とても大きな意義があるのではないかと考えています。
◆再審法の規定を変えなくてはならない
その飯塚事件の再審を勝ち取るためにも、何を今一番にやらなければならないと思っているか。それは、再審法の規定を変えなくてはならないということです。日本の再審法は大正11年(1922年)に作られた旧刑事訴訟法の規定がそのまま残されています。戦後、変えられたのはたった一点、検察官には再審請求権がない、この一点だけです。
戦後、刑事訴訟法は改定されましたが、時間がなかったからという理由で、再審規定だけはそのままだった。いずれ改めて検討するという国会での議事録が残されていますが、手つかずのままでした。
それが何をもたらしているかというと、特に2つの大きな害悪をもたらしている。1つは証拠開示規定がないということです。刑事訴訟法は改正されましたので、今は、検察官は手持ちの証拠を開示しなくてはならないとなっている。
しかし、再審事件に関してはこの規定がありません。ですから検察官は、再審請求に関して、本当は真犯人ではないかという証拠があっても出す義務がないんです。捜査というのは、誰が犯人だろうかということで、いろんな証拠を集めていくわけです。その人を犯人にしていくための証拠と、その人が犯人でないという証拠をふりわけていくわけです。その人が犯人だという証拠だけを集めて裁判に提出するというのが捜査のやり方です。だから、彼が犯人でないという証拠は眠っているわけです。再審請求では、その眠っている証拠を出させることがとても大事なわけです。
でも日本の刑事訴訟法には、再審請求のときは証拠開示権が提示されていない。これを何が何でもかえなくてはならない。大崎事件でも狭山事件でも、隠されていた証拠が少しずつ開示されていくなかで、無実が明らかになっていくという経過をたどっています。飯塚事件で新証拠が開示されれば、間違いなく久間さんは無実だと明らかになると確信しています。
もう一つ、日本の再審制度で決定的に問題なのは、再審開始決定がでたあとに、検察官が不服申し立てできることです。このために、袴田さんは何十年も苦労してきた。大崎事件もそうです。何度も再審開始決定がでたが、検察官が即時抗告し、また再審開始が取り消されるということがおこっている。
この2つの問題を早急に改めさせることが急務になっています。まもなく袴田さんの再審無罪判決がでます。これをきっかけに、私たちは全力をあげて、日本の再審制度を変えていかなければいけないと思っていますし、それが変われば飯塚事件は死刑執行という厚い壁をこえて、間違いなく再審開始になるだろうと私たちは確信をしております。
すみません。お話しするたびに怒りが沸いてきまして、とりとめのない話になってしまいましたが、以上で私からのご報告とさせていただきたいと思います。どうぞ、これからも飯塚事件にご支援をお願いしたいと思います。ありがとうございました。(完)
◎徳田靖之弁護士講演会 6月5日飯塚事件「不当決定」を許さない(2024年9月14日 大阪浪速区大国 社会福祉法人ピースクラブにて)
◎《講演》徳田靖之弁護士・声なき声を聞く ── 飯塚事件再審[全6回連載](構成=尾﨑美代子)
〈1〉弁護士として、自ら犯してしまった過ちをいかに一人の人間としてどう償うのか
〈2〉失われていた物証と証拠の改竄
〈3〉無実の人を殺してしまった日本の裁判所
〈4〉死刑判決の理由は、全部間違いだった
〈5〉裁判官は、「エリート」であればあるほど最高裁に「忖度」する
〈6〉日本の再審制度を変えていかなければいけない
▼徳田靖之(とくだ・やすゆき)
弁護士。1944年4月大分県別府市生まれ。東京大学法学部卒。1969年弁護士登録。大分県弁護士会所属。「らい予防法」違憲国家賠償請求訴訟西日本弁護団共同代表、ハンセン病市民学会共同代表、薬害エイズ九州訴訟共同代表。飯塚事件弁護団共同代表
▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58