11月5日執行された米国大統領選挙でドナルド・トランプさん=共和・元職=がカマラ・ハリスさん=民主・新人=を破り、返り咲きました。
いわゆる激戦州でも思ったよりトランプさんがハリスさんに差をつけたな、と思いました。差がついた要因は、「イスラエルのネタニヤフ被疑者によるパレスチナ大虐殺・レバノン侵略」でしょう。
◆米国人の間にも反発広がるネタニヤフ被疑者の蛮行
アラブ系の有権者や、アラブ系でなくとも若者の間には、ネタニヤフ被疑者が「10・7」のハマス政権による越境攻撃を口実に、ガザなどパレスチナでの大虐殺を加速し、さらにレバノン侵略も進めていることに強い反発が起きています。広島でも、原爆ドーム前でFree Palestineのスタンディングを呼び掛けているのはユダヤ系米国人の30代の若者(広島市立大学の大学院生)です。
米国はドイツと並んで国際社会におけるイスラエルの最大の後ろ盾です。しかし、そんな米国でも若者がイスラエルに反発しているというのは、上記の原爆ドーム前の動きから、広島にいても感じました。そして、米国では若者ほど民主党支持が多く、年配者ほど共和党支持が多い傾向はあります。
◆やけくそでトランプさんへ流れた? パレスチナ虐殺反対派
ところが、今回、若者が民主党から離反。やけくそでトランプさんに投票してしまった人も多いようです。アラブ系の中でも、最後まで迷った挙句にトランプさんに投票した。そういうことが、いわゆる激戦州で、予想外にトランプさんが勝った背景にあるでしょう。
もちろん、トランプさんもバリバリの新イスラエル。前回の任期中、駐イスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移すという暴挙を行っています。エルサレムはユダヤ教の聖地でもあるが、イスラム教の聖地でもあり、キリスト教の聖地でもあります。デリケートな問題があるから、日本も含む各国はテルアビブに大使館を置いているのです。それでも、トランプさんにアフリカ系も含む若者やアラブ系も結構投票してしまったわけです。
◆パレスチナ虐殺反対派の若者に横柄な態度が致命傷のハリスさん
わたしは、ハリスさんが、パレスチナ虐殺反対を叫んで抗議に来た若者たちに対して、横柄な態度を取ったニュース映像を見て、トランプさんの勝ちを確信しました。あんなことを言われたら、誰でもカチンと来ます。全米でパレスチナ虐殺反対派がトランプさんに雪崩を打ったのではないでしょうか。
確かに、一応、ハリスさんもネタニヤフに対して停戦合意は呼びかけてはいる。だけれども、武器はなんだかんだ言って送り続けているわけです。実効性を上げているとはいいがたい。その上で、無礼な発言。
筆者はトランプさんが良いと言っているのではありません。トランプさんは、前回の大統領選挙で敗けた後、支持者が連邦議会議事堂を襲撃する事件を止めなかった。クーデターを起こしかねない、そういう男です。
しかし、あまりにもハリスさんがパレスチナ問題を憂える若者たちの神経を逆なでしすぎた。彼らの数は少ないかもしれないが、接戦の激戦州でハリスさんに致命傷を与えるには十分な力を持っていたのです。
◆米国民主党政権と広島 原爆投下と広島への謝罪・反省なき和解
さて、今回の結果は、平和都市としての広島にはどういう影響を与えるのか?その前に、民主党政権と広島のかかわりを振り返っておきたい。
広島に原爆を投下したのは米国民主党政権です。そもそも、伝統的に、民主党の方が、「人権派」ではあるが〈相手国を人権を尊重しない野蛮な連中とみなした〉場合には、むしろ共和党以上に武力でせん滅する。そういう傾向が強いのではないでしょうか? なお、共和党政権でもジョージ・ブッシュ・ジュニア(任期2001-2009)は、いわゆるネオコンであって、民主党の上記のような部分をパクっています。
民主党は現代でもLGBT推進でもありますが、それによって、中東一のLGBT推進国家でもあるイスラエルを持ち上げてしまうという弱点もあります。
そして、最近、米国民主党政権は広島・長崎に対する〈謝罪・反省なき和解〉を推進しています。すなわち、2016年にはオバマ大統領が来広しました。しかし、オバマは平和記念公園で〈死が空から舞い降りてきた〉という表現でまるで他人事のような挨拶をしました。そのオバマ政権ですが、ヒラリー・クリントン国務長官はネオコン的であり、アフガンやシリアへの空爆を推進したのです。
そして、2022年、G7広島サミット開催が決定すると、急激に広島では米国への忖度が強まりました。たぶん、トランプさんが大統領だったら、そこまで忖度にはならずに淡々と進めた可能性もあります。これは、エマニュエル駐日大使が、平和記念公園の原爆慰霊碑に献花するなどの一定の「どぶ板」も奏功したと思われます。
広島市は、バイデン大統領に忖度してか、はだしのゲンや第五福竜丸を平和教材から削除。そして、過剰警備や法的根拠のない立ち入り禁止区域設定など、戒厳令のような状態を広島に敷きました。そして、広島市の松井市長はエマニュエル駐日大使の要求に応じて、パールハーバーと平和記念公園の姉妹協定を結んでしまいました。
米国は何も〈反省も謝罪もしていない〉のに姉妹協定。これは、広島が核兵器使用を許してしまったと受け取られかねません。ひいては、ロシアや中国などが核で威嚇することを後押ししかねません。重大な誤りです。
また、広島市の松井市長は2022年の平和記念式典からはロシアを招待していません。これも表向きは式典の円滑な実行の妨げになる恐れがあるから、ですが、実際には米国への忖度で間違いないでしょう。自分でやらかした核兵器使用を正当化するために広島を取り込む。これが民主党政権の姑息なところです。大統領がトランプさんに代わったことで、いい意味で広島が米国政府と距離を置く。これは悪いことではないでしょう。
◆中東停戦や米朝緩和、「有言実行」にさせよう
中東での停戦を当選前からトランプさんは実現すると明言しています。戦火が西岸地区やレバノンにも広がる中、公約をきちんと実行するように広島からも声を上げていきたい。
また、米朝首脳会談を実現した実績を強調し、朝鮮半島和平にも積極的です。これをうまく日本も生かしていけば朝鮮戦争の終戦、ひいては東アジアの平和、非核兵器地帯条約などにつながります。
中華民国の民進党政権に対しては、トランプさんはバイデン大統領よりは冷たいと見られますが、逆に言えば、下手に「台湾独立」で中華民国の民進党政府が暴走するリスクはこれで減ります。そもそも、米国も日本も中華人民共和国が中国を代表する唯一の政府と認定しているわけです。そんな中で、自衛隊を送るだの、台湾有事に関連して日本が敵基地攻撃を行うだの、そもそも、あり得ない話です。しかし、バイデン政権下ではそういうことが煽られてきました。日本は引き続き、専守防衛を維持しつつ、外交努力を進めていくべきです。
もちろん、人権や環境の面でトランプさんはいろいろ問題があります。それについては、ここでは詳しくは触れません。ただ、民主党は民主党で、その人権とは、米国と旧白人帝国主義国家くらいの範囲の人権でしかない。例えばアフガニスタンやシリアの民衆は平気で殺すわけです。戦争は最大の人権侵害であり環境破壊です。
◆二大政党制は人類を平和にするのか?
そして、そもそも、「ハリスかトランプ」しかない事実上選択肢がない、二大政党とは本当に人類を平和にするのでしょうか?そのことを強く問いたい。日本の衆院選でも、二大政党以外が大きく躍進しました。人々の価値観が多様化する中で、いかに、民主的に物事を進めていくか。どういう仕組みにしていけばいいのか?そのことも皆様と一緒にこの広島から考え、また提案をしていきたいと思います。
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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