斎藤元彦・兵庫県知事(写真右のガッツポーズしている男性、折田楓社長NOTEより)。
渡瀬元県民局長(2024年7月自死とみられる)による内部告発文書について自ら犯人探しをしてしまうなど、公益通報者保護法の趣旨に反する行動から議会による不信任案可決で失職。しかし、2024年11月17日執行の兵庫県知事選挙で劣勢の下馬評をひっくり返し、〈逆転勝ち〉しました。
10月に入ってSNSでは、#さいとう元知事がんばれ というハッシュタグが流行。また、筆者が斎藤元彦知事の疑惑を追及する動画などを投稿すると、アクセスが殺到し低評価が大量につくという状況がありました。
斎藤知事=既得権益と闘う正義の士=ネットで真実を探し当てた市民vs稲村候補=外国人参政権推進の極左、大半の自民党系市長が推す既得権益=テレビなどオールドメディアという構図が、ネット上で出来上がりました。そもそも、冷静に考えれば、極左と自民党など水と油なのですが、そんな論理矛盾もお構いなしに、事実と異なることがあっという間に広がりました。
◆県の仕事をしている社長がフルコミットした斎藤選挙
選挙後、これは何だろう?と思っていたのですが、その種明かしを、仕掛け人自らがネット上でしてしまいました。その仕掛人とは、株式会社merchuの折田楓社長です(写真のガッツポーズしている女性。)。折田社長は、斎藤陣営の広報全般を仕切っていたことをご自身のノートで報告しました。ホームページなどによると折田社長は1991年生まれ。フランスESSEC大学留学 後 慶応義塾大学をご卒業され、フランス大手金融機関に勤務。きらびやかなご経歴です。その後、母親の会社を手伝いながら、株式会社merchu創業されたとのことです。
斎藤知事が就任された 2021年より兵庫県地方創生戦略委員、2022年より兵庫県eスポーツ検討会委員、2023年より兵庫県空飛ぶクルマ会議検討委員 をされているほか、会社のある西宮市で産業振興審議会委員もされています。兵庫県、広島県、山口県、徳島県、高知県、神戸市、藤沢市、倉敷市、広島市、江田島市、由布市、株式会社リクルートや有馬グランドホテルなど、これまでに150以上の行政・企業・団体の広報・PRを手がけておられるそうです。
その折田社長のもとを斎藤知事自ら訪れ、会議を行われたそうです。プロフィール写真撮影、コピー・メインビジュアルの一新、斎藤知事を応援するSNSアカウント立ち上げ、「#さいとう元知事がんばれ」ハッシュタグをはやらせること、などを立案・実行。
選挙期間中には折田社長が「私が監修者として、運用戦略立案、アカウントの立ち上げ、プロフィール作成、コンテンツ企画、文章フォーマット設計、情報選定、校正・推敲フローの確立、ファクトチェック体制の強化、プライバシーへの配慮などを責任を持って行い、信頼できる少数精鋭のチームで協力しながら運用」されたそうです。
◆事実なら買収罪か規制法違反が成立 「詰み」の状態
とにかく、委員会の委員など県の仕事をされている社長が斎藤元知事(当時)の選挙運動を必死でされたわけです。それも広報全般を請け負ったということです。SNSの広報は、これは、代価を受け取った場合は、公選法違反になります。車上運動員、運転手、事務員以外の給料=報酬が発生すればアウトです。他方で、折田社長がやった仕事は、どうみても、社員を一か月半動員しています。無償でやった場合は、労務の提供になる。おそらく、1000万円くらいの仕事になるだろう。個人が政治家にできる寄付の上限は150万円です。政治資金規正法でアウトになります。
また、委員など県の仕事を継続できることと選挙運動が引き換えだった場合も公選法上の買収罪が成立しかねません。いずれにせよ、斎藤知事も折田社長も将棋で言えば「詰み」です。
斎藤知事は、現時点では「法に触れることはしていない」としておられます。しかしそうなると、折田社長の公表した記事とどう見ても矛盾してきます。折田社長と斎藤知事。どちらが正しいのでしょうか?あるいは、どちらがどの程度嘘を言っているのか。特に公職にある斎藤知事には説明責任が求められます。
◆前提「斎藤=既得権益と闘う正義の士」は本当か?
ネット上では斎藤知事の支持者により、折田社長に対する困惑のコメントも相次いでいます。既得権益と闘う正義の士・斎藤知事の足を引っ張るな、と言う趣旨です。しかし、そもそも、斎藤知事の支持者の皆様の既得権益のイメージが古すぎるのではないでしょうか?
既得権益と言うと、一定年齢以上の方は、土建屋さんとか公務員とか、そんなイメージの方が多いかもしれません。それは、自民党よりも、どちらかというと、いわゆる野党やマスコミによって煽られていた面もあります。
しかし、今は、原材料費の高騰や賃金の高騰などで、土建屋さんも大変です。公務員も、昔のような(給料が安い代わりに)楽な仕事でもない。
この10年くらいで随分と地方行政における意思決定過程も変わっています。米国など外資系の企業に近い首長(広島県の湯崎英彦知事もその典型例)とか、広島で言えば、平川理恵・県前教育長や今回登校する折田社長のように、きらびやかな海外経歴の女性・若手の「躍進」が目立ちます。言い換えれば、政治・行政の米国化が進んでいます。
むろん、まだまだ、昔風の特に年配男性のエライ人も健在ではある。そういう中で、実際には、地元で地道に頑張っていたようなタイプの中堅・若手、すなわち、多数派を占める人たちが意外と割を食っている感じがします。そうした中で、割を食った中堅・若手がアホらしくなって県外へ流出する、そういう構造が広島でも起きています。広島の教育現場でも現場の先生が平川氏の「改革」に振り回された後遺症に悩まされています。
そうした構造を把握した上で、行政・政治を批判していかないと、あるべき方向と明後日の方向に兵庫も広島も日本も向かいかねません。ちなみに、折田社長は、広島県や広島市でも仕事をしておられます。折田社長的な人たちに県や市の仕事をしていただいていて、本当に広島のためになっているのだろうか? 広島市民・県民、また市議や県議の皆様にも改めて注意を喚起する次第です。
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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