12月11日、防衛財源を確保するための増税について、政府・与党は、法人税は2026年4月から、所得税は2027年1月から実施するなどとした案をもとに、検討を進めるとの報道がされました。検討案では、それぞれ「防衛特別法人税」、「防衛特別所得税」という名称となっています。
だが、そもそも、防衛増税の前提となる事実についてきちんとした議論が行われているのでしょうか?
とくに「台湾有事」については、日本が巻き込まれる前提で、「それを防ぐために中華人民共和国を攻撃できる武器が必要」という話になっています。それは妥当な議論なのでしょうか?そのこともなしに、増税を前提とした議論が進むことに危惧をおぼえます。筆者は大まかに以下のように考えています。
・防衛増税の前提は「台湾有事」
・しかし、そもそも日米両政府とも中華人民共和国を唯一の中国を代表する政府とみなしている。
・ゆえに日本が台湾問題に軍事介入するのは国際法の根拠がない。
・もちろん、戦闘になれば国際人道法に反する状態が起きるのは必定。中華人民共和国が欲しい半導体工場も壊れてしまう。日中双方にいいことはない。
・かつて、日本は倭国だった時、九州北部に首都があり、旧地である朝鮮半島南部奪還を狙っていた。
・百済滅亡のどさくさに紛れて、斉明帝(実際は皇極帝重祚ではなく、間人皇女即位ではないか?) 百済王を助けると称して白村江の戦をやったが百済王が逃亡し、倭国は大敗した。
・旧領土を取り戻そうという下心が判断を狂わせたのではないか?
・現代においてもその愚を繰り返してはならない。
・台湾は確かに80年前までは日本領だった。だけど、未練は捨てるべき。
・日本自身の経済再建と東アジアの緊張緩和に注力すべき。
◆防衛増税の前提は「台湾有事」
防衛増税の是非の前に議論しておかなければいけない事があります。いわゆる「台湾有事」が、岸田総理以来の軍拡の大義名分になっています。「中華人民共和国が台湾に侵攻する際に米軍が台湾防衛に動き、それを防ぐために中華人民共和国が日本も攻撃してくる。それを抑止するために日本も中華人民共和国本土を攻撃してミサイルを破壊する力を持たないといけない。」おおざっぱに言えば、こうした理屈で防衛増税を正当化するわけです。
◆日米とも「中華人民共和国」が中国を代表する政府と認めている
そもそも、日本国政府も米国政府も、公式には中華人民共和国が中国を代表する唯一の政府だと認めています。従って、「中華人民共和国が台湾へ侵攻」と言う言い方も実は正確ではない。
例えば、1970年、当時、日本を代表する作家であった三島由紀夫が防衛庁に侵入・人質を取って籠城してクーデターを自衛隊員に呼びかけた上、切腹自殺するという事件がありました。極論すれば、中華人民共和国が台湾を軍事力で実効支配しようという行動は、三島事件の時に日本の警察が防衛庁に突入して三島を取り押さえるのと極論すれば法的には大差がないともいえるのです。
百歩譲って日本国が軍事介入するにしても、中華人民共和国への国家承認を取り消して中華民国(台湾を実効支配している勢力)を承認する手続きをしてからです。そうしないと筋が通りません。
なお、米国もいわゆる台湾関係法で台湾支援をするはず、という議論はありますが、あくまで、中華人民共和国への牽制球と言う側面が強いのではないか?特にトランプ次期大統領が本気で台湾を軍事支援するとも思えません。
◆習近平主席にとってもリスクが大きすぎる「武力による台湾実効支配確保」
ただ、大規模な武力行使になった場合には、当然、多大な犠牲が民間人に出ることは必然です。この点について、あくまで国際人道法、人権の観点から、そういうことがあってはいけない、したがって、平和的に問題を中国内部の話し合いとして解決してください、というのがせいぜい、日本が含む外国が取れる態度です。
国際人道法違反を犯せば、ICCによって習近平国家主席に逮捕状が発行され、随分中国の外交は制約される可能性も高い。これはプーチン大統領やネタニヤフ首相に逮捕状が出たことからも明らかです。さらに、戦闘が行われれば中国が欲しい半導体工場も壊れてしまいます。台湾との貿易(国際法上は国内の商取引)にもそれなりに依存している中華人民共和国がそう安易に武力行使すると言うことは考えにくいのです。
◆50年間の台湾領有で「取り戻したい」というバイアスが日本にないか?
もう一点、申し上げたいのは、1895年から50年間、日本は台湾を植民地としていました。そのことが、台湾有事に日本が介入すべし、的な議論のバックにあるのではないでしょうか?かつて、植民地だったからこそ、どこかに介入したい的なバイアスがかかってはいないでしょうか?
◆白村江の戦い ── 旧領回復狙って大惨敗
歴史は繰り返すと申します。日本は7世紀に大きな過ちを犯しています。それは白村江の戦いです。わたしたちが学校で習った日本史では以下の通りです。
倭国の大和朝廷が朝鮮半島に4~6世紀に進出し、百済と結びつつ任那を支配していたが、任那の日本府滅亡で追い出された。そして、百済が唐と新羅に滅ぼされると中大兄皇子=天智帝はこれに対して百済王子余豊璋を支援して出兵するも663年、白村江で大敗した。この原因の一つが、百済王の余豊璋がパワハラ男で、さらに決戦を前に逃げ出したということもあったのです。ともかく、慌てた中大兄皇子は飛鳥から近江の大津に遷都した。そして律令国家の建設を急いだ。
◆実際は九州本拠の倭国
だが、筆者は実際には白村江の戦い時点では、倭国を代表する政権の首都は九州北部にあったと考えています。というのも、敗戦後に「飛鳥から大津に都を移転して脅威に備えた」というのは地理的に見て、合点が行かないのです。
日本書紀にもあくまで「倭京」から「大津」に遷都したとしか書いていない。実際には、九州北部の「倭の都=倭京」にあった政権の一部が、大敗に慌てて現在の滋賀県大津市に逃げたとみるべきでしょう。
既に近畿地方は大海人皇子をトップとする地方政権の支配が確立していたのではないか。大海人皇子の勢力圏に間借りする形で、一応当時は日本列島を代表していた倭国の大友皇子こと大友帝が実は敵前逃亡していた百済王の藤原鎌足とともに執務を取っていたのではないか、と筆者は考えています。
なお、近畿を本拠の中大兄皇子の天智天皇という存在は実在が疑わしいとみています。というのも天智天皇の伝説はむしろ九州地方に多くあるからです。
◆斉明帝が戦死?! 高市帝が捕虜?! になる大惨敗
この白村江の戦いでは、斉明帝が自ら出向くも急死したことになっています。筆者は、実は斉明帝が流れ矢に当たって戦死した可能性を考えています。もうひとつは、斉明帝自体は、敗戦後しばらくして、不満を持った臣下に暗殺された。
他方で、実際に政務をとっていた男性=実質的な王が捕虜になり、政府が機能しなくなった可能性を考えています。その男性は、高市皇子=実際には後年、帝に即位していた=だったと筆者はみています。
その根拠は、柿本人麻呂が高市帝に送った挽歌です。人麻呂が送った挽歌としては最長です。壬申の乱で活躍したことへの挽歌とされるが、悲惨な印象を受ける。悲惨な戦いと言えば白村江の戦いです。
◆壬申の乱から長屋王の変へ 九州王朝倭国完全打倒への道開いた白村江の戦い
その高市皇子が、唐によって解放された。その理由は、近江の大友帝の政権が唐に反抗的だったので、それを転覆する目的だったのではないか? それが壬申の乱ではないか?
実際、大津を占領し、近江政権の関係者の処罰をしたのは高市皇子でした。実は現役の帝の大友も含めて処断する権限があったのは高市が九州本拠の倭国の内部闘争に勝ったということではないかと推測しています。ただ、これにより、大きく倭国の権威は低下し、大海人皇子率いる日本国が後に倭国から政権を完全に奪う前段階ができたのでしょう。
ちなみに、完全に倭国から政権を奪ったのは文武帝ではないか? 根拠は諡号に〈武〉がついているということです。すなわち、前王朝を打倒したということです。
ちなみに筆者は、高市帝は暗殺され、首を抜かれて首は蘇我入鹿首塚に、胴体は高松塚古墳に埋葬されたと推測しています。高松塚古墳の被葬者は不明ですが、高市が帝だったとすれば、高市帝の可能性が高い。そして高市帝暗殺事件を、蘇我入鹿が暗殺されたいわゆる大化の改新にすり替えたのではないか? 大化の改新で導入されたとされる「郡」と言う表記も実は、高市帝の時代=新益京=藤原京で出土した木簡では「評」でした(大昔の東大入試にも登場)。
その文武帝も〈文〉がついていることから暗殺された可能性は高い。例えば、文徳帝は暗殺されたから、文が入っているのではないか。〈安〉とか〈文〉とか〈徳〉とか〈仁〉とかついている帝はたいてい、非業の最期を遂げています。文武帝を暗殺したのは母親の元明帝と藤原不比等の可能性も強い。
そして、聖武帝の時、高市帝の息子の長屋親王(歴史の教科書では長屋王とされているが、安倍晋三さん暗殺現場の近くの屋敷から発掘された木簡は長屋親王であり、天皇しか食べることが許されていなかったアイスを食べていたことから一定の権力を残していたとみられる)を打倒し、九州倭国を完全打倒したので、〈武〉がついているのだと推測しています。
ただ、その直後に「奈良時代の新型コロナウイルス」ともいえる天然痘で藤原氏の大物が全滅。恐れた光明皇后が過去に自分たちが滅ぼした権力者を聖徳太子と言う形でひとまとめにして、鎮魂の目的で法隆寺をリニューアルしたのではないか? と筆者は考えています。
さらに言えば、桓武というのも百済系の桓武帝が天武系の前王朝を倒した証拠で、いったんおとなしくなったはずの? 東北で反乱がおきたのは実際には全国各地で王朝交代による動揺があった証拠ではないでしょうか?
◆失地回復戦の白村江
とにかく、白村江の戦は、実は失地回復戦として行われたのです。どさくさに紛れて、本拠地の九州北部と目の鼻の先でついこの間まで一部は領土だった朝鮮半島南部を取り戻してやろうと。それで出兵したとみるのが自然な流れです。唐とまともに戦って勝てるわけない。失地回復を目指すバイアスが当時の斉明帝の判断を狂わせたのではないか?そして、戦の直前、百済王は姿をくらましました。
なお、白村江の戦の前には蘇我倉山田石川麻呂討伐事件、有馬皇子誅殺事件、孝徳帝が難波に置き去りにされて亡くったとされる事件なども起きています。これは、朝鮮半島の失地回復をめざす勢力が、朝鮮半島ではなく、東方への勢力拡大を図る孝徳帝らを暗殺したクーデターと筆者はみています。このころの難波は、倭国の東方拡大用のもう一つの都だったと思われます。
白村江の戦いの直前、斉明帝が亡くなると、中大兄皇子や大海人皇子は飛鳥に帰った、というのが学校で習った歴史ですが、これは、もともと、斉明=実際には間人皇女=が九州の政権の帝だったという事だと筆者は解釈しています。そして、飛鳥以東に勢力を持っていた人たちは九州北部の帝の斉明帝の命令で九州に来ていたが、途中で勝ち目がないのでサボタージュしたということではないのか?こうした中、斉明帝自体が無茶な戦に反対する部下に暗殺された可能性すらあるとみています。また、逃げ出した百済王とは大津に逃げ延びた藤原鎌足ではないかとも思っています。
さて、白村江の戦自体は倭国が惨敗。このことをきっかけに、九州北部から近畿へ日本の中心が移っていった。 日本列島の為政者は朝鮮半島の失地回復ではなく、関東や東北の支配を固めていく方向に転換したのではないでしょうか?
◆経済の再建と緊張緩和こそ現代日本の進むべき王道
さて、現代日本のあるべき失地回復とは何か?それは経済をきちんと立て直すことです。
ところが、台湾と言う旧領土を取り戻そうという下心が、日本国の為政者の判断を狂わせているのではないか?と心配です。それは、朝鮮半島という旧領土を取り戻すという、663年当時の斉明帝の判断の狂いと似ているのではないか? ちなみに、善光寺には皇極帝が地獄で鬼に追い立てられていたという伝説が残っています。
https://www.culture.nagano.jp/special/7329/
「娑婆(しゃば=人間の生きる世界)へ帰ることを許可された善佐は、その途中、鬼に追い立てられて疲れ切っていた女帝・皇極天皇と出会い、善光寺如来に自分ではなく天皇を助けてほしいと懇願します」
実際には白村江の戦のA級戦犯である斉明帝が地獄に落ちた(おそらく暗殺か戦死などの悲劇的末路だった)と言うことではないかと筆者は推測しています。
ただ、不幸中の幸いは、白村江後に唐と新羅が内ゲバを始めたことでした。また当時はミサイルもありませんでした。しかし、現代は違います。それこそ、日本による台湾有事介入は中華人民共和国に対して「日本による侵略に対する反撃」と称した日本攻撃の口実を与え、日本を滅ぼしかねません。
何にせよ、今、日本政府がやるべきことは、ことさらに台湾有事を煽るのを止めることです。もちろん、日本国政府はパスポート代として邦人保護費用を徴収しています。従って、万が一に備えて、危機管理として日本人退避などをシュミレーションするのは当然です。ただ、それはどの国についても同じことです。お隣の韓国でさえ、大統領のユンソンニョル被疑者によるクーデター騒ぎがありましたし、米国だってこれからはわかりません。
筆者が申し上げたいのは、変に「台湾独立」を叫ぶ人を勇気づけ、問題をこじらせることを日本の為政者はすべきではない、ということです。確かに台湾の人たちは親日的と言われてはいる。他方で、台湾を支配する政府も尖閣諸島の領有を主張しています。こうしたことをきちんと正面から議論すべきではないでしょうか?それもなしに雰囲気だけで、防衛増税?冗談ではありません。
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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