「香害、すなわち化学物質過敏症」の誤り、1月に2つの判決、横浜副流煙事件 黒薮哲哉

来年2025年の1月に、横浜副流煙事件に関連した2つの裁判の判決が下される。詳細は次の通りである。

■作田学医師らに対する「反スラップ」裁判

判決の日時:2025年1月14日(火)13時10分
法廷:横浜地裁609号法廷
原告:藤井敦子、藤井将登(代理人弁護士・古川健三弁護士)
被告:作田学、A夫(係争中に死去したために、現在は請求対象にはなっていない)、A妻、A娘

■作田学医師に対する名誉毀損裁判

判決の日時:2025年1月22日(水)13時10分
法廷:東京地裁806号法廷
原告:藤井敦子、酒井久男(山下幸夫弁護士)
被告:作田学

これら2つの裁判の経緯は、2016年まで遡って、別稿で詳しく説明しているので、参考にしてほしい。事件の全容をコンパクトにまとめている。
[別稿]事件の概要 

◆香害=化学物資過敏症という従来の考え方の誤り

この事件で中心的な位置を占めている藤井将登さんが、隣人家族から、「煙草の副流煙により健康を害した」として、約4500万円を請求する裁判を起こされたのは、2017年の11月だった。筆者がこの事件にかかわるようになったのは、その1年後である。マイニュースジャパンから記事化を依頼されて、取材したのが最初である。

事件の取材を通じてわたしが得た最も大きな成果は、化学物資過敏症についての見解が変化したことである。軌道を修正した。

元々わたしは、香害=化学物資過敏症という考え方に立っていた。おそらく市民運動と距離が近い週刊金曜日の影響ではないかと思う。確かに両者が結びつく場合はあるが、公害を訴える層の中に一定割合で、精神疾患に罹患している人々が含まれている点を見落としていた。化学物資過敏症の外来を受診する患者の8割が、精神疾患の可能性があると指摘する専門医の証言もある。

横浜副流煙事件の取材を通じで、香害=化学物資過敏症の考え方の未熟さに気づいたのである。一定割合で精神疾患の患者が含まれているというのが客観的な事実である。

実際、化学物質過敏症を自認している人々の中には、第三者からみると、異常な行動をするひともいる。攻撃的な性格で、SNS上で名誉毀損などのトラブルを起こしているひとも少なくない。

横浜副流煙事件も同じ類型の行動様式が引き起こした事件にほかならない。化学物資過敏症の複雑さが根底にある。

事情を複雑にしているのは、香害を訴えに患者の中に、真正の化学物質過敏症患者も含まれている点である。両者の境界線を引くのが、難しく、両者が重複することもある。

こうした状況の下で、化学物質過敏症に取り組む市民団体の多くが、単純に香害=化学物質過敏症という立場を明確にして、運動を展開してきた。一部の医師もそれに協力してきた。香害を訴える患者を、安易に化学物質過敏症と診断してきた。

その結果、客観的な事実を軽視した香害の解釈が社会に浸透したのである。その弊害が典型的に現れたのが、横浜副流煙事件である。化学物質過敏症についての浅はかな見解を前提に、一個人に対して4500万円を請求するに到ったのである。

※本稿は『メディア黒書』(2024年12月13日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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