金沢レインボープライドの奥村兼之助事務局長が逮捕されたのが、2024年3月下旬。それが報道によって明らかにされたのが、6月5日。
その間、二ヶ月以上、金沢レインボープライドは事件を伏せていた。いや、伏せていただけではない。問題の施設「かなざわにじのま」でイベントを開催しつづけていたのだ。
その事実に対し、LGBT当事者の間からは批判の声があがった。
「報道でバレなければ、ずっと隠すつもりだったの?」
「全然、反省してない! あまりにも不誠実!」
「こんなの、地域の人たちに対する裏切りだよ。恥じてほしい」
金沢レインボープライドの公式HPの「かなざわにじのま」のページでは、三つのイベント「にじのまカフェ」「にじのま保護者会」「にじのま相談室」が定期的に開催されていたのがわかる。
「にじのまカフェ」に関しては「性の多様性やジェンダーのお話をする」との説明があるが、特に性別や年齢、性自認や性的指向の制限は定めてはいない交流会のようだ。「にじのま保護者会」は性的マイノリティの保護者の集まり。「にじのま相談室」は「いろんな性について、気軽に相談できます」との説明がある。
どれも悪くはない企画だが、その施設に覚醒剤常習者のゲイが常駐しているとなったら、肌寒いものを感じる。
HPには「かなざわにじのま」のイベントカレンダーもあるが、奥村事務局長が逮捕された3月と翌4月をくらべたら、イベントの数が激減しているのが一目でわかる。
3月は「にじのま営業日」がほぼ毎日だ。その中に、「にじいろカルチャー 楓書法教室」「くるまみ酒場」「金沢泉丘高校探求H班 ワークショップ」や、先述の「にじのまカフェ」「にじのま保護者会」「にじのま相談室」が入っている。
しかし、4月には「にじのま営業日」が月に13日と、半減している。おそらく、逮捕された事務局長がこれを担っていたためだろう。「にじのまカフェ」等のイベントも5件、3日間のみになっている。
そして、5月になると、「にじのま営業日」はさらにまた半減、たった6日だけのオープンだ。
これでは、事件を知らされなかったスタッフたちが「幹部たちの間でけんかでもあったのか?」と疑ったというのも、うなずける。と同時に、彼らの気持ちを思うと、なにやら胸が痛んだ。他のLGBT団体の元ボランティアスタッフが「自分は体のいい奴隷だった」「なにがしろにされ、ただただ無料でこき使われ、搾取されていた」と語るのを、聞いたことがあるのだ。金沢レインボープライドのスタッフがそんな扱いを受けていなかったことを願うばかりだ。
こんな調子では、スタッフだけでなく、にじのまを利用していた地域の人たちも、おかしいと感じたにちがいない。
このスカスカのカレンダーは、2024年12月になっても回復していない。かつてはほぼ毎日だった「にじのま営業日」が12月には5日。他のイベントは4回。
この半端な日数は、自粛しているわけではなく、施設運営がうまく回っていないためだと思われる。二ヶ月強の隠蔽と信用失墜が裏目に出ているのだとすれば、逆に、3月に事務局長逮捕を公表し、謝罪していれば、施設のにぎわいも回復していた可能性もある。
せっかく、クラウドファンディングで750万円も集めて、伝統的な金沢町家を改装し、「かなざわにじのま」としてオープンしておきながら、きちんと地域に貢献できているのか? はなはだ疑問に思う。
とにかく、隠蔽と謝罪とその後の対処が、よろしくなかった。それは、メインイベントの「金沢レインボープライド2024」の開催にも言えることだろう。(つづく)
◎森奈津子 LGBT犯罪録 かなざわシャブのま事件 ── 金沢レインボープライド事務局長が覚醒剤で逮捕
〈1〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=50290
〈2〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=50306
〈3〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=50381
〈4〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=51912
〈5〉https://www.rokusaisha.com/wp/?p=52094
〈6〉https://www.rokusaisha.com/wp/?p=52123
▼森 奈津子(もり・なつこ)
作家。1966年東京生。立教大学法学部卒。1990年代よりバイセクシュアルであることを公言し、同性愛をテーマにSFや官能小説、ファンタジー、ホラー等を執筆。
Xアカウント https://x.com/MORI_Natsuko
森奈津子 LGBTトピック https://x.com/morinatsu_LGBT
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1:「心は女性」を支持する人々へ 織田道子
2:私の講演会はLGBT活動家としばき隊につぶされた 森奈津子
3:キャンセル・カルチャー事例集 井上恵子
4:50人の小説家を巻き込んだ、芥川賞作家による個人情報拡散騒動 斉藤佳苗
5:脅かされる女性・子どもの安全と言論の自由 台湾からの寄稿文
6:私はなぜ「シス」という言葉を使わないのか 千田有紀
7:LGBT問題をめぐる日本の歴史と現状のまとめ 斉藤佳苗
8:女性スペースを守る法律を 滝本太郎
9:少女たちの乳房切除を日本は止められるのか? 森奈津子
10:兵庫県知事選挙とLGBTアライ 繁内幸治
11:LGBT活動家の背後に存在する大富豪たち 斉藤佳苗
12:LGBTQ運動と生殖補助医療の不穏な関係 野神和音
13:私の彼女はトランス女性 山田響子
14:LGBTQSの時代──生得的異性限定の性的指向・スーパーストレート 三浦俊彦
15:「男性」になる、ということ 浅利進
16:性暴力被害者へのグルーミング 郡司真子
17:トランス支援活動評価のための課題:用語集の形で 三浦俊彦
18:性の多様性と社会の在り方 井上恵子
19:書評『LGBT問題を考える』 細川亙
20:書評『マテリアル・ガールズ』 三浦俊彦
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