21世紀も4分の1を過ぎる、2025年がやってきました。広島は被爆80周年を迎えます。世界の大きな課題は、大航海時代を契機に始まり、19世紀半ばには中印やアフリカの植民地化で定着した西洋優位の世界秩序を、破滅を回避しつつどう、転換させるか、ということではないでしょうか?人権侵害や環境破壊、その最悪の形態である内戦を含む戦争を防ぎながら転換するという難しい作業が待っているのです。
2024年末現在、正直、いわゆるG7諸国のデモクラシー=民主制が、どこも〈グダグダ〉になってきています。2024年の各国の国政選挙では与党が惨敗しました。
フランスの議会選挙ではマクロン大統領の与党が惨敗。英国では保守党が惨敗。ドイツでは政権が崩壊。日本でも自民党が歴史的な大敗。そして、最後は、米国民主党が大統領選挙、上下両院選挙で敗北しました。これら一連の流れは、健全なデモクラシーが働いていたと言えます。
だが、各国の情勢を少し詳しく見ると、どこの国でも、一歩間違えると、むしろこれまでよりも悪くなりかねない、下手をすればデモクラシーが終わりかねない。そういう状況があります。
◆〈国徳低下〉へ驀進する欧州諸国、露の選挙介入も加速?
帝国主義の延長線上で移民政策をとってきた欧州ではそれに伴う課題が多く起きているのも事実です。一方で、ロシアがそうした状況に乗じて、欧州諸国内の極右勢力を応援し、実際にバカ受けしています。多くの国が極右政権に代われば、1990年代に消えた東側陣営に続き、西側陣営そのものの意味が消える事態も予想されます。
また、アジアにおける西欧型デモクラシー国家だったイスラエルでは完全にネタニヤフによる独裁と化して、これまで以上の侵略や虐殺を加速させています。まるで、ヒトラーが再来したかのようだ。これをまた、日本以外のG7諸国が必死になって庇いました。長崎平和祈念式典にイスラエルを招待しなかった長崎市長に、日本以外のG7が抗議し、大使を出席させませんでした。19世紀の帝国主義列強による恫喝を彷彿とさせる行動でした。ロシアのウクライナ侵攻は批判してもイスラエルには甘い態度を取ったことは、西洋諸国の〈国徳〉を低下させています。
◆冷戦崩壊よりも大きな長期トレンド〈西洋の没落〉
数百年単位で歴史を見ると、正直、19世紀の植民地主義の時代も終わり、20世紀半ばまでに多くの植民地が独立。そして、20世紀末には新興国が台頭する中で、西洋優位が崩れるのは当然の流れです。なお、西洋の中でも、最初はスペイン・ポルトガルが優勢で、その後は、短期間のオランダ優位を経て英仏優位、その後は米国やドイツ、そしてソビエトの台頭という歴史があります。しかし、ソビエトが冷戦で崩壊。そして、欧州もグダグダ。そして、米国もグダグダになってきたのです。
問題は、その〈着地点〉です。一応、欧米、とくに米国民主党や欧州主流派が掲げてきた人権や環境といった価値を守りつつ、どう、国際秩序?を転換していくか? これが大きな課題ではないでしょうか。
フランシス・フクヤマ教授ら、米国のポストモダニストは、1989年の冷戦崩壊を受け、〈歴史は終わった!デモクラシーの勝利だ!〉と舞い上がってしまったのです。だが、あれから、35年。ご覧の有様です。フクヤマ自身も昨年〈敗北宣言〉ととれる著書を出しています。
ひとつは、環境保護やLGBTはじめ多様性尊重などを一見推進しつつ、新自由主義を進めてきた、この30年のデモクラシー国家内の人々の責任も重いでしょう。その反動がトランプさんとか、欧州の極右になっています。なお、日本でも、例えば、多様性尊重を進めつつ新自由主義も進めてきた立憲民主党への反発は強く、衆院選比例票が伸び悩む背景にあったとみられます。
ただ、結局のところ、旧白人帝国主義の没落と言う数百年単位の歴史の流れと冷戦崩壊と言う数十年単位の流れでは、前者の方が大きかったということではないでしょうか?
◆没落、〈経済失策〉がほぼすべての日本
日本の場合は、西洋とアジアの狭間にあると言えます。日本の場合は、ここ30年間の経済失策が大きい。90年代末にデフレに陥ると、総需要不足が問題なのに、構造改革を叫び、総需要を減らす施策を取った小泉純一郎さん、竹中平蔵さんによる改革が00年代に強行された。民主党政権も、時代に合わせて個人へのセーフティーネット充実を掲げたのは間違っていないけれども、東日本大震災での財源調達方法を誤った。公務員カット、増税。これがさらに過剰な円高とデフレで産業を痛めた。安倍晋三さんが政権に復帰した後、円安にしたが、産業が痛んだあとで、総需要喚起の財政政策も、思い切った産業への投資もなかった。それが現状に響いている。
そうした中で国民民主党とれいわ新選組の躍進と言う2024衆院選になりました。だが、ネット上の国民民主党の一部支持者は、積極財政なき減税至上主義ともいえるスタンスで暴走し、リアルにも一定の影響を与えています。彼らの中には、高齢者切り捨て、さらには、教育無償化反対論まで多く、むしろ自民党以上に新自由主義になる危険もある。低所得の人まで社会保険料だけ取られて手取りは増えずおしまい、になりかねません。
◆広島被爆80周年は〈媚米市政〉から〈横の連携重視〉へ修正を
ともかく、下手をすると、世界は、デモクラシーなき新自由主義者同士の群雄割拠の争いになりかねない。
米独英仏伊など旧白人帝国主義国の権威は落ちていく一方。そうしたものに頼らない形で、労働者の人権を守っていく、環境を守っていく。そういう取り組みがますます重要になっていくのは間違いありません。
こうした中で、平和都市としての広島の役目はどうあるべきか?
まず、特に2023年~24年の広島市政は、過剰な米国忖度、厳しく言えば〈媚米主義〉が目立ったと言わざるを得ません。ずばり、G7広島サミットがその要因です。サミット後には、米国のパールハーバーと平和記念公園の間の姉妹協定を、エマニュエル駐日大使と結んでしまい、具体的な事業が2024年度から動いています。また、平和教育の教材からの〈はだしのゲン〉や〈第五福竜丸〉削除なども、来広するバイデン大統領への忖度だったのは明らかです。
さらに、2024年の平和記念式典では、まるで戒厳令のような厳戒態勢を敷き、エマニュエル駐日大使に広島市長が頭を下げる写真が同大使のSNSで自慢されました。同式典ではイスラエルは招待するもロシアは招待せず、パレスチナも筆者らの署名運動にもかかわらず招待されませんでした。
このままでは、米国などの没落に広島も道連れになりかねない。米国政府とは冷静に距離を置くべきだと考えます。一方で、平和首長会議は自治体の横の連携です。米国含む核保有国にもホノルル市始め、加盟都市はたくさんあります。平和首長会議加盟都市との横の連携を進めていく。また、核兵器禁止条約の動きに見られるように国際政治の主体は国家だけでなくNGOも含まれます。G7広島サミットを背景に、外国人の原爆資料館入館者が増えているのは良いことですが、過剰な米国忖度には未来がないことは肝に銘じるべきです。
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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