10月23日、名古屋高裁金沢支部は、福井女子中学生殺人事件の第二次再審請求審で再審開始の決定をだした。検察が控訴する可能性もあるが、弁護団は本当に頑張ってここまで闘ってこれたと驚く。というのも、桜井昌司さんや青木恵子さんから聞いたのだが、再審請求人の前川さんは弁護団と折り合いがあまり良くないと聞いていたからだ。しかし、ここにきてこれまでのいろんな対立感情も少しおさまればと願っている(事件の詳細は弁護団への取材後に報告したい)
◎[参考動画]【速報】福井女子中学生殺人事件 再審認める決定 名古屋高裁金沢支部(日テレNEWS 2024年10月23日)
38年前、福井市の女子中学生が卒業式の日の夜、自宅で非常に惨殺な殺され方をした。被害者は地元の不良たちとトラブルを抱えていたこともあり、リンチされたのではないかと思われた。しかし、犯人逮捕のめどがつかない。そんななか前川さんが逮捕されてしまう。
そこに至るいきさつは複雑だ。別件で逮捕されていた地元のワルで暴力団組員Yが警察官に「犯人をしらないか」と聞かれ、犯人がわかれば、自身の刑が軽くなるのではと考え、知人に「犯人知らないか?」などと手紙していた。つまりYは犯人を知らないのだ。しかし、どうにか刑を軽くしたいYは、同じく当時シンナーを吸ってたりした後輩の前川さんに犯人役を押し付けようと企む。犯人は被害者がその時間1人でいたことを知っていた可能性があるため面識がある人物と思われてきた。しかし前川さんその被害者と面識がなかったのだ。
犯人逮捕に至らず、世間の非難を浴びる警察も、なんとか前川さんを犯人にしたてようとYの嘘の供述から、次々と関係者の嘘の供述をとっていく。
途中例えば「そうだCはあの喫茶店の場所をしらないんだ。ならば、Oを引っ張りこもう」と関係者がどんどん増えていく。警察に呼ばれた連中の多くは薬に手を染めたり、恐喝したりとスネに傷持つ者だから、警察に逆らえず、どんどんYと警察の作ったストーリーに沿った供述を行っていく。
ただし再審開始の決定書では、主に6人の関係者の供述などに絞っていく。 当日、犯行現場に前川さんを車で送ったというTは、車に戻ってきた前川さんの右手に血がついていたうえ、犯行をほのめかされたと供述。Iは事件当夜、Yに呼び出された先で、胸のあたりに血をつけていた前川さんを見たと供述。決定的な証拠がないなか、前川さんには一審て無罪判決が下されたが、検察が控訴し、二審では他を含む6人の供述が概ね一致しているとして懲役7年の実刑判決がくだされ、前川さんは服役してきた。
Iは、当初検察側証人として確定判決に沿う証言をした。事件当日はy田(Yとは別人)の家で「夜のヒットスタジオ」を見ていたが、アンルイスが歌う後ろで吉川晃司が腰を振るいやらしい場面(「本件場面」)があり、2人で「いやらしいな」と感想を言い合っていた。その後Yから電話があり、呼ばれた場所に行くと胸のあたりに血がついている前川さんを見たと証言。その後、Iの証言は事件当夜はm男とうどん屋に行き喧嘩をみた。そのあと、本件事件の検問を受けたと証言した。さて、どちらが正しいのか?
確定判決は、Iの最初の供述の信用性を認めた。理由のなかで「夜のヒットスタジオ」が事件当日夜に放送された事実を認定していた。警察の捜査報告書には「夜のヒットスタジオ」が、事件のあった3月19日に放送されたと記載されていた。なお、テレビ局への照会は、検察が前川さんを起訴した後、補充捜査の一環として警察に指示しておこなっていたのだった。
今回の再審請求審で、弁護団が新たに検察に開示させた証拠のなかにその報告書があった。そしてテレビ局に対する照会結果などによれば、その放送は3月19日ではなかったことが発覚した。どういうことや?
一方、y田は夜のヒットスタジオでいやらしい振り付けのアンルイス、吉川の共演を一緒に見たのが誰だったか、最初は思い出せていないことがわかった。しかも一緒に番組を見ていたIとはそれほど親しい関係でなかったことも……。しかし、いやらしい「本件場面」を見たあとに、Yから呼び出されたことから、それほど仲の良くない2人が一緒にいやらしい「本件場面」をみていたことにされていたのだ。
Iは取り調べの初期段階で、当夜はツレのm男とうどん屋に行き、そこで喧嘩をみた。そのあとに、殺人事件関連の検問をうけたと供述したのに、M警察官は「m男はうどん屋で喧嘩を見たのは別の日だと言ってるぞ」とその供述を受けつけてくれなかった。新証拠によって、例の「本件場面」が放送されたのは別の日だと判明したことから、Iらが警察官の誘導で、ありもしない体験を述べる供述が作成されていたことが判明した。
実はIは、一審で前川さんが無罪になったあと、再びM警察官に呼ばれ、Iの覚せい剤事件を見逃すことを条件に、再度血のついた前川さんを見たとの証言を行わされた。Iは今回の再審請求審では弁護側の証人となり、その事実を証言した。M警察官の車に乗り出廷した控訴審の証人尋問のあと、M警察官に食事やスナックを奢られたうえ、結婚する際には祝儀をもらったとも証言、M警察官の名前が入った祝儀袋を証拠提出した。
それにしても、148頁にも及ぶ再審開始決定書のなかで、これだけ頻繁に「夜のヒットスタジオ」「アンルイス」「吉川晃司」が引用されるのは珍しいことだ。一方で、これもまた分厚い2年前の再審請求書には、「夜のヒットスタジオ」云々は全く触れられていない。なぜかというと、画定審では、その後前川さんの着衣などに血がついていることを目撃したIは、一緒にいたy田とアンルイスと吉川のいやらしい共演を見たあとに、Yに呼び出され、そこで血のついた前川さんを見たとなっていたが、いやらしい場面(本件場面)が放送されたのが3月19日と明確になったことも大きな理由として、主要関係者の供述や証言は嘘でないとされたのだった。そして前川さんは有罪とされていた。
しかし、当時のテレビ番組を知っている人はご存じだろうが、「夜のヒットスタジオ」は当時流行った曲を歌う歌手が登場する。だから当時ヒット曲を出していたアンルイスも吉川もたびたび登場していたのではないか。ただし、アンルイスが「六本木心中」を歌いだし、2番目を歌いだした際、吉川を呼びつけ、例のいやらしい振り付けで競演するというパフォーマンスは、3月19日の放送ではなく、翌週3月26日の放送だったのだ。しかも19日、「夜のヒットスタジオ」でアンルイスが歌ったのは「六本木心中」ではなく「あぁ無情」だったし、この日吉川も出演しているが、アンルイスとは共演していない。テレビの番組表だけをみれば、出演者欄に「アンルイス、吉川晃司」と書いてある。
私は知らなかったが、あのアンルイスと吉川のいやらしいパフォーマンスは当時テレビを見ていた人の中ではかなり刺激的で強烈に記憶に残っていたようだ。今でもxなどで検索すればでてくる。
◎[参考動画]伝説のデュエット【六本木心中】
それにしても、警察、検察も酷いことをするもんだ。冤罪を作り続ける現場の連中も、部下に性的暴行をはたらく上のやつらも……。そしてこんな私のところには冤罪犠牲者の方々から連絡がくる。拘置所、刑務所から手紙がきたり、人を介して連絡がきたり。先週も北海道の拘置所から手紙をくれた方がいた。多くの人は「私も冤罪です。取材してください」だが、彼は「『日本の冤罪』を読んで感動しました。私も冤罪で現在控訴中です。冤罪関係のどんな本を読むのがお勧めですか」だった。
冤罪は、大きいも小さいも関係なく、その人や家族、関係者の人生を大きく変えてしまう。連絡下さったすべての方々のお話を聞きたい。一生かけて聞いていかなくてはならない。冤罪を晴らしていかなくてはならない。
◎[参考動画]38年前の事件で7年服役 前川彰司さん(59)裁判所が再審認める判断 目撃証言の男性「うその証言をした」などの証拠 福井・中3女子殺害事件(TBS 2024年10月23日)
▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58